もーにんぐ
 〜たとえばこんな訪問客〜


 雨音で目が覚めた。
 それ以外の音が感じられない、静かな朝だった。
 しっとりとした空気が妙に心地よく、そのまま躰から抜けきってない眠りに再び入ろうと、ガウリイは布団をかぶりなおして瞼を閉じる。
 ちらりと見えた時計の針は、まだ6時を少し回ったところだった。
 こういう雨の日は、朝寝坊をしてもいいほーそくがある。と傍らで眠る妻が言っていたのを思い出す。
(10時になったら起きよう)
 そう決めて、一つ息をはき出すと、再び眠りの園へ足を踏み入れた。
 否、踏み入れたかった。
 普段なら気にならない程の小さな何かが、耳に引っかかったのである。
 そのまま注意をしてみるが、特に何も聞こえてこない。
(聞き違いか?)
 そう思ったとき、今度ははっきりと耳にすることができた。
 どうやら、庭の方かららしい。
 今度こそしっかりと瞼を開け、隣で眠る人を起こさないように注意を払いつつ、そっと滑るようにベッドから降り立った。


 ふと、耳に入ってきた雨音で目が覚めた。
 そんな朝だった。
 肌に感じるシーツの温もりがただただ愛しく、そのまま朝寝坊の法則に従って、リナは二度目の眠りに入ろうとする。が、隣に感じるはずの気配がないことに気が付いた。
 首を巡らせれば、確かにいつもの金髪がいない。
(?)
 不思議に思いつつサイドボードの時計に目をやれば、もう少しで6時半。という処である。
 いつもは自分より遅いというのに、今日に限って珍しい。
 ぼんやりとしたままの頭でそんなことを考えていると、突然、

―――がちゃーーんっ! がたたっ!!

 と、とんでもない音が家中に響きわたった。
「な、何っ?!?」
 慌ててベッドから飛び降り、ドアを開け放つ。
 特に殺気めいたものは感じられなかったが、それでも注意は怠らず、音源と思われるキッチンへと足早に向かった。
 そっとダイニングのドアを開けて中を窺うが、怪しいものは感じられない。
 そのまま、カウンター越しにつながっているキッチンへ向かうと、見慣れた金髪が床に広がっていた。
「ガウリイっ!」
 まさかと思い慌てて駆け寄れば、
「おー、おはよう」
 なんとも軽い声が返ってくる。
 覗いたキッチンの中は、惨憺たる有様だった。
 椅子が倒れ、その側にはボウルが割れている。床は泥だらけの上ミルクがぶちまけられていた。
 そんな中、金髪の旦那は仰向けにひっくり返り、彼の胸の上には、白い……否、前は白であっただろうと思われる焦げ茶の小さな固まり………子犬が、嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振っていた。
「…………………何、やってんのよ」
 安堵の上に、呆れとも怒りともつかないような複雑な声で、自分の足下にひっくり返っているガウリイを見下ろす。
「いや、コイツにミルクでもやろーかと思ったんだが、いきなり飛びつかれて………おいおい、やめろって」
 ひょい。と起きあがりながらしゃべるガウリイの頬を、その子犬がぺろぺろと舐め出す。
「んで? そのコはどーしたわけ」
「ああ、庭の穴にハマってたんだよ。な?」
 最後は子犬に話しかけるように応えるガウリイのパジャマも、犬と同じく泥だらけになっている。
 どうやら、木を植え替えようとして掘ってあった穴の中に落ちていたらしい。
「ったく………あーあー、こんなにぐちゃぐちゃにして」
 言いつつ、割れたボウルに手を伸ばす。
「つ……」
「切ったか!?」
「ん、だいじょーぶ」
「どれ」
「へーきだってば」
「ほら、見せてみろって」
 言いつつガウリイは、リナの手をほどけない程度にそっと掴み、傷口を確かめる。
「深くはないな」
「だから、舐めときゃ大丈夫だって………」
 そのまま手を引っ込めようとしたリナより早く、ガウリイが傷口を口に含む。
「舐めときゃへーきなんだろ?」
「そーじゃなーーーーいっ!」
 何を今更という感じではあるのだが、相変わらず耳まで真っ赤になってリナが叫ぶ。
「あー、もうっ。とっととシャワー浴びて、泥、落としてきてっ!」
「へいへい」
 明らかに笑いの滲む声でガウリイが応えると、今まで大人しくしていた子犬が不意に暴れ出し、リナ目がけて腕の中から飛び出した。
「ちょっと!」
 慌てて受け止めるが、その結果、リナもガウリイと似たりよったりな状態になってしまう。
「あーっ!」
「しょーがないなぁ。一緒に入るか」
「え?」
「ほーら、行くぞー」
 ぽかんとしているリナを後目に、ガウリイは子犬を抱いてるリナごと腕に抱え上げ、バスルームへと足を向ける。
「え? ちょ、ちょっとーっ! いーってば、降ろしてっ。降ろせー!!」
 にわかにわめき出すリナをガウリイは実に楽しそうに運んで行くのだった。

 そして、朝寝坊の法則通り(?)、2人がベッドから抜け出したのは、陽もずいぶんと昇った後になる。


追記:
 次の日、迷子クンの親犬を飼っているという少年が訪ねてくるが、この子犬があまりにも2人に懐いてしまい、なし崩しに里親へとなることになってしまった。
「うーん、先に家族が増えちまったな」
「?」
「これじゃぁ、ガンバらんとなー」
「何を?」
「もっちろん、子づくり♪」
「っんの、くらげーーーーーっ!!!」


 fin



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管理者から一言:
 ガウリナ可愛いーーー!!オレも犬になって、ガウリナをつぶさに観察したいーーー!!!(バカ)
 いいですねぇ、すんごく幸せそうなガウリナ……(うっとり)
 ハーブさんのお話は、とってもラブです♪
 これからもいっぱいラブラブなお話を書いてくださりませ〜♪♪




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