「なっっ、なによこれええぇぇぇ!?」

 絶叫が響き渡り、一瞬足を止めた。
 少し寝坊してしまった朝。早く朝食を作らなければ虎や獅子の機嫌が悪くなってしまうと、急いでいたときのこと。
 廊下を早足で歩いていると、居間からイリヤの悲鳴が聞こえてきた。
 悲鳴といっても、危険が迫ったときに上げるものとはまた違う。なんていうか、遠坂が以前、俺に魔術薬を作らせようとしてなぜかタルタルソースが出来上がってしまったときに発した叫びみたいな。自分の手には負えない、誰か助けてーっという感じの叫び声。
 だが、いずれにしてもイリヤが助けを求めているのには変わらないのだろうし、単にタルタルソースができただけでも、家主として状況は把握しておきたい。
 早足から駆け足にスピードを変えて居間に駆け込む。
「どうした、イリヤ――――!?」

 そこには。
 驚愕の表情に顔を固まらせ、時間を止めてしまったイリヤと。
 イリヤにとてもよく似た、若い美しい女性。
 俺よりいくつか年上だろう。銀色の髪に赤い瞳は、イリヤと全く同じ色。たとえば同じ赤い瞳でもイリヤとギルガメッシュの目は若干色が違うが、この女性はイリヤと寸分違わず同じ色だ。
 さらには顔立ちもよく似ている。大きな瞳にちょこんと立った鼻先。ちょうどイリヤを大人にしたら、こんな感じだろうと思わせるような。
 ――いやいやいやいやいやいや、冷静に観察している場合ではない。
 他にももう一人。部屋の中にいたのは――



「やあ士郎、大きくなったなあ」



 感慨深げな口調で俺を迎えた、その人は。
 五年前に死んだはずの、俺の親父だった。





「なんでさーーーーー!!!!???」












「どうしたんだい、士郎。そんな大声を出して。まるで幽霊でも見たような顔してるぞ」
「幽霊でもっていうか、アンタ本物の幽霊じゃないのか!!?」
 言いながら、自分でそんなバカなと思った。目の前の人はしっかりと人の気配を伴い、たしかな質量をもってそこにいる。この切嗣はどう見ても生身、生きている人間だ。
 かといってただのそっくりさんってわけでもない。それなら俺を知ってるはずもないだろう。というより、切嗣のそっくりさんがこの世のどこかにいても、その人がここにいる理由が見当たらないし。
 ってことは、今ここにいる人は、まぎれもなく衛宮切嗣本人で…………

「うそ……。本当に、母、さま?」
 視界の端で、信じられない表情のまま白い女性に歩み寄るイリヤが見えた。女性はにっこりと微笑んで、
「ええ。驚いたわ、いつのまにかずいぶんお姉さんになったわね、イリヤ」
「母さま――母さまっっ!」
 泣き笑いの表情でその胸へ飛び込むイリヤ。女性の方も満面の笑みで娘を迎える。
 その光景を見てるうち、だんだん頭が落ち着いてきた。
 イリヤとそっくりな女性は、たしかに母親と言われればすごく腑に落ちる。この女性がイリヤに似ているんじゃない。イリヤがこの女性に似ているんだ。そういえばイリヤ、自分の銀髪は母親譲りだって言ってたっけ。
 そしてイリヤの父親は――――

「士郎」
 呼ばれて振り向く。目の前では5年前に永遠に失われてしまった、大切な人の笑顔がある。はにかんだような、ちょっと困ったような、俺をあやすときに浮かべていた笑み。
「士郎はああいう風にしてくれないのかい?」
 じゃあ、本当に…………

「――――――っ」
 目に熱いものがこみあげてくる。とっさに後ろを向いて目をこすった。
 なんのために顔をそらしたかはバレているだろうが、それでも見られたくなくて。
 ひとつだけ深呼吸。胸にこみあげるものはそのままに、もう一度向き直る。
「……おかえり。親父」
「ああ。ただいま、士郎」
 いつも長い旅の後、切嗣を迎えていたときと同じ言葉を紡いだ。返す切嗣の言葉も、あの遠い日のまま。
 また熱をもってきた目を、今度はどうやってごまかそうかと思ったとき。

