外に出ると、さっきよりも風が冷たくなっていた。
まだ日が落ちる時間には早いのに、ずいぶん空気も冷えている。とはいえ日が傾きだした事には変わりなく、つまりこれからどんどん寒くなるだろう。
「遅くなっちゃったかな。寒くないかセイバー?」
「ええ。シロウこそ寒くはないのですか?」
互いに似たような言葉をかわす俺達。それは互いに似たような感覚を持っているからだろう。
たしかに、言われるまでもなく少し肌寒い。もう少し厚着をしてくれば良かったかな、とも思う。家を出た頃は丁度よかったんだけど。
新都のヴェルデには、深山町に置いていないような様々な物が売っている。今日は二人で買い物に来た……まではいいのだが、思ったよりも買い物に時間を食ってしまった。
この時間までには帰るつもりだったから、2人とも若干薄着なのだ。
風邪を引くほど凍えるわけではないが、寒いものは寒い。
「……………………」
なんとなく、彼女を見下ろすと。
コートの袖からちょこんとはみ出す、手袋をした手が見えた。
柔らかそうであたたかそうなセイバーの手。それがなぜだか無性に恋しくなって。
「……………………」
―――うん。ちょうどいい建前もあるし。
彼女と目を合わせないようそっぽを向きながら、そっとセイバーの手を握る。
「っ!」
セイバーが驚いて顔を上げ、こちらを見るのがわかった。でもやはり視線を合わせられない。
「……寒いから、しばらくこうしてようか」
「――――ええ。こんなに寒いですから、少しくらい良いかと」
セイバーも小さく頷いてくれる。
なら、もうしばらくこのままで。
彼女の手のぬくもりを感じながら、俺達は家に向けて歩き出した。
「衛宮士郎にセイバー。こんなところで会うとは奇遇ですね」
歩き出して数分と経たないうちに。
突然横手から呼び止められ、俺達は足を止めた。
「カレン」
「ごきげんよう。二人仲良くお出かけかしら?」
カレンはいつものシスター服姿で手に小さな紙袋を持っている。彼女もどこかへ外出なのだろう。
「ああ。ちょっと買い物に来たんだ」
「ふうん。それで帰りには仲良く手を繋いで恋人気分、というわけ。人目もはばからずイチャイチャするとは、ずいぶんお盛んなのね」
「なっ……! ちが、これは寒いからで!!」
からかうようなカレンの口調に必死で言い訳を口にする。まったく、こいつは毎度毎度、俺達に絡むことが趣味なんじゃないのか。
と。
「――――――――」
なぜかカレンは沈黙する。
その沈黙に俺達も圧され、言葉を口にすることができない。いきなり落ちた無言の圧力がとてつもなく重い。
充分すぎるほどの沈黙をあたりに漂わせてから、カレンはおもむろに口を開いた。
「……一言、言ってもいいかな」
「? あ、ああ」
急にフランクになった、普段とは違うカレンの言葉遣いに戸惑いながらも返答する。
まるで天上の音楽を歌うように、いや、実際カレンは1フレーズを歌った。
「くたばっちまえアーーーーーーーーメン♪」
「シスターの口にすることかよそれ」
歌の一小節とわかっていても、ツッコまずにはいられない。
カレンは粛々と胸の前で指を組んだ。
「よくあの神父が聞いている、どうもお気に入りの曲らしいのです。自分の好きな人が他人と結ばれるという結婚式に招待された女性の恨み節のようですね。
衛宮士郎。貴方のような鈍ちんはそのうちこういう事をしでかしそうで、私はとても楽しみです。ぜひ貴方の結婚式は当教会で挙げてください」
うっとりと夢見る声でカレンは告げる。たしか片思いじゃなくて昔の彼女じゃなかったっけ。どっちともとれる歌詞だけど。
俺はいくらなんでもそんな酷い事はしないぞ。……多分。
っていうか。
「なんで今の流れで、俺が鈍ちんなんだよ」
「――Porcamiseria。知らないとは罪なことですね。いいえ、それとも気づいていないだけかしら。
自らが不幸である事に気付けない者は最も不幸です。貴方たちに神の祝福があらんことを」
胸の前で十字を切って。
カレンは俺達に背を向ける。
……が、数歩行ったところで立ち止まり、振り返った。
「そうそう。今の歌では深く考えず不用意な言葉をかけて、女をその気にさせた男が出てくるのよ。
きっとあの男は今の貴方みたいに、好きでもない女に気のあるような言葉をかけることも、その逆もまた頻繁な、どうしようもない駄犬なのでしょうね」
「なんでさ」
ってかその逆って、何?
