さして広くない室内を、皓々と明かりが照らしている。 普通、明かりとは火を燃やして得る物である。だからそこには薪のはぜる音か、油の芯のこげる音がするものだ。 だが、ここからはそのどちらも聞こえて来ない。 当然だ。この明かりは火を燃やしているのではなく、部屋にいる少女が道理を越えた力で作ったものなのだから。 そしてリナが、宿屋の室内で「明かり」を使うわけといえば――ひとつしかないんである。
「開いてるわよー」
誰何の声もかけず、背後のドアを振り返ってリナが叫んだ。ドアの向こうの人物が部屋に入って来るのを待たないで、再び彼女は自分の仕事に没頭する。 「うっわ……。お前さん、またやらかしたな?」 部屋に一歩足を踏み入れた途端、ガウリイが言う。彼が見たのは、リナの周りに散乱する、一面の宝石や魔法具だ。
「そ♪ 今日はなかなか大きいとこ潰してきたからね。大収穫よ♪」 かなり前から彼は、現行犯でない限りリナの盗賊いぢめを止めなくなってきた。行く前に見つけたなら止める事も、ついて行く事もできるが、帰ってきてから叱ったところで、次に行かなくなるわけでもないからだ。
「……そんなにいい収穫だったのか?」 リナはホクホクしながらお宝の説明をする。だが悲しいかな、ガウリイにはその価値は全くといっていいほどわからない。 だから、目についた最も綺麗な石を、その手にとって転がす。 「なぁリナ。この石キレイだな」 その声に振り返り、ガウリイの手にある宝石を見て、リナは声をあげた。 「あーーーっっ!! ルビーとサファイアじゃなーーーい♪」 喜々として立ち上がり、ガウリイの手から宝石をひったくる。突然手持ちぶさたになったガウリイは、それでもわきわきと手を動かしていた。 「キレイよねぇ……。スタールビーとスターサファイアよ、これ」 蒼い石を光に透かし、リナがうっとりと呟く。 「スター…? 星なのか、それ?」
ようやく手を止めて、ガウリイが訊ねると、リナは小さく苦笑して、 ガウリイはリナが明かりにかざしてくれた、紅い石を覗き込む。先程見た時にもあったが、燃えるような紅の中には白い輝き。
「……星ってこれか?」 いかにも最後の一言が、普段から商売人と豪語するリナらしい、と思いながら、ガウリイはルビーから目を離した。代わりに、まだルビーに魅入っているリナを見る。 瞳を輝かせて、自分の瞳と同じ色の宝石を見ている、リナを。
自分だけの紅い宝石。
その時ガウリイは、ふと気がついた。 「どうした? リナ」
なんとなくボンヤリしていたリナは、かけられた声で我に返ったようだ。
「な、な、なんでもない! ……そーいえばガウリイ、何の用でここに来たの?」
「まったく……。どこ行っちゃったのよ、あのスタールビーは……」
「あっ…あれはダメなの」
ガウリイはポケットの中にそっと手を忍ばせ、入れてある物をこっそり取り出した。 ――リナの瞳みたいで手放せなかった、なんて。
リナは昨日のスターサファイアを、自分のポケットの上からさわった。 ――ガウリイの瞳に見えて、売る気がしなくなった、なんて。
「絶対言えない……」
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