「ところで切嗣。その男の子はだあれ?」
 白い女の人から、彼女にとっては当然の質問が投げかけられた。








「アイリ。紹介するよ。この子は衛宮士郎。僕の息子だ」
「………………!!?」
 食卓にそれぞれ腰を下ろして、開口一番切嗣の言った言葉に、女性――アイリさんは目を丸くして絶句した。
 無理もない。俺はイリヤの話を前から聞いてて、彼女の正体は予想がついてたけど、彼女にとっては青天の霹靂だろう。アイリさんはたしか十年前に亡くなっていたというし、夫に息子ができてたなんて知らないはずだ。
「そうよ、母さま。シロウはキリツグの息子だから、わたしのお兄ちゃんなの!」
 横に座ってたイリヤが腕に飛びついてくる。それを見たアイリさんは、まだ動揺の残る顔で呟いた。
「……そうよね……。私が死んでからも、切嗣は生きていたんだもの。新しい奥さんの一人や二人……」
「あー、いや、そうじゃなくて」
 必死に自分へ言い聞かせようとしてる声が聞いていられなくて、つい口を挟んだ。
「俺、養子なんです。切嗣の。だから、親父は死ぬまで独り身でした」
「え? そうだったの?」
 切嗣の首肯を確認したアイリさんは、一転深く考え込む。今度はなんなんだ。

「――そう。わかったわ。
 それじゃ私は、シロウくんのお母さんね!」
「へ!?」
「切嗣の息子は私の息子も同じ。それにシロウくんにはお母さんがいなかったのよね?
 だったら私がお母さんになるわ。切嗣の妻として当然でしょう」
「や、そりゃそうなんだけど……」
 さすがにこっちもちょっと戸惑う。なにせアイリさんは若くて、俺にとってはお母さんというよりお姉さんだ。たしかに切嗣の奥さんなら俺にとっては義母ってことだから間違ってはいないんだけど。
「シロウくん、遠慮せずに、私のことはお母さんって呼んでね。ステキだわ、私に新しい息子が――イリヤのお兄ちゃんができるなんて」
「え、えーと……」
「なあに? お母さんになんでも話してちょうだい」
 困った。この人は本当に善意から母親役を買って出てくれている。いくぶんシュミも入ってるように見えるが、いずれにせよ無碍にするのはあまりに酷いんじゃないか。
 ここは一度でも母と呼ぶべきか迷っていると。


 バタバタバタバタバタ!


 珍しく、彼女が廊下を駆けている。時計を見ればもう六時半。そうか、本当なら朝食の時間だったっけ。
 視線を元に戻すヒマすらなく、足音は居間の前で止まる。俺以外の、我が家で寝起きする唯一の住人が――って、ちょっと待った。
 これって、もしかしてヤバ――

「遅くなって申し訳ありません! つい寝過ごしてしまいまして……!」

 そうして、謝罪しながら障子を開けたセイバーは。
 いつもの衛宮邸の朝の風景にはいない二人を目の当たりにして、フリーズしてしまった。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「まあ、セイバー! 元気そうね!」
 声を失って互いに固まるセイバーと切嗣。アイリさんのはしゃいだ声が、なぜか妙に薄ら寒い。
 それがきっかけだったのか。

「切嗣、貴方がなぜここに――――!!?」
「っっ――――!!」

 二人は瞬時に戦闘態勢に入って睨み合った。
 バチバチと散らばる火花。すでに第一種接近遭遇からして、敵対関係と認識している。
「わわわわ、ブレイク、ブレイクっ!」
 慌てて間に割って入る。そういえばこの二人、聖杯戦争時は全然和解できないまま別れたっていう話だ。
 再会の喜びはなく、自分のテリトリーに入ってきた敵、という意識でも持ってるんだろうか。
 二人の視線がちょうどぶつかる場所に割り込むと、ぞくりと背筋が寒くなった。二人の本気の敵意を全身に浴びせられ、一瞬にして血の気が引く。
 だが身を呈した甲斐はあったらしく、二人がふいとお互いから視線をはずす。
 そして改めて俺に目を向けて、
「シロウ。いったい何があったのです。なぜ切嗣が――って、アイリスフィールもいるのですか!?」
「士郎。なぜセイバーがここにいるのか説明を――あれ、そういえばイリヤもどうしてここに?」
 …………今頃気づいたのか、二人とも…………。








 がるるるるといがみあう、狼と獅子みたいな切嗣とセイバーを有無を言わさず座らせて、二人への状況説明とあいなった。
 といってもなんで切嗣たちがここにいるかは俺の方が知りたいぐらいで、説明になんてなってなかったんだが。第一発見者のイリヤに言わせると、今朝この家へ来たらもうここにいたそうで、それを聞いたセイバーは『またですか……』なんて溜息をついていた。
 困り果てたので、一応当事者にも聞いてみる。

「親父はなにかわからないのか? ここに来る前どこにいたとか、どうしてここに来たとか」
「うーん……悪いけど、全然覚えてないんだ。むしろ驚いたのは僕も同じでね。
 縁側で目を閉じて、ずいぶん長いこと眠ってたと思ったら、士郎が大きくなってたんだ。最初は夢でも見てるんじゃないかと思ったよ」
「夢、か……」
 その気持ちはなんとなくわかる。俺もこの家でもう一度切嗣の顔を見れるなんて、まだ夢を見てるんじゃないかと思ってるんだから。
 切嗣は小さく苦笑して、