「……………………」
セイバーは俺の顔をじーーっと見ている。視線に気づいて目を合わせると、慌ててそらした。
む。彼女は何かに気づいたのだろうか?
カレンはそんなセイバーの様子を見て、小さく笑い、
「セイバー。今の歌の女のように、大人しく黙っていては幸せを逃してしまいますよ?」
「大きなお世話です」
がう、と威嚇する犬みたいに敵意をぶつけるセイバー。
「まあ怖い。では馬に蹴られないうちにそろそろ行きます。ごきげんよう二人とも」
「あ、ああ」
カレンは今度こそ別れの挨拶をして去っていった。
うーん、口を開いてない後ろ姿だと楚々としたシスターなのになあ。中身はまだ父親に比べれば多少なりともマシだが、外見とのギャップは言峰より大きい。なにせあの神父は一目で黒幕とわかる。
まだ少し興奮さめやらぬセイバーは、握ったままの俺の手を引っ張った。
「行きましょう、シロウ」
「あ、うん。ってセイバー、なに怒ってんだよ?」
「怒っているのではありません。カレンが余計な事を言ったので多少迷惑しているだけです。私は現状で充分満足していますから」
「?????」
セイバーの言葉は、どこか謎かけみたいだった。
「おや」
「あら」
見知った顔にまた出くわし、セイバーと相手が声をあげる。
薄紫の髪を一房三つ編みにし、お気に入りなのだろう定番の外出着はデニムのボレロジャケット。
柳洞寺住人の中で唯一の女性な若奥様は、どうやらこれから新都で買い物らしい。キャスターが新都にいる時って、大抵買い物だもんな。
「キャスター。偶然ですね」
「こんにちは、セイバー。坊や。貴女たちも買い物? それともデート?」
開口一番、とんでもない事を言ってくれるものである。
「……買い物だよ。まあ――――」
デートも兼ねてるけど、と言おうとしたが、キャスターの大きなためいきに遮られた。
「まったくねえ……。説得力がないって言葉、知ってる?
そんなに仲良く手を繋いでいながらデートじゃないなんて、誰が信じるっていうのよ」
「こ、これは寒いからでだな」
「言い訳なんて男らしくないわよ坊や」
じろり、とキャスターは鋭い――というより突き刺すような視線で俺を睨め付ける。
魔眼など持ってないはずのキャスターの視線だが、なぜか体が重くなったように感じた。
いつのまにかスキルアップしてた魔女はまた呆れた表情を見せ、今度はセイバーに視線を向ける。
「貴女も大変ね、セイバー。こんな頼りない彼氏じゃ」
「む。訂正してください。シロウは頼りなくなど……多少はあるかもしれませんが、私がそれで大変と感じることもなきにしもあらずですが……」
セイバー。フォローになってないぞちくしょう。
「しかし貴女が言いたいことはわかる。その件のみに関して言えば、別に私は苦労などしていません」
「ふうん、セイバーも坊やと同じ意見ってこと? 寒いから手を繋いでるっていうわけ?」
セイバーはコクンと頷く。と同時に、キュッと少しだけ強く手を握り直した。
キャスターの言いたい事。
それはもしや、今の俺の言い訳だろうか。
――――たしかに、彼女の言う通り――――
「本当にねえ……。意識してやるか、無意識でやるかの違いだから、周囲への迷惑はそれほど変わらないだろうけど。
そんな羨ましいことやっておきながら他の名目を作るなんて、私から見たら腹立たしいわよ?
