1−7.大団円:グランドフィナーレに招かれた人達
■ついに我々はハミルトンパスを得ることができた.もしこのパスの終点と始点を接続する枝が存在すれば,ハミルトンタイは完成し,検定は完了する.しかしたとえば完全グラフにはN!個の異なるハミルトンパスが存在する.しかも我々は再検グラフ法で既にワープしてしまっている!ここまで来たというのに,すべてが水の泡となるのであろうか?いや,そうではない.決して後戻りしない検定を進めて来た我々は,すでにこのドラマの大詰めを迎えるところにまで来ているのだ.それではこの舞台のグランドフィナーレに招かれた人達をご紹介しよう.
■最初に登場するのは,短絡・再検グラフ法によって獲得されたハミルトンパスとこのパスをグラフGから除去して得られる残余枝集合である.残余枝集合が十分に大きければこの枝集合の枝セクショングラフ18から,もう1本のハミルトンパスを得られる可能性がある.これを繰り返してグラフGから極大なハミルトンパスのセットを切り出し,残りを残余枝集合γとする.ハミルトンパスは互いに共通な枝を持たず,また枝集合γにはこれらのパスの終点と始点を接続する枝は存在しない19.
■1本のハミルトンパスにはN−1本の枝が含まれる.このようなハミルトンパスが最大N/2本切り出せる可能性があるから,N行×N/2列のマトリックスにこれらハミルトンパス上のすべての枝を整列させることができる.1つの列は1本のハミルトンパスに含まれる枝から構成され,1つの行に並ぶ枝は一番左の列にあるハミルトンパスに現れる点を基準に整列される.残余枝集合が空でない場合には少なくとも列の1本は余っているので,その列は残余枝集合が使うことにする.
■マトリックス上にはボタンが配置され,ボタンの上にはその枝の終点の記号を示すラベルが貼られている.各列には何も書かれていないラベルを持ったボタンが1個あり,その他のボタンのラベルにはすべて異なる記号が書き込まれている.各行のボタンの上のラベルもすべて異なる記号を持っている.ボタンを押すとそのボタンに収納されたランプが点灯し,ラベル上の記号がすべて異なるN個のランプの点灯に成功すると,パネルの正面に付いている大きなランプが点灯してファンファーレが吹き渡ることになっている.
■そろそろお客さん達も出揃って,大きなパネルを取り囲みゲームが始まったようだ.まず第1列のボタンをすべて押してランプを点灯する.一つだけ点灯しないボタンがあるので,その行の中で別のボタンを探して点灯させる.ところが,このボタンを押すとそのボタンと同じ記号を持ったランプが,ろうそくが燃え尽きるときのような明滅効果とともに消えてしまう.そのたびに大きなため息まじりのどよめきが沸き上がり,しだいにゲームは白熱したものになってゆく.さて,果たしてこのゲームは明け方までに勝負が付くのだろうか?我々の求める「数学的に証明された幸運をコントロールするための方法」はついに見出されたのであろうか?
18 枝集合によって定義される部分グラフ.その部分グラフの点集合が枝集合の端点の全体からなるものをいう.
19 新たなハミルトンパスを1本見つけだすということは,すべてをご破産にして家財道具を売り払い新大陸に移住してから10年後に,もう一度新たな破産を迎えるということを意味している.従って,最初の第1幕からk本のハミルトンパスを見出すまでの間には,優に50年が経過しているということに注意して欲しい.