「――もちろんちゃんと知ってるよ。今のこの時間は僕らが本来許された時間じゃない。
 でもね。僕はこの夢に感謝しているんだ。
 もう一度アイリと会えた。何より、大きくなったイリヤと士郎の姿を見ることができた。なら、夢だってかまわない。特にイリヤのことは、唯一の心残りだったからね」
 そう言って、優しくイリヤに笑いかける。
 だがイリヤの顔は硬い。ぎゅ、と隣の俺の服を握りしめ、腕にしがみつきながら、
「――――ウソよ」
「ウソじゃないよ。僕はずっと、イリヤのことだけが気懸かりだった」
「信じないわ。キリツグの言うことなんて、信じない」
「イリヤ……」
 悲しそうな切嗣。なぜイリヤが自分を信じてくれないのか、切嗣自身もわかっているのだろう。
 俺も正直、ずっと疑問だった。なぜ切嗣は死ぬまでの5年間、イリヤのことを放っておいたのか。
 親父は俺に一度もイリヤのことを話さなかったから、本当のことはわからないけど。

「なあ、イリヤ。イリヤは親父のこと、信じられないのか?」
「信じられないわ。当然でしょ、それって」
 つん、と唇を尖らせる。たしかに無理もないんだが。
「でも俺は親父を信じてるよ。切嗣は、養子の俺を本当の息子みたいに育ててくれた。ならきっと、実の娘のイリヤのことは俺以上に愛してる。絶対にだ」
「……………………」
 切嗣はたしかにイリヤを放っておいた。それは俺にだって反論の余地も弁解の言葉もない。むしろ反感さえ覚える。
 でも、だからって切嗣がイリヤを愛していないかといえば、それとは別問題だと思うのだ。
 ――――俺がセイバーを愛していても、彼女を元の時代へ帰したように。
 愛していてもできないこと、愛しているからできないことだってある。
 それだけは、イリヤにわかってほしかった。

 イリヤはじっと俺の目を見て、
「……キリツグのことは信用できないわ。でも」
 俺の服を握る手に、また力がこもった。
「――――シロウの言うことなら、信じてあげる」
「そっか。ありがとな、イリヤ」
 どうやら少しはこれまでの行いを保留しといてくれる気になったらしい。ここから後、本当にずっとイリヤを愛してたんだと証明するのは、切嗣の仕事だろう。
 嬉しくなって小さな頭を撫でると、イリヤも嬉しそうに目を細める。
 そっと切嗣に目配せすると、安堵した顔で微笑まれた。その笑みには感謝の色が浮かんでいる。
 良かった。これでいいんだよな。

「……それで、セイバーがここにいる理由わけなんだけど」

 ぎぎんっ!

 せっかく和んだ空気が、一瞬にして凍りつく。
 主にさっきと同じく、狼と獅子が互いに飛ばす敵意のせいで。
 ……こっちの確執は深そうだな。前回の聖杯戦争、ずっとこんな感じだったんだろうか。同行していたっていうアイリさんはさぞ苦労しただろう。
 頭痛がしそうなこめかみをおさえ、簡潔に理由を口にする。
「五回目の聖杯戦争が起きたんだ。セイバーは俺のサーヴァントとして召喚された」

「「ええっ!?」」

 驚きの声は夫婦からもれた。
 特に切嗣は目を大きく見開き、愕然としている。こんな親父は初めてだ。
「だって……まだあれから何年だ!?」
「四回目が終わってからなら十年だ。前回の終わり方が特殊だったんで、いつもより早く聖杯に魔力がたまったらしい」
 俺も又聞きの話だから、あくまで伝聞形だけど。
「ばかな……」
 今度こそ呆然と呟く切嗣。さすがにここまで取り乱してると、ちょっと心配になってくる。
「どうしたんだよ、親父。そりゃ驚いたとは思うけど、なにもそこまで――」
「……、あ、ああ。そうだね。もう起きてしまったんなら、今驚いてもどうにもならないな。
 それで、士郎、町の被害の方は……」
「さすがに前回ほどひどくはない。建物はたくさん壊れたし、怪我人――もしかすると後遺症が残った人もいるかもしれないけど、一般人の死者だけは出さずにすんだ」
「そうか……」
 明らかに安心した顔で、いつのまにか前のめりになっていた姿勢を切嗣は元に戻した。ああ、そっちを心配していたのか。
 ……一瞬だけ、あの教会地下の地獄が頭をよぎる。
 けれど、それを口にするべきか迷っていると。

「いやあ、実はもう二度と聖杯戦争が起きないように、円蔵山の地下にある大聖杯を三十年後に壊す仕掛けを作っておいたんだ。局部的な大地震を起こして、大聖杯のある地下空洞が崩れ落ちるようなのを。だからまさか、五回目があるなんて思わなくてね。
 残念ながら五回目には間に合わなかったようだけど、次の聖杯戦争までには間に合うかな」
 照れくさそうな切嗣の口から飛び出す、衝撃の一言。知らなかった、死ぬまでにそんなもん作ってたのか。
 …………って、待てよ。大地震で山が…………?

