さあやってきました第6巻、次第次第に話は進展し、謎は深まってゆくばかり。しかしちっとも進展も深まりもしないのがこの2人の仲。 リナとガウリイ。端から見れば実にいいフンイキな2人でも、間に何もなければ意味がない。エサのない釣り針をたらし、釣りをしている気分になるのとおんなじである。
長く釣りする気分になれば、次は本当に釣りをしたくなるではないか。いや、彼の場合、もともとでっかい魚を釣り上げるつもりでこの旅にのぞんでいるのだから、すでに釣りがしたくてたまらないはず。
(ああ…心が広くなったよな。オレ) 度のすぎた不幸は感覚をマヒさせる、とどこかの同人誌が言っていたが、すでに彼もその状態にあるらしい。好きな女が朝起きると見知らぬ男と話していた、となれば、ヤキモチのひとつも焼きたくなるのが普通の男ではないのか。 しかしこの後、アメリアの爆弾発言にガウリイは驚愕する。
「わたしたちといっしょに旅をするんだって。――と、いうよりリナさんと」
ちょっと待て、それはもしや、リナを目当てに旅をするということか!?
今まで1度もいいムードになぞなったことないくせに、よく言うものである。
「……おいおいおい、あんた、正気か!?」
リナと一緒に旅することの危険を言っているのなら、ガウリイはともかくゼルガディスが、ここまで懸命に説得する必要はない。 きっとゼルガディスがリナ達のパーティに合流した時、ガウリイはゼルの首筋に剣つきつけてすごんだんだろう。「リナに近づくな」と。
一緒にいた時間はガウリイの方が格段に長い。しかしゼルガディスは、彼らと別れながらもまた出会うという偶然を、2度も(3巻と5巻)起こしている。 剣と殺気を1度につきつけられたゼルガディスは、その場の勢いで「2人の恋(というよりガウリイの片思い)を応援する」と約束させられたに違いない。 その容姿と剣の腕で恐れられた魔剣士をもあっさり従わせ、ガウリイの押せ押せモードは衰えることを知らない、かに見えた。
この一言が、ガウリイの機能を完全停止させた。 これは決してガウリイばかりを責められない。というより、このセリフを聞いて、先に他の意味として取る人がどれだけいるだろうか? 現にアメリアやゼロスも、そっちの意味でとっている。
直接的には関係のない2人ですらこうなのだ。ましてガウリイの心情は推して知るべし。 至福の時、というのはまさにこのような状態を言うのであろう。 絶頂にゆくとあとは下るだけとわかっていても、大多数の人は絶頂に焦がれるものである。さらに言うと彼の場合、「結婚しない?」「抱いて…」などの言葉で何度でも絶頂に行くことができるのだ。結構お手軽な男である。 ―――つきあってほしいの……つきあって……つきあって――― ガウリイの耳では、延々この言葉がリフレインしていた。このままでは永遠に固まり続けて、スレイヤーズは終わってしまうかに見えたが、さすがにガウリイも少しずつ冷静になり、この言葉を深くかみしめ始める。 奥手なリナがいきなりベッドイン、なんて可能性はまずなくて――いやっ! オレはいいんだ。オレは大歓迎だが、やっぱりリナに合わせた方がいいかもしれんし……。そうなると、始めは”おつきあい”の定番―――― もしや、交換日記とかか!? 一緒に何ヶ月も旅してて書くことなんかなんにもないであろうに交換日記もないもんだが、ここまで思い至ってガウリイは顔を赤くした。
「くぉらっ! ガウリイっ! あんた、何を赤くなってんのよっ!」
まったくである。さんざんリナにすけべえな事を仕掛けようと計画し、その実行に燃えていた男が、何を今更交換日記ごときで赤くなるのか。 それとも、日記に何を書いていいかわからないから迷ってるのか、ガウリイ。普段言いたくても口にはできぬリナへの愛の睦言でも書き連ねてやればいいではないか。 しかし、オチは今回もちゃんとついてくる。