ああ、私も一度でいいから宗一郎様と手を繋いで――――」
「呼んだか、キャスター」
「「「!?」」」
突然キャスターの後ろからした声に、思わず背筋がぴんとなる。
見ればそこには穂群原学園の世界史・倫理担当教師、葛木宗一郎の姿があった。
「そ、宗一郎様……!?」
「衛宮。お前たちも買い物か」
「はい。って、葛木先生も?」
「ああ。住職から新都で買い物をしてきてくれと頼まれてな。
それで、キャスター」
「は、ははははははいっっ!」
さっきまでのふてぶてしさはどこへやら、キャスターは顔を紅潮させて、さらにまっすぐ背筋を伸ばす。
葛木のことを話題にしていたとこへ本人が現れたのがそんなに驚いたのか。こうして見るとキャスターも可愛い若奥様って感じなんだけどなあ。
「お前は私と手を繋ぎたかったのか」
「はひっ!? あ、あの、それは、」
「ふむ…………こうか」
それが当然というような顔をして。
無造作に、葛木先生はキャスターの手をとった。
「は、あうっ…………!」
一方のキャスターはその行為に完全に蕩けてしまった。なんだか足元もおぼつかない感じだけど大丈夫か。
「私はもう帰るが。お前はどうするキャスター」
「は、はいっ! 私も、家に帰ります。だから宗一郎様…………」
「うむ。では共に帰るか」
「はいっっ!」
葛木はいつも通り、キャスターは少しふらつきながらも幸せそうに寄り添って、柳洞寺の新婚カップルは俺達に背を向けた。
キャスター、買い物はこれからだったみたいだけど。まあいいか、嬉しそうだったし。
「……あれほど嬉しそうなキャスターは久しぶりに見ました」
「だなあ。ああも素直に喜んでると―――」
ちょっとだけ、羨ましいというか。
熱々カップルにあてられてしまったかもしれない。俺達は無言で手を繋いだまま、どちらからともなくまた歩き出した。
「ひゃっほう、二人とも見てみろよ。セイバーさんだゼー!」
どこか遠くから声がする。いや、現実逃避はいけない。本当はもう真後ろから、とても聞き慣れた声がする。
そしてこうなると、もはやワンセットというか定番というか。いや、そんなこと言っちゃ悪いんだろうけど、ともかく容易に予想できる声が続いた。
「おや、衛宮にセイバーさん。偶然だな」
「こんにちは、衛宮くん、セイバーさん」
年齢不相応な落ち着きのある声と、礼儀正しい子ウサギのような声に振り向く。
そこには思ったとおり、陸上部の三人組――蒔寺、氷室、三枝がいた。
なんなんだ、今日は。やけに知り合いに出くわすな。
「よお。奇遇だな」
「こんにちは。カエデ、カネ、ユキカ」
軽く挨拶をする俺と、しっかりした挨拶を返すセイバー。
三人はそれぞれ私服だった。俺達と同じく、休日の町を楽しんでいたのだろう。
「お前たちっていつも一緒だな。たまにピンで会うこともあるけど、三人でいる事の方が多くないか」
「そうかもしれぬな。我々は学校でも部活でも三人でいる事が多い。衛宮がそういった印象を持つのは当然だろう。
だが――――」
氷室は、にやりと眼鏡の奥で目元に笑みをたたえ、
「私に言わせると衛宮とセイバーさんも、休日は一緒にいるのを見ることが多いようだが?」
「そ、そうか?」
単に俺一人で町中をあまりうろつくことがないからではないのだろうか。バイト先はあまり氷室たちのような女の子が来るところではないし。
もっともそれは彼女たちも同じなのだろう。人にそれぞれの生活があるのは当たり前だ。そして誰かと時間を共有する時に、一緒にいる事が多い人がいて、その相手を仲がよいと称する。
……だとすると彼女たちにも、俺はセイバーといつも一緒にいるという印象を持たれているのだろうか。俺が三人をひとまとめにして見てしまうのと同じように。
何よりの証拠として、蒔寺はジロリと俺達の手元を見るとその理由を決めつける。
「なんだよーアンタ達。手なんかつないじゃって。ラブラブもいいかげんにしないと周りがうっとーしいぞー」
「あ、これは―――」
俺がさっきしたのと同じ言い訳を試みようとするセイバー。だがその寸前、ほんの少しだけ握った指に力が入ったのに気が付いてしまった。
――――これが彼女の本音なのかはわからない。でも、なんとなくそうだと感じた。