「おい親父! それじゃ柳洞寺は!?」
「――――あー…………」
 今気付きました。という顔で、切嗣の微笑に一筋の汗が追加される。
 円蔵山の頂上近くにある古刹、柳洞寺。数十人の修行僧を抱える、かなり大きな寺だ。
 大地震で地下空洞を崩落させるってことは、ちょっと加減を間違えれば山の上にも被害が――
 切嗣は表情を変えぬまま、ちょっとだけ情けない声で、
「…………士郎、イリヤ。悪いけど、なんとか」
「「……………………」」
 頼まれた二人の子供は返事に困る。そりゃなんとかするしかないけどさ。
 遠坂の話によると、もうこの町で聖杯戦争は起きないらしい。聖杯を召喚する礎そのものがなくなった、なんて説明してくれたけど、正直ちんぷんかんぷんだ。それでも、もうあんな争いが起きないことだけはわかる。
 だとすればあとは切嗣の残した術を解除すればいい。イリヤと遠坂が力を合わせればなんとかなる気がする――というか、この二人でなんとかならなければもうどうにもならないのだが。
 どうやって遠坂に頼もうか、頭を悩ませているうち、隣ですっくと立ち上がる人影が視界に入った。

「イリヤ?」
「わたし、ちょっと出てくるわ」
 呼び止める間もなくそのまま出ていってしまう。
 ってまさか、今から切嗣の術をなんとかしに行く気か!?
「イリヤ!」
 慌てて後を追う。スタスタと廊下を歩いていた彼女に追いついて、ひとまず引き留めた。
「待て、イリヤ。一人じゃ危険だぞ。親父がどんな仕掛けをしたかわからないけど、今すぐどうこうなるってもんじゃない。ちゃんと下調べして、作戦を立ててから俺が――」
「やるわけないでしょう」
 へ?
 イリヤは呆れたように、虚を突かれて足を止めた俺を見て、
「山の地下をひとつ崩そうって仕掛けなのよ。それほど難しくなくたって、大規模なものに決まってるわ。どんな術式かもわからないのに、ぶっつけ本番でどうにかなるはずないじゃない。
 もし地脈を使ってるなら、管理者のトオサカに相談しないと後でトラブルになったときにも困るし。それにね、管理者とかそういうのを抜きにしても、リンにナイショにしといたらきっと怒るわよ」
 それはそのとおりだ。なんだかんだとお人好しなアイツが、こんな大掛かりなことを自分の足元で秘密裏に解決されたらどう出るか。きっと水くさいだのなんだの文句をつけて、師匠に内緒でこんなことできるなんて偉くなったわね士郎、ふふふだったらこれくらいの課題をクリアするのなんて軽いわね? とか言って、今までの三倍ぐらいのレベルと量を兼ね備えた課題を――――

「……………………。
 じゃ、イリヤはどこに行くんだ?」
「わたしはフジムラの家に戻って、今日はタイガが来ないよう言いくるめておくわ」
「あ……そうか」
 さすがに藤ねえに、今の衛宮邸を見せるわけにはいかない。アイリさんだけならイリヤの母親か親戚ということでごまかせても、切嗣をごまかしきることなんかできやしないからだ。
 そう思うと少しだけ、胸が痛んだ。
 切嗣に会いたかったのは藤ねえも同じはずだ。なのに魔術関係者ではないから、事情が説明できないからという理由だけで、藤ねえには切嗣を会わせることができない。
「……わかった。藤ねえによろしくな」
 静かに頼むと、イリヤはにんまりと笑みを見せた。その悪巧みを連想させる笑顔にドキリとする。

「まかせて。シロウとセイバーがたまには二人っきりで昼間からイチャイチャしたいから、家に来るなって言ってたって伝えとくわね」
「ちょ……! ま……!!?」
 待て。それはその。大変心臓によろしくないというか。
 いやその前にですね。そんなこと藤ねえに言ったら、すぐにでも虎竹刀二刀流で衛宮邸にカチコミに来るのでは……!?
 脂汗を流す俺を見て、イリヤはすごく嬉しそうに笑う。やりこめたのが楽しくて仕方ないという顔だ。
「安心して。ちゃんとうまく言っておくわ。明日はタイガの大好物とか作らなきゃいけなくなるかもしれないけど。
 あ、それとリンとサクラにも電話しておいて。ちゃんと事情話して、今日は家族水入らずで過ごしたいからジャマしないでって言わなきゃダメよ」
 俺の分担を決めて、イリヤはさっさと玄関をくぐる。それこそ引き留めるヒマもない。
 ……まあ、おそらくあの調子なら、ちゃんとうまくごまかしてくれるだろう。