つきあってほしいのは剣のけいこ。毎晩リナと長時間一緒にいられるといつものガウリイなら喜ぶところだろうが、これはあまりにもアップダウンが激しかった。
大抵の場合、リナは自分で敵を倒してしまう。リナとガウリイでは強さの分野が違うが、同じ「戦闘力」という言葉になおしてみれば、その能力はほぼ同じくらいであろう。
しかし今回の敵は、その『分野の違い』が大きく出た。 ガウリイが喜ばないわけがない。リナの前で、いくらでもええカッコし放題なのである。ガウリイは率先して、ズーマとばかり戦った。 そしてズーマとの最終決戦の時も、リナが逃げきれない状況でズーマの足を止める、という最高のタイミングで出てきた。つくづく状況を読むのがうまい。 これは決まった。ビシッと決まった。大ピンチの時、さっそうと現れて少女を救う。出会った時は別にピンチでも何でもなかったが、今回は本当の大ピンチ。これぞ恋愛の王道、男と女を恋に落とす必勝パターン! 「ひさしぶりだな」
すっかりにやけきり、気色悪いうすら笑いを浮かべて、よだれまでたらしていそうな男にこんな挨拶をされて、ズーマに何が言えるだろうか。 ガウリイにとって幸いだったのは、この時リナに背を向けていたおかげで、彼の表情が見えないリナは「単にズーマが挨拶に答える性格じゃない」と思いこんだことであるといえよう。
だがそんな時でも、ガウリイのリナ専用感知レーダーは、鋭敏に作動する。 (リナ!? こんな時間にどこへ――)
すでに外は夜中。普通の女の子が出かける時間ではない。 やがて、リナの目的がわかったが、それはガウリイの予想を遙かに上回るものだった。 なんと、ゼロスとの密会(笑)である。 「あなたを待ってたのよ。ゼロス」
ぜひとも1度リナの口から聞きたいと思っていたその言葉が、他の男へ向けられるとこんなに神経を逆撫でするとは思わなかった。 そーゆー感情に最も敏感なゼロスは、もちろんそれに気づいていた。そしてガウリイの殺気が自分に向けられているのにも。ゼロスは柄にもなく、背筋に寒気が走った。
すんでのところで出ていくのを押さえていたガウリイは、ここで思いがけない話を聞くことになる。 これならオレのライバルにはなり得ないな、とガウリイが安堵しかけたその時、それは聞こえてきた。
「……ほめてるつもりなの?」
さんじ……サンジ……三時……惨事……いやちがう、それってリナを最大限にほめてるってことか!? ゼロスの野郎、しっかりリナを気に入ってる!? 再びさっきのでろでろオーラを身にまとわせ、ガウリイはじっとりとゼロスをねめつける。その目線だけで、ゼロスは自分が針のむしろにいる気分になった。 (恐るべしっ! ガウリイさんっ!) 魔族をも恐れさせる男、ガウリイ=ガブリエフ。彼もやはり人間ではない。
わかっているのかガウリイ? いくら恋敵を追っ払ったところで、お前自身がリナにアタックできなけりゃ、どうにもならんのだぞ!?
攻撃は最大の防御なりという。防御ができなくても攻撃ができれば倒せることもあるが、防御だけできても攻撃はできなければ、勝てる相手はいないのである。 そもそも、そこに気づいてさえいない現時点では、大願成就も遙か先の話であると容易に想像がつく。
けれどガウリイを大事に思う気持ちは確かなようである。森の中でレッサー・デーモンたちに数百本のフレア・アローで攻撃された時、リナはアメリアでもゼルガディスでもなく、ガウリイにタックルをかけて、攻撃から守った。 とはいえやはり無意識下の行動であることにかわりはない。リナが意識しない限り、この2人の進展はたれぱんだの歩みより遅いのだろう。 |