俺は久しぶりに出席するクラス会で彼女の姿を探していた。
彼女とは小・中と同じ学校だった俺の初恋の人である。
きっかけは何だったのか―――と、聞かれても、もう大分前の事で忘れてしまっ
たが、彼女は小学校の時から目立つ存在だった。
それと言うのも、彼女には美術系の才能があって、絵のコンクールや毛筆や硬筆
などの選考会で入選しては、朝の集会の時に度々表彰されていたからだ。
そんな彼女は、決してコンクールだから頑張ると言う訳では無く、普段から何事
に対しても真剣に一生懸命取り組む女の子で、集中している時の彼女は、凄く素
敵な女の子に見えた。
―――当時、元気だけが取り柄の悪ガキだった俺は、そんな彼女の姿を、後ろか
ら眺める事しか出来ずに苦しさだけが胸の中に残った。
どうしてこんな気持ちになるんだろう?
小学生の時には漠然とした気持ちに答えを見つける事が出来なかったが、中学に
もなると、それが彼女に対する恋愛の気持ちと言う事に気が付いた。
そして、彼女の事が好きになるに連れて、彼女よりも輝ける自分にならなければ
……と、そんな気持ちが大きくなっていった。
そんな理由から、単純な俺は何か一つでも彼女よりも優れたものを持ちたいと、
ガムシャラに色々な事を頑張った時期があった。周りの悪ガキ仲間だった連中に
ちゃかされながらも、俺は本気で彼女に追いつきたいと思っていたのだ。
勉強も、スポーツも色々と。
その甲斐もあってか、どれもそこそこの成績を上げる事が出来るようにはなった
ものだ。だがしかし、それと同時に俺の中には何かが違うと言う違和感も感じる様
になっていた。
最初、頭の悪い俺はそれが何であるのか全く解らなかった。
学力テストではそこそこ上位に顔を出せる様になり、運動でも人に負けないだけ
の努力をしたし、昔からは考えられない様な生徒会活動なんかもやった。
それでも、俺は彼女に対して、どこか追いつけないモノを感じていたのだ。
悩んだ。
あの時くらい真剣に悩んだ事なんて、後にも先にも無かったかも知れない。
そのかいもあってか、俺は彼女の違いと言うモノが少しだけ見えてきた。
そう、彼女の努力する姿と自分の努力する姿の違いと言うものだろうか、彼女に
は彼女らしい姿と言うものが感じられるのに、俺にはそれが無い事に気が付いた
のだ。
「自分らしさ」
純粋に良い物を作りたいとか、純粋に自分の可能性を試してみたいと言う、彼女
らしくて前向きで純粋な気持ち。
俺にはそう言った純粋な気持ちが欠けていた様に思える。
その事に気が付いた時、俺はいくら自分が努力しても彼女には追いつける訳が
無いと思った。
俺には自分らしさを見付けだす事が出来るのだろうか?
そして、堂々と彼女に告白が出来る日が来るのだろうか―――
−あれから10年もの月日が流れた−
「あっ、いたいた!」
「涼君結婚が決ったんだって?」
「おめでとぉー」
「えぇ〜本当に?」
「何だよ涼、俺に一言も……」
同窓会で久しぶりに会うクラスメート達が、どこで聞いたのか、俺の結婚が決っ
た事をからかいと祝福で迎えてくれる。
「相手は瑞葉なんでしょ」
「やるぅ〜」
すると誰かが気を利かせたのか、みんなが結婚行進曲のリズムを取って、俺を会
場の中央へと押し出した。
そこには今も昔も変わらない彼女が、笑顔で俺を迎えてくれる。
「君に追いつく事が出来て良かった」
俺はそう言うと、彼女をエスコートするように手を差し伸べる。
すると彼女は―――
「えっ?」
と、少し不思議そうな顔を見せたが、俺の手へ指輪のはまった手を重ねると、あ
の頃と変わらない笑顔を見せてくれた。
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