 それに、イリヤの言ったとおり遠坂と桜には話をしておくべきかもしれない。俺としてはみんなで一緒に食事をするのも楽しそうだとは思うんだけど。
 むしろ遠坂なら、この現象を解明しようと積極的に乗り出してくるかもしれないな。とはいえこれもナイショにしておくと、やっぱり彼女たちがやってきた後が怖い。どういうことだと胸ぐら掴まれ、意識がブラックアウトするほど勢いよくゆさぶられて問い詰められるかもしれないし。そんなにゆさぶったら声すら出せない、ってことも遠坂は忘れてそうだ。……って、なんかさっきから卑屈な想像ばっかりしてないか、俺。
 現実的な予想をしてみても、バゼットが初めてうちに来たときみたいに、初対面の魔術師ということで敵意のこもった眼差しを切嗣に向けられる可能性は高い。それはあんまりいい気分ではない。
 二人が来るにしろ来ないにしろ、驚かさないようひとまず話を通しておこうと、ちょうど傍にあった電話の受話器を持ち上げた。







『……ふーん』
 遠坂はどこか突き放して聞こえる口調で、それだけを言った。
『わかったわ。今日は衛宮くんの家には行かないことにする』
「え? やけに素直だな。もしかして遠坂、あんまり驚いてない?」
『驚いてるわよ。すごーくね。今もしも貴方の家にいたら、衛宮くんの襟を掴み上げて事情を聞き出すくらい驚いてるわ』
「………………」
『でも気を使ってくれたみたいだし。その好意に甘えとく』
「??? 気を使ったって、遠坂が俺たちに?」
『違うわよ。イリヤがわたしや桜に、よ』
 ちょっと苦笑した遠坂の声。けれどそれだけの説明では意味がよくわからない。
「なんでイリヤが二人に気を使うんだ?」
『……………………』
 質問の答えは沈黙。ほんの少しの間、遠坂の小さな息遣いが受話器越しに聞こえ、そして。

『……士郎には言ってなかったっけ?
 わたしの父さん、十年前の聖杯戦争の参加者だったのよ』

「――――――っ」
 血が、凍りついた。
 …………考えるまでもない。それはつまり。
『十年前、父はわたしに別れを告げて戦いに行き、そして、二度と会えなくなった。
 ええ。もちろん士郎のお父さんがわたしの父を殺したとは限らない。
 …………でもね。
 そうかもしれない・・・・・・・・。それだけで、まともにその人の顔を見られる自信がないわ』
「………………………………」
 受話器越しの声は、なお固く。緊張と、そして抑えきれない感情が、声にまであふれ出していた。
『――桜にはわたしから電話しておくわ。間桐の家も、たしか十年前の参加者がいたはずだし。
 行くとしたら連絡するよう言っておくから、もし連絡がなかったら桜は来ないと思っておいて』
「…………そうか。わかった」
 自分の声も同じく固い。
 やっと気づいたのだ。自分にとっては憧れの、立派な父親だった切嗣が。
 遠坂の父親を、殺したのかもしれない、ということに。

『まあ、今日だけよね。たぶん。明日にはわたしも桜もそっちへ行くわ。
 明日は最高の中華をごちそうしてあげるから感謝しなさい』
 遠坂はガラリと口調を変えて軽口をたたく。それは遠坂と一緒に暗くなってしまった俺への気遣いと、明日には全て元に戻って欲しいという願いがこめられているように聞こえた。
「うん。楽しみに、してる」
 まだ少し、ぎこちない声で答えて電話を切った。
 その場で一回、二回と深呼吸。グッと一度息を止め、気合を入れ直す。
「……そうだな。当然、考えなきゃいけないことだった」
 この家で第四次聖杯戦争と関わり合いのない人間は、少ない。
 イリヤも遠坂も桜も、聖杯を作った魔術師の家の人間だ。三人とも十年前の聖杯戦争に父親が参加している。間桐の家の人が出ていたというのなら、桜の場合おそらくそちらでも遺憾があるのだろう。
 セイバーは言うに及ばず。彼女は参加者の一人だった。
 この家の人間は第五次聖杯戦争をきっかけとして集まったやつが多い。けれどその因縁は、前回からすでに始まっていたのだ。
 その戦いを、最後まで勝ち残った切嗣。
 逆に、負けて――おそらく殺されてしまったのだろう、遠坂の父親。
 たしかに、この関係を考えれば、遠坂の不吉な想像もわかる気がする。

「………………」
 ゆっくりと居間に戻りながら、少しずつ心を落ち着ける。
 あるいは、聞けば答えてくれるのかもしれない。
 切嗣が聖杯戦争でやってきた事。誰と戦い、誰をその手にかけたのかを。
 しかし――――
「答えによっては、それこそ遠坂と桜に顔向けできなくなるよな」
 もしも本当に、切嗣が二人の父親の仇だったら。
 きっと遠坂もそれを見越して、今日はうちに来ないと言ったのだろう。
 万が一にも決定的な一言が出てこないように。もしもその一言を聞いてしまえば、衛宮のホームグラウンドに遠坂の当主として入り込むことができなくなってしまう。

