「リナーーー! どうだったーーー!?」 終わると同時にアメリアが、まったく遠慮のない勢いでリナにとびついてくる。その力をうまく逃しながら、リナはアメリアを受け止めた。
「良かったわよアメリア! だんだん演技うまくなってきたんじゃない?」
それでもやはり嬉しいらしく、アメリアの頬はゆるんでいる。
「よお、アメリア、お疲れさん」 撮影前と同じようににこにこしながら、ガウリイ今度はリナへと向き直る。
「えーと…リナだっけ? お前さんもお疲れ」
どうやら彼は自分の記憶があやふやなのに、なんの疑問も抱いていないらしい。まるでボケ老人の症状だ。 「それよりさ。オレ、夕食まだなんだけど、お前さん達も一緒に行かないか? いい店見つけたんだけど、1人じゃちょっと行きづらくてな…」 「あ、わたし行きたいです! ね、リナも行くわよね!」
急に目を輝かせたアメリアは、やけに乗り気だ。リナにはわけがわからない。 「ガウリイさんってけっこう舌が肥えてて、おいしいお店いくつも知ってるの。わたしや他の人も何度か連れてってもらったことあるけど、いっつもおいしい思いさせてもらってるのよ♪」 リナはもう一度ガウリイを見た。彼はいまだ笑みをたやさぬまま、リナの答えを待っている。 この男と話してると、なんだかこっちまで頭がボケてきそうな気もする。だが、リナとてかなり食べるのが好きで、「おいしい店」と聞くと放っておけないたちなのだ。それに、この美形俳優が「1人で入りづらい」店というのはどんな店かすごく興味がある。
「オッケー。あたしも一緒に行くわ」 まるで子供みたいな表情で嬉しそうに笑うと、ガウリイは自分の車を用意するため、くるりときびすを返して走ってゆく。 それがなんだかおかしくて、リナは知らず知らずのうちに笑っていた。
ガウリイに連れていかれた先は、リナを仰天させるのに充分だった。
それはなんと焼肉屋。はっきりいって、この男に世間が持つイメージとあまりにもかけ離れていたため、一瞬目まいを起こしかけたほどだ。 しかしこうして3人で網を囲んでいるのはしごく自然だ。じゅうじゅうと肉や野菜の焼ける音がやかましいほど辺りに聞こえ、熱気と食欲をそそる匂いがたえず伝わってくる。
それにしても、いったい誰と来てここの味を知ったんだろ?
「ちょっとガウリイ!? それあたしが焼いといたお肉さんでしょーー!」
食事の間に、すっかりリナとガウリイはタメ口になっていた。
それにしても、この豪華な顔ぶれがこの庶民的雰囲気の店にピタリと合っているから不思議だ。
にもかかわらず、誰も確信をもって声をかけてこないのは、彼らの食べっぷりがあまりにも自分達のイメージとかけ離れすぎているからだ。ゆえにみんな、『恐ろしいほどに偶然な他人のそら似』ですませてしまう。大声で名前も叫びあっているはずだが、皆イメージを保つため必死で聞かないフリをしているらしい。
「あ〜、もうお腹いっぱいゥ」
1人、アメリアだけが多少後悔しているようだが、リナとガウリイはすっかりご満悦だ。 3人分のお金を預かり、アメリアがレジへと向かった。
「あ、オレちょっと便所行ってくる」 その間に、リナは外へ、ガウリイはトイレへ行ったのだった。
しかし、それより先にガウリイの耳が、あることに気づく。
どこかから小さな、けれどとてもひきつけられる歌声が涼しい夜風に乗って聞こえ、ガウリイは無意識にその主を探す。 (…リナ…)
ずっと聞いていたい。なぜか、そんな気にさせる。 ふと、彼女の囁く歌声が自分の耳元だけで歌われているような錯覚を起こし、ガウリイは顔を赤くした。 (何考えてんだ、オレはっ……!)
彼が不可解な感情から立ち直れないでいるそのうちに。
「どうです? きれいでしょう、リナの歌」 自分がリナを見ていたのと同じく、自分もアメリアに見られていたようである。アメリアは無言で頷いた。 「なあ、アメリア…。そういやあの娘、いったい……」
考えてみれば、リナの話は何も聞いていない。どこで、何をやってるどういう人間なのかも。いや、聞いたけど忘れたという可能性もあるのだが、だったらもう一度聞いておきたいと強く思った。それに、なぜ昔会った気がするのかも。
「ガウリイさん。自分の主演ドラマぐらい、たまには見てください」
それだけ言い捨てると、アメリアはリナの方へ走っていってしまった。リナもそこでようやく2人に気づいたようだ。これではもう聞き出せない。 「あのドラマに何があるってんだ…?」
やがて、ドラマが始まり――― (あっ……!) ガウリイはそこに、『リナ』を見つけた。 |