だからセイバーの先を制し、蒔寺の言葉に答える。
「ああ。セイバーが好きだから手を繋いでるんだ。悪いか?」
ずり、と氷室のメガネがずれる。
三枝はいつものぽやんとした雰囲気を通り超し、ぼけーっとしていた。
言い出しっぺの蒔寺は、あごが落ちんばかりに口を大きく開いて絶句している。さすがに女の子としてみっともないぞ。
そしてもう一人。
「シッ、シロウ!?」
セイバーも動揺していた。
けれどくだんの手を振り解くのではなく、逆に衝撃そのままに、握る手に力がこもる。
その仕草に後押しされるように、俺はセイバーを見つめ、さっきから思っていたことを口にした。
「たまにはいいだろ。こういうのもさ」
別に示し合わせたわけでもないのに、人前では必要以上にベタベタしないのが俺たちの暗黙の了解になっていた。
それは我が家の人口の多さからすれば当然の事だし、かつ居並ぶ面々の性質を考えれば当然の事だった。
もちろん俺やセイバーが、人前でイチャつくのをあまり良しとしない性格だったってのもある。
――――けれど。
セイバーは俺にとって、誰はばかる事なく自慢できる彼女なのだ。それだけはまぎれもない真実である。
ならば本当は、恥ずかしがる事なんてひとつもないはずで。
たしかに彼女(の言うとおり、言い訳ばかりじゃ情けない。
だから、たまには。
堂々と誰かにのろけてみたっていいだろう?
セイバーは紅潮した顔でじっと俺を見ていたが。
「………………そうですね。私もシロウを好きだから手を繋いでいたい」
本当に、本当に嬉しそうな顔で。
こっちが惚れ直すぐらい、魅力的で綺麗な顔で微笑んだ。
「………………………………」
俺の顔もどんどん火照ってゆく。今さらながら大胆な行動をした自覚と、それ以上にセイバーの笑顔に見惚れてしまって。
そのまま、頭が働かなくて動けずにいると。
「うっきいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
いきなり叫び声が響く。
いかにもわたし怒ってますというような絶叫。警戒音にも近いソレに身構えると、自称黒豹のくせにサルのような叫び声をあげた奴が俺めがけ突進してきた。
「コンニャロ衛宮あああぁぁぁぁぁ!!!!! 恥ずかしげもなく見せつけやがってえ、ソレはアレか、あたしに対する挑戦かーーー!?」
「うわっっ!」
咄嗟にセイバーの手を離してその場から逃げる。思ったとおり、蒔寺の狙いは俺だけのようだ。その場に立ちつくしたままのセイバーには見向きもせず、蒔寺は執拗に俺を追いかけ始める。
「許せぇぇん! 衛宮ああ! キサマ遠坂というものがありながらーーーーー!!!」
「人聞きの悪い事を言うなっ! 俺はセイバー一筋だっ!」
「なお悪いっっっ!! ちょっとツラ貸せコラァ!!!」
どうしろっちゅーんだー!
俺も正義の味方を志す者として、魔術師として、相応に鍛えている自信はある。が、なにせ相手は自称とはいえ穂群の黒豹。正確に言えば陸上部短距離走選手である。いくら女の子とはいえ、専門に鍛えている蒔寺に追いかけっこで勝てるほど俺は早くない。足を強化すれば話は別だが、シロウト相手に魔術を使うわけにもいかないし。
「きぃぃぃいいい!!! 成敗ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「なんでさーーーーー!!?」
蒔寺のパンチは勢いにまかせて殴りかかってくるものだ。動きも単調だから、3発中2発はよけられる。
しかし全力疾走しながら躱すのはなかなか難しく、3発に1発は俺の頭をかすっていく。地味に痛い。
チラリと傍観者たちの方を見ると、三枝は慌てず騒がずただ驚いたという顔をし、氷室は泰然自若と構えた姿勢を崩さない。セイバーもだ。
氷室が隣で事態を見守っているセイバーに話しかける。
「セイバーさん。私が言うのもなんですが、止めなくて良いのですか」
「シロウを守る者としては止めるべきなのでしょうが……
カエデの攻撃力はそれほど強くない。あのくらいであれば、シロウの鍛錬に丁度良いでしょう。そのうちカエデが根負けします」
「ほう、なかなか穿った見方ですね」
うわあ、鬼教官だー!