”―――それは嘘だ。人が死んだら哀しいだろ。それが肉親なら尚更だ。魔術師だから仕方がない、なんて言葉で誤魔化せるものじゃない”
”…………………………ま、そうね。
 衛宮くんの意見は、反論できないぐらい正しいわ”

 父親が魔術師だから、死んでも悲しくないと。
 そう強がった遠坂の言葉を否定したとき、あいつはそれを認めた。
 きっと遠坂は、今でも父親を尊敬し、死んだことを哀しんでいるのだ。
 俺が切嗣の死を、今でも哀しいと思っているように。
「……………………」
 居間の障子の前で、強く拳を握りしめて。
 再び気合を入れ直し、ひとつだけ腹の底から深呼吸して気持ちを切り替える。
 ――――今は信じよう。
 切嗣と遠坂の父親は戦っていないのだと。
 都合のいい考えなのはわかっている。でも、決定的な一言が出てくるまで、そうかもしれない・・・・・・・・の話にしておきたかった。

 いつもと同じように障子を開けると、部屋の中の三人は特に不審も抱かず俺を迎え入れる。
「シロウ。イリヤスフィールは?」
「イリヤは藤ねえのとこに行ってる。今日はこっちへ来られないようにしておくってさ」
 食卓に腰を下ろしながらセイバーに答える。
「そうか。大河ちゃんはまだ士郎の面倒を見てくれてるのか」
 切嗣はそう言って懐かしそうに藤村邸の方角へ目をやった。
「藤ねえが面倒見てくれてるっていうより、俺が面倒見てるところもあるけどな」
「ははは、そこのところも相変わらずだね。できれば挨拶しておきたかったけど、しょうがないか」
 同じことを思っているのだろう。藤ねえに会えないことを、親父も残念だと感じている。
 その話を横で聞いていたアイリさんが、疑問符を浮かべて口を開いた。
「タイガチャン? それだれ?」
「ああ、俺の姉貴分だよ。俺が切嗣に引き取られた頃からこの家に入り浸ってた人で、ずっと姉弟みたいに育ったんだ」
「まあ素敵。じゃあもう一人娘がいるのね!?」
「あーいや、それは…………」
 はしゃぐアイリさんにあいまいな笑みを返す。さすがに藤ねえは切嗣の子供と言うには大きすぎるような。どちらかというと今やアイリさんより年上ではなかろうか。
 セイバーも苦笑しながら、
「アイリスフィール。大河はシロウの姉代わりですが、切嗣の娘とは本人も思っていないようでした。大河には本当の両親もいますし」
「え、そうなの? 残念だわ。どんな人なの?」
「そうですね、たとえるならば太陽のように明るい人でしょうか。いつも自らが場を明るくし、裏表のない真っ直ぐな人間と言えるでしょう。
 あれほど人に偽らず、人に騙されない人間は希です。彼女が監督をしていたと聞いて、シロウの素直さがとても納得できた」
 すらすらと淀まず語るセイバーからは、嘘も虚飾も感じ取れない。ちょっと褒めすぎじゃないかと思うと共に、姉も同然な人をそこまで褒められるのはなんとなく嬉しかった。
「藤ねえは親父が死んでから5年間、ずっと俺の保護者をしてくれてたんだ。後見人は藤ねえの爺さんってことになってたけど、ほとんど毎日うちに飯食いに来てさ。おかげですごく賑やかだった」
 決して本人の前では言わないが、親父が死んだ後、俺が救われたのは藤ねえのおかげだったのだろう。
 人生の目標でもあった父がいなくなり、その理想を引き継いだとはいえ、たった12歳の子供が一人ぼっちで放り出されていたらきっと寂しかったに違いない。
 切嗣も嬉しそうに頷く。この5年間、俺が一人じゃなかったと聞いて、ほっとしたようだった。
 アイリさんは羨望の瞳で、さっき切嗣が見たのと同じ方向――藤村邸の方を見る。
「楽しそうな人ね。本当に会えたら良かったのに。
 ――――あら? でも……」
 不思議そうにきょろきょろ辺りを見回して、

「そういえば、舞弥さんは? あの後どうなったの?」

 その名を口に出したとたん、一瞬切嗣とセイバーの雰囲気が変わった。
 まいやさん、って誰だ? 聞いたことのない名前だが――――
「舞弥さんなら、この家でシロウくんの面倒も見てくれると思うんだけど……もしかしていないの?」
 セイバーもじっと切嗣を見ている。特に口には出さないが、彼女も答えを聞きたがっている様子だ。
 切嗣は、どこか遠くへ視線をやりながら、ゆっくりと口を開き、

