2−2−2.ダイアモンド図形


ダイアモンド図形は,その図形をグラフに埋め込むことによって,必ずそのグラフを非ハミルトングラフとしてしまうようなある特殊な図形クラスである.ハミルトン通路およびダイアモンド図形は前節に既出しているが,ここで厳密な定義を与える.

定義2-2-2.1: ハミルトン通路

必ずしも連結でないグラフGのすべての点を通る互いに疎なパス集合(長さ0のパス,つまり点を含む)をPとする.Gの真部分点集合SがPのパスのすべての端点を含むとき,SはGのハミルトン通路Pを持つという.

定義2-2-2.2: ダイアモンド図形

必ずしも連結でないグラフDの真部分点集合Sがハミルトン通路を持たないとき,グラフDはSを接合部とするダイアモンド図形であるという.

連結なグラフGの真部分グラフDがダイアモンド図形であり,Dが接合部SによってのみグラフGに連結しているとき(Sの点を除去することによって,グラフGがDとそれ以外の部分に分割されるとき),「ダイアモンド図形DはグラフGに埋め込まれている」という.

ハミルトン通路はグラフGの全域パス集合であり,ダイアモンド図形とはGのある部分点集合Sがハミルトン通路を持たないようなグラフである.特に,任意の偶サイクルは,サイクル上の点を1つ置きに取った点集合を接合部とするダイアモンド図形である.

定理2-2-2.1: ダイアモンド図形の埋め込み

グラフGの真部分グラフGdがダイアモンド図形であり,GdがGに埋め込まれているとき,グラフGは非ハミルトングラフである.

証明: ダイアモンド図形の定義により明らか.

定理2-2-2.2: 非ハミルトングラフの完全部分グラフ

非ハミルトングラフGが完全部分グラフKを持つとき,グラフGはKを接合部とするダイアモンド図形である.特に,Gの隣接する2点をx,yとするとき,グラフGは{x,y}を接合部とするダイアモンド図形である.

証明: ダイアモンド図形の定義により明らか.

すべての非ハミルトングラフにはダイアモンド図形が(真部分集合として)埋め込まれていると言えるだろうか?答えはおそらく否定的である.たとえば,メッシュグラフのようなグラフでは,グラフのある特定の部分を取り出してダイアモンド図形であると示すことはできないと考えられる.おそらく非ハミルトングラフは,内部にダイアモンド図形を持つクラスとそうでないクラスの2種に区分されると考えてよいだろう.

グラフの内部に埋め込まれたダイアモンド図形を効率的に検出する方法は現在のところ発見されていない.この問題の難しさは,k端子分割検定の計算量が最悪指数オーダーになることと同等であると想定される.