1−5.人生にやり直しが無い理由
■IO分割検定は十全な検定を充足可能ではあるが,コスト的な理由からそうすることができないから,これら検定法の役割は短絡グラフ法をメインとする因子検定の補助機能に留まるものである.因子検定,IO検定のいずれの検定を行ったにしても,矛盾の発生によって探索木のバックトラックが起こることは避けられない.しかし,それによって新たに生じるコストないし累積するコストはこの問題の解決を不可能にする.
■もしもあなたが人生に失敗し,もう一度再スタートをきらなくてはならない羽目に陥ったとしたら,あなたは何をどうすることができるだろう?あなたの人生は限られている.それが「多項式時間内に計算を完了する」という言葉の持つリアルな意味である.もしあなたが,この失敗から何かを学びとることがないとしたら,たとえもう一度人生をやり直したにしても,成功はおぼつかないのではないだろうか?さらに一歩進めて,この失敗の中にこそ,その解決のカギがあると考えることはできないだろうか?つまり,失敗とはひとつの問いであり,その質問の形をした鍵穴そのものが,その答えつまり扉を開くカギを暗黙に提示しているのではないだろうか?
■デッドロックが発生するということは,なにかしらの矛盾がそこに存在することを意味する.その矛盾はそこにある.矛盾は,ある何かに対しての矛盾である.つまり,隠されてはいるけれどもある正しい状態があり,それに対する矛盾として矛盾はそこに存在する.よろしい.それでは再検グラフ法によって人生をやり直すことができるかどうかを試してみよう.
■短絡グラフでデッドロックが発生すると,短絡グラフは確定パスを再検グラフに引き渡し,別の代替案の作成を依頼する.確定パスの中には選択を誤った枝が含まれていることは確かだが,それがどれであるかを特定することはできない.ある枝が決定的に誤っているのかもしれないし,いくつかの枝の相互作用によって矛盾が発生しているのかもしれない.
■再検法を構築する上では次のようなことが問題となる.@矛盾の原因を特定することができるのか?A矛盾を解決する方法は得られるのか?B矛盾を仮に解決できたとして,それから何処へいくのか?再検法で提示する代替案は短絡グラフのそれまでの検定フローから逸脱してワープするものとなるだろう.短絡グラフは確定パス{abcd}でデッドロックした.再検グラフが{axby}という代替案を返してきたとして,この検定の一貫性を保持することはどのようにして可能となるのだろうか?
■再検グラフは与えられた確定パスから,まずデッドロックパスを作成する.デッドロックパスにはデッドロックしたときに可能であったすべてのパスが重ね合わせて記入される.デッドロックパスと,このパスを確定したときに除去された枝集合からデッドロックマップが作成される.再検グラフとは実はこのデッドロックマップのもうひとつの名前であった.デッドロックマップには,矛盾の原因となった枝とその解決に必要な枝がともに含まれている.再検グラフはこのすべての可能な場合を含むデッドロックマップから,代替案となる確定パスを作成することができる.
■再検グラフが返す代替パスは@矛盾を発生しない.A短絡グラフの確定パスのすべての点を含んでいる,という内容のものとなる.代替パスの中に短絡グラフの確定パスのすべての点が含まれているということが,決して後戻りしない検定という要求に応えていることは明白である.再検グラフはそのグラフが非ハミルトングラフでないかぎり,必ずこのような条件を満たす代替案を提示することができる.逆に再検グラフ法で代替案を得られないときには,そのグラフは非ハミルトングラフである.
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■しかし,ここまでのことは実に夢想に過ぎなかったということが明らかになる.決して後戻りしない検定という名前を持つ再検グラフ法によって,デッドロックしない代替パスを獲得するという我々の希望は失われた.すべての可能な場合を含むデッドロックマップの中に,ある解決が存在することは確かである.しかし,そのすべての可能な場合を含むデッドロックマップを作成するということがそもそも,多項式時間内に完了することのできない作業であった.
■人生にやり直しが無いことの理由は単純かつ自明なものであるに違いない.人生をやり直すのに要する時間は,結局においてそれを一から始める時間に等しい15.再検グラフはやり直しというものがいかにコストを要するものであるかを証明する事例となった.それは,まさしくノアの大洪水のコストを要求している.
15 ここは最悪の場合には,と注釈しておいた方がよいだろう.完全に幸運の女神に見放されたというのでなければ,ほんのわずかのコストで再びコースに戻れるということももちろんあるに違いない.