「舞弥は――今はこの家にいない。
 聖杯戦争の後、この町に腰を落ち着けることになると言ったら、別れを告げて旅立ったよ。士郎を引き取る少し前の話だ」

「まあ……そうだったの」
 しょぼん、と元気をなくすアイリさん。一方セイバーは、
「……………………」
 しばらく切嗣を見ていたが、ふいと視線をそらす。
 ――――まるでそれ以上考えることを拒否したみたいに。
「本当に残念だわ。でもきっと、舞弥さんも元気でやってるわよね」
「……ええ、そうですね。そうでしょう。いつか彼女がこの家を訪ねてくれればと思います」
 アイリさんとセイバーは『まいやさん』の話題で盛り上がっている。その顔に浮かぶのは二人とも微笑。
 切嗣やアイリさんだけでなくセイバーも知っているとなれば、聖杯戦争の関係者かもしれない。だがそれ以上のことを今の話から推測するのは不可能だ。
 第三者として大人しく、口を挟まずに聞いていると。

「ただいまー」
 玄関からイリヤの声がする。彼女は真っ直ぐ居間にやってきて、結果を報告した。
「タイガをいいくるめておいたわよ。今日のごはんはフジムラの家で食べるって」

 ――――ぐう

 イリヤの言葉に応えるようなタイミングで、響き渡る腹の虫。
 虫の飼い主は顔を耳まで真っ赤にして、わたわたと手を振った。
「い、いえその、これは……! あのですね、いつもならばとっくに朝食をいただいている時間ですからして……!」
「あ、悪い。そういえば朝飯まだだったな」
 時計を見れば、いつもの朝食の時間からは二時間近く経過している。そういや俺も腹が減っていた。セイバーじゃなくても腹の虫が鳴こうというものだ。
 アイリさんがなぜか驚きに目を丸くする。
「え、今のセイバー? 人ってお腹が減ったときにお腹から音がするっていうけど、もしかして今のが?」
「そうよ母さま。セイバーってばしょっちゅうおなか鳴らしてるんだから。レディとしての慎みが足りないわよね」
「イリヤスフィールっ! 訂正していただきたい。私は常に空腹なのではありません!
 今朝はいつもの時間に朝食を食べていないからこうなっただけであり、常であればこのような失態は犯さない!!」
「セイバーのうそつきー。わたしが初めてセイバーのおなかが鳴った音聞いたの、この家に来てすぐだったわよ」
「っっ……!!」
 言葉に詰まるセイバー。そういえば聖杯戦争の最中、昼食を催促したセイバーに昼飯抜きで鍛錬しようと提案したら…………
 …………よそう、俺もまだ命が惜しい。

 がし、とアイリさんがセイバーの手を握る。大きな赤い瞳が、うるうると涙に濡れていた。
「ごめんなさいセイバー。私ってば全然気づかなくて――貴女に食事なんて一度も与えたことがなかったわ。
 本当はおなかが減っているのを我慢して、私につきあってくれていたのね」
「違います! 十年前は魔力が充溢していたので、特に食事の必要はなかったのです。し、しかしその、今回のマスター ――シロウとはラインの繋がりが弱く、結果魔力が足りなくて、その、やむをえずですね……!
 シロウ! 貴方からも何か言ってください!」
「…………ごめん。ノーコメント」
 だって本当にそれだけなのか、ちょっと自信がない。
 ヘタに口を開いて、あのときの悲劇を繰り返すのは避けたいのだ。
「くっ……! だいたいシロウがいけないのです! あんなにおいしい食事を用意されては、魔力供給という本分を逸脱してしまうではありませんか!」
「俺のせいかそれ?」
 おいしいゴハンとまずいゴハンなら、おいしい方がいいに決まってるじゃないか。おいしいからと文句をつけられるのは納得がいかない。

 切嗣が父親のイイ笑みを浮かべて、俺の肩をばしばしと叩く。
「いやあ、すごいな士郎。まさか英霊を餌付けできるぐらい腕を上げるとは。これは僕も今日の食事が楽しみだよ」
 その言い草が面白くないようで、セイバーの矛先は容易に切嗣へと向きを変えた。
「切嗣! 餌付けとはどういう意味ですか! 私は動物ではありません!」
「今日は何を食べさせてくれるんだい? あの堅物騎士が餌付けされるくらいだ、きっと何を作っても一人前以上になったろうね。親として僕も成長が嬉しいよ」
 聞いちゃいねー。
 というより、意図的にセイバーを無視してないか、親父。
 セイバーはすでに野性の獅子と化し、毛を逆立てんばかりに怒鳴っている。

