向日葵は何故、太陽に向かって咲き続けるのか。
向日葵は何故、突き抜けるように背を伸ばすのか。
彼女はどうして、向日葵のような笑顔を絶やさないのか。
彼女の笑顔は向日葵の花――
─ONE SCENE STORY─
四季シリーズ第二弾『夏娘』
「僕が考察するに、彼女は何も考えてない――」
彼女の名前は北崎凛。
自分のことを「ボク」と呼び、人のことを「キミ」と呼ぶ彼女は、色素の薄いショートヘアーがよく似合う。笑うと八重歯がにょっきりと、少し魅惑的。屈託のない性格で大人気の彼女は、クラスの誰からもすかれてる。
そんな彼女は、常に笑っていた。
僕が彼女の悲しそうな表情を見たのは、給食の量が少ない――という、何とも色気の無い話だけ。
悲しいとは違うが、身体測定の前日に、自分の胸をもみながら困った顔をしているところを見た事もあるけれど、直ぐに笑顔で「ま、いっか」と言っていたのを思い出す。
どうやら彼女にも人並みの悩みを持つ事があるらしい。それが瞬きの間だったとしても新鮮だった。
「ボクがどうしたの?」
彼女は誰とでも親しく接する――それも、特上の笑顔で。観察している僕の視線を感じたのか、彼女がいつもの笑顔で話しかけてきた。
「え、あ、いや」
まさか気が付くとは思わなかった僕は、その時、なんと言って良いのか分からないまま、彼女の顔を正面から見る事も出来ずにうつむいてしまう。
「キミは……ボクのこと、嫌い?」
そんな訳ない、そんな訳がない。なぜなら僕は――彼女のことが大好きなのだから。
でも僕は、いつも向日葵の様な笑顔のキミに、恥ずかしくて話しかけられないんだ。
「ボク、いつもキミに話しかけても話してもらえないから……ボクのこと、嫌いなのかな……」
――え?
僕が彼女の顔に悲しみの表情を見つけたのは、これが初めてだった。給食の量が少ない――と、嘆いて見せた表情とは違う。いつも彼女を見ていた僕だからこそ分かる。
彼女は今、本当に悲しんでる――
いつでもどこでも明るい彼女。
クラスでも人気があって、彼女のことを好きな奴なんていっぱいいて。
彼女の笑顔は向日葵のよう――そんな彼女が今、本当に悲しそうにしていて……
「ボクね、キミのこと好き」
――ええ?
「な、なんで?」
「ん〜わかんないや。でもボクね……キミのこと、大好きだから」
やっぱり彼女は、何も考えていないかも知れない。
一瞬だけ見せた悲しみの表情が、今はほら、まるで向日葵の様な顔してる。
向日葵がどうして太陽に向かって伸びるのか――それは太陽の光を求めているからなんて理由は知っている……けれど、理由なんていらないのかも知れない。
彼女が笑う――僕にはそれだけで充分なのだから。
「ぼ、僕も……君のことが大好き……です」
「ほ、ほんとう?」
「うん……僕、ずっと君のことが大好きで、でも恥ずかしかったから、あまり話しかけられなかったんだ」
僕の正直な気持ち。それを、恥ずかしくても彼女の顔を正面にして告白する。
「嬉しい――」
その時の彼女の笑顔は、まるで太陽の輝きだった。
そうか――そうだったんだ。
僕はこの時気が付いた。
彼女の笑顔は向日葵なんかじゃない。向日葵の様な笑顔を引きつける、夏の太陽なんだって。
だって僕の顔も、彼女に引き付けられるように笑ってるんだから。
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