くっ、こうなったらセイバーが言うとおり、ヤツが疲れるのを待つしかないのか……!?
俺も男だ、期待のひとつやふたつ応えずして、
「許すまじ衛宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
……………………とはいったものの。
このヤバい興奮剤を飲んだような蒔寺に勝てる自信はいまいち持てなかった。
――――で、どうなったかというと。
「ハァ…………ハッ、ハァ…………」
「ぜひゅー…………ぜひゅー…………ぜひゅー…………
や、やるじゃないか衛宮…………」
ここで『フッ、お前もな』などと返せば青春マンガのような友情ができあがるのかもしれないが、あいにくそこまでノリは良くない。
結局、蒔寺はブッ倒れるまで走り続けた。俺はなんとか立っているが、もう少し続けたら膝が笑っていただろう。むしろ限界突破まで鬼を続けた蒔寺の根性を誉めるべきなのか。
セイバーは根負け、という言葉を使っていたが、根性だけなら俺の方が負けている。単にスタミナが勝っただけ。
起き上がることもできない蒔寺を介抱しながら、他の2人が軽く会釈をしてくる。
「蒔のストレス発散につきあわせてすまなかったな、衛宮。
君はまだ動けるだろう。そら、行くといい」
「ごめんね衛宮くん。蒔ちゃんが迷惑かけて」
「はぁ……ん、気にするなって。…………ふぅ」
大きく一度深呼吸して、息を整える。まだ心臓はバクバク言ってるし、汗もかなりかいてしまったが、なんとか呼吸だけは正常に戻ってくれた。
隣にやってきたセイバーに目をやると、小さく笑みを見せる。一応合格ということか。
「お疲れさまです、シロウ」
「ホントにな……。なんでこんなとこでいきなり鍛錬なんだ?」
「多少時間がかかっても、シロウは期待に応えてくれる。先程そう確信しましたので」
なぜか上機嫌なセイバーの笑顔が眩しくて、俺はごまかすように頭をかいた。なんだかよくわからないが、信頼していたということらしい。
「あ゛……こんにゃろ衛宮ぁ……テメエ、なんでそんな涼しい顔……ぜはっ……!
ちくしょおやっぱりブッ殺…………」
物騒なセリフを吐きながら、蒔寺は再び力尽きて地に伏す。
大変だなあと思いながらも、また復活されて追いかけられたらたまらない。ここは早々に退散することにした。
「行こうか、セイバー」
「はい」
言って、彼女の手に自分の手を――――
「? シロウ?」
訝しげに俺を呼ぶセイバーの前で、手袋をはずした。
蒔寺にさんざん追いかけ回され、体は防寒着がいらないほどあたたまっている。
だから。
できるだけ、言い訳も隔てるものもない状態で、彼女と手を繋ぎたい。
「じゃ、改めて。行こう」
素手を差し出す。セイバーの手に。
すると彼女は。
「…………はい。行きましょう、シロウ」
同じく、片方だけ手袋を外した素手を重ねた。
さっきの手袋越しよりもはっきりと伝わる、柔らかくてすべすべとした彼女の手の感触。
ぎゅっと握り締めて彼女を見ると、セイバーは照れくさそうにしながらも、ニッコリと微笑んでくれた。
お題その38、「寒いから手を繋ぐ。」。冬はぬくもりの欲しい季節なので、甘々強化期間です(笑)
うちの2人は天然バカップルですからいつも初々しくイチャイチャしてますが、あんまり意識してイチャつくことがありません。なのでたまにはいいかなー、と。
お互いに愛し合ってることをわかっていても、たまには言葉に出したいもの。たまには本物のバカップルをやってもらいましょう(笑)
でもちょっと性急ぎみになってしまったのが残念。今回は話がうまく繋がらなくて……反省っす。
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