「切嗣……!」
「あー、うん。……とりあえず朝飯にしよう。な、セイバー。今朝はパンにして、半熟のタマゴもつけるから」
 ピタリ、とセイバーの動きが止まる。俺へと向けられた視線は恨みがましげだったが、どうにか怒りを引っこめる気になってくれたようだ。
「……わかりました。準備をお願いします、シロウ」
「おう、まかせろ」
 内心安堵のためいきをつきながら台所へ向かう。セイバー好みの朝食にするから機嫌直せ、と暗に言ったつもりなのだが、どうやら通じてくれた模様。
 こうやって食べ物を出せば大抵のことは譲歩してくれるから餌付けされてるなんて言われる気もするのだが、それは言わぬが花というもので。
 もちろんセイバーはとりあえず追及の手を止めてくれただけで、納得したわけじゃない。あとでフォローしておかないと。
 だが。

「ん? どういう風の吹き回しだい、士郎が朝に洋食作るなんて」
 懲りずに切嗣が口を開いたとたん、ピキリという空気のきしむ音が響く。発生源は言うまでもない。
 冷や汗をかきつつ振り返り、可能なかぎりなんでもないことのように答えた。すぐ側の核ミサイルは見ない方向で。
 頼む親父っっ! せめて朝飯ができるまで、セイバーをこれ以上怒らせないでくれ……!

「や、別に大した理由じゃない」
「でもいつもうちの朝は和食だったじゃないか。前に僕が、たまにはハンバーガーを食べたいって言ったら、すごく怒ったことがあったろう。パンなんて力が出ないだろーって」
「そ、そうなんだけど……」
 あの頃と今では、事情が違うというか。
「ほら、うちも住人が増えたから、みんなの好みに合うようなの作らなきゃいけないんだ」
 口には出さないが、実は我が家の住人で和食舌なのは俺と藤ねえだけだ。切嗣がいた頃はその3人だけだったのだが、その後に増えた住人はそろいもそろって洋食を好むという、5年前の衛宮邸からは想像もできない事態が出来上がってしまったのである。
 今では3日に1回は朝飯にパンが出て、昼食・夕食は和洋中華までなんでもござれ。たしかに今の衛宮邸台所事情を切嗣が聞けば驚くだろう。
 その片鱗を垣間見た切嗣は、あごに指をかけ少し考え、

「……もしかして、食事を洋食にしろ、なんてワガママをいうヤツがいるのかい? タダ飯食らいなだけでなく、自分の好みを押し付けて、君の好みをないがしろにしていると?」
「っ……!」

 セイバーが、音すらしそうな殺気をこめて切嗣を睨む。いや、たしかにそんなワガママを言うヤツはいる。朝飯は食べない主義とか言っといて、俺の失言を盾に取り、我が家の朝食を洋食に変えようとしたあかいあくまが。
 しかし遠坂のことを知らない切嗣にとって、タダ飯食らいという単語を使ったことからも、間違いなくセイバーのことを指して言っているのだろう。
 セイバーもそれに気づいたから敵愾心を抱いている。彼女の殺気を受け、切嗣からもピリピリとした敵意が噴き出してきた。どうでもセイバーと目を合わせようとしないところがいっそ恐ろしい。
「だとしたら許せないな。士郎の親として、息子を虐げる存在は排除しないと」
「――ほう。騎士を侮辱しただけでなく、その挑発。覚悟はできているのですね、切嗣」
 や、ヤバい! 早く親父の誤解を解かなければ、この家が戦場になってしまう!
「そ、それは違」

「わたしはちゃんと食費入れてるわよ。
 それにね、わたし納豆キライだもの。シロウのごはんはおいしいけど、毎日和食ばっかりじゃ飽きちゃうわ」

 横からぷりぷりとご立腹の白いお姫さまの声。
 イリヤの物言いがつけられたとたん、切嗣は相好を崩し、
「そうか、イリヤは洋食の方が好みだろうなあ。でもダメだよイリヤ、納豆は栄養があるんだ。好き嫌いせずちゃんと食べないと」
「えーっ、あんなの食べれなくてもいいもん! くさいし、ネバネバしてるし、糸ひいてるし! そもそも腐ってるじゃない、アレ!」
「ははは、そこがいいんだよ。アイリ、よければ君も食べてみるかい?」
「そうね、切嗣が言うなら食べてみたい気もするけど……話を聞いてると、ちょっと……」
「「………………………………」」
 あっという間にほのぼのお父さんになってしまった切嗣に、俺もセイバーも言葉がない。
 ――いや、家が戦場にされるよりはいいんだけど。俺たちのこの緊張感はどこへ行けばいいのか。
「……シロウ」
「…………なんだろう、セイバー」
「後ほど、道場につきあってもらえますか」
「……………………ああ」
 一度高めた戦闘意欲と、それをすかされた彼女のストレスは、もはや食事では消しきれない。
 今日の鍛錬はいつもより厳しくなることを、こっそりと覚悟するのだった。




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