冷たい森・リンクについて
ここに,「冷たい森」というキーワードでウェブから抽出した18個のリンクがあります.冷たいという形容詞も,森という普通名詞もごくありふれたものですが,これらの2つの平面ないし空間が交わってできる「冷たい森」という線ないし面には,何かある著しい特徴があるような気がします.
これらのページの作者は,プログラマー,童話作家,作曲家,シンガーソングライター,映画関係のライター,高校の国語の先生,ゲームソフト制作者,詩人,SF作家,弁護士,などなど,まったく千差万別です.これら18個のうち,タイトルとして使われているのが2,詩,ハイクないし歌詞の中に現れるものが9,小説中に3,評論ないしエッセイが4あります.
実は,「冷たい森」というのは私が20歳の頃に仲間と作った詩集のタイトルです.私は,ひんやりとした森の中を散策するときの孤独を愛していましたが,その感じを表現する適切な語句を見つけることができないまま,それを「冷たい森」と言い表しました.冷たい森ということばには,なにか観念的な響きがありますが,実はもっと肉体的ないし全身的な感覚を表出しようとするものです.これにはもちろん,頭蓋骨の中にある「意識」,どなたかのことばを使えば,「頭の中のクラゲ」のようなものも包摂されています.
私が「冷たい森」に関わるリンクを探して見たという動機には,ウェッブ上での(これを世界における,と言い換えることには若干無理がありますが,近い将来にそうなることは間違いありません)自分自身の位置を測定してみたいという欲求があったように思われます.私は一貫してマイナーな位置に自分を置いてきているので,このことばでリンクする場所があるとすれば,それはかなり自分に近い場所ではないだろうかという予感はありました.(本当のところを言えば,こんなことばの出てくるようなページはどこにもないだろうと思っていました.)
私は,明らかに予測した以上のものを発見しました.私の感覚では,ウェブのこのむっとするような空気はあまり身体によいものではありません.しかし,ウェブ上,つまり地上には,まだ清浄な(正常な)空気と水が残っているということが今回のサンプリングで分かりました.女+裸で検索されてくるような,膨大なというより絶対的に閲覧不可能なほどに夥しい資料の海に浮かぶこの小さな環礁の発見は,私を多少ハッピーにしてくれています.
ある人は,このタイトルを見て「怖そう!」と言いました.冷たい森ということばないし存在を人間に敵対する何かのように感じるという感覚は必ずしも外れたものではないと思うのですが,このような解釈ないし定義に基づいて書かれた記述が上のリンクにもいくつかあります. Yokohama Cherry や Cyberex の記事はその典型ですが,森の中に何か危険が潜んでいるという感覚は赤ずきんの例を引くまでもなくノーマルなものであるかもしれません.
森という言葉の中には,すでに何かしらあるいはいくぶんかエロチックなものが含まれているでしょう.そこには,生い茂った草があり,湿り気があり,特有の香気があります.森の中に入って行くという行為そのものがすでに,ある種の出来事であったかもしれません.それを冷却する森の冷気は,確かに絶妙のバランスをしかも恒常的に安定に保つ装置です.
英語版では,「冷たい森」を CoolForest と表記しています.しかし,英語では cool forest と言うと結構ありふれた表現になってしまうので,むしろ chilly forest と呼ぶ方が日本語の語感に近いようです.米国のサイトに1つ,chilly forest を haiku の中で使っているものがありました.ちなみに,"cool forest" をキーワードにしてinfoseek で探したところ261件該当がありました.まだチェックしていませんが,この中に冷たい森・リンクに入るようなサイトが見つかる可能性はあります. M.N. 99/11/20