「リナちゃんは乙女ちゃんなの、初めてだから優しくしてね☆愛のローリングサンダー
ブラックガウリイっっ!生殺し、身もだえ編一人でいっちゃイヤ」のはなし。
   〜その3〜


 早くも好評(だと思う)おちょくりシリーズ第3弾、今回は登場人物が一気にどちゃっと増え、その分人間関係も複雑なものになってゆく。

 愛するリナが自分の目の前で男たちにすけべーこまされそうになったのをなんと縛られたまま、つまり口先だけでガウリイが追っ払ったところからが今回の事件の始まりだ。めずらしく…というより、彼が単独の頭脳戦で勝利を収めたのは、おそらくここだけではないだろうか。どれだけガウリイが、男どもをおっぱらうのに普段ガッチガチに錆びついてる脳ミソをフル回転したかが知れるというものだ。
 それにしても「病気がうつるぞ」。ほんっとーに、リナがあばずれ女でもあるかのよーな言い草である。本当にリナに性病がうつってたら、うつした奴を怒りと嫉妬で半殺しにするのはお前ではないか。まさかお前自身が病気もちなんじゃあるまいな、ガウリイ。

 だがこれは、あくまでも始まりにすぎなかった。事件は、常に何度も連続してやってくるものなのだ。




 レゾが生きているかもしれない。その考えは、ゾンビ以下の脳みそをもつガウリイさえをも苛んだ。もしそうだとしたら。あれだけの戦いで倒せなかった相手を、次は確実に仕留める確立など、いったいどれだけあるというのだろう。

 眠れない。なかなか寝つくことができない。隣の部屋でリナは今、どんな寝顔で寝ているのか、それを思うと――――

 (って、そーーじゃない!!!)

 さすがに夜中なので声に出して絶叫することは控えたガウリイだったが、頭を冷やしてこようとトイレに出た。あくまでも、眠れないのはレゾのことで悩みが深いからだと自分に言い聞かせて。煩悩の強い男はこれだから困る。もっとも、ここで素直になられるとそれはそれで面白くないが。

 しかし、トイレから帰ってくるとますます目がさえて眠れなくなってしまった。
 これまでの何度かの野宿で、すでにリナの寝顔は堪能ずみである。幸せそうな顔、難しそうな顔、かなりの寝顔を楽しむことに成功してきたのだ。だが、ただひとつ野宿では見られないものがあった。

 それはリナのパジャマ姿っっっ!!

 こればっかりは、野宿ではどーしようもない。野宿ではパジャマが汚れてしまうので、使われることもないからだ。
 見たい。どうしても見たい。なんとしても見たい。一度考えだすと止まらなくなるというこの点が、ガウリイを単純男と呼ばせるゆえんであろう。

 かくなる上は今夜、今すぐ、なにがあっても見てやる。男の欲情をそそる神器のひとつ、麗しのパジャマ姿ぁぁぁぁ!!! もしかするともしかして、リナが気づいて起きるかもしれない。だがしかーし! その場の勢いで押したおせる望みも、十二分にあるではないか!! なんといってもリナがいるのはベッドの上、まさにまな板のうえのコイ!!

 トゥナ〜イトゥナ〜〜イ トゥナイトゥナ〜イ 今夜こそ〜おまえを〜〜 オトしてみせ〜る〜〜♪と某世良氏の歌声をBGMに、ガウリイは部屋に戻り、とりあえず窓から様子をうかがった。いやあ、なんと楽しく都合よく、思考回路の回る男であろうか。こーゆーのを”楽天主義”というのである。覚えておこう。テストに出るかもしれないぞ。

 ところが、その肝心かなめなリナの部屋の窓は、思いがけないことに開いていた。身をのり出して見てみると、どうも部屋はもぬけのカラらしい。

 (どこに行ったんだ、あいつ?)

 なにげなく視線を巡らせると、ふと、見慣れた栗色の髪と闇色のマントが目に入る。リナだ。どうもどこかへ向けて、走っていくようである。
 どこへなにをしに行こうというのだろう。はっきりいってもう真夜中。よい子はおやすみの時間である。しかもあっちは森の方向だ。
 こんな時間に、女の子がひとり、こっそり宿を抜けだす理由………

 男か!!?

 そういや夕飯の時分から、そわそわしてて落ちつかなかった。もしかするとあの時点で、すでに誰かと会うつもりだったのか。まさかと思うがこの辺の、どこかの男に一目惚れ!? いやそうじゃないとしても、前からの知り合いというセンも十分ありうる話だろう。
 こんな夜中に森の中、いるのは若い男と女。会えた2人は気持ちが高ぶり、そして×××を●●●●………………

 うおおおおおぉぉぉぉ、許さーーーーーんっっっ!!!!

 暴走モード爆裂ブッちぎりのガウリイは、エイトマンもびっくりのスピードで後を追いかけた。
 たしかにこの時、リナは人に会いに行っていたのである。しかもむくつけき男。しかも複数。ガウリイにこんな教え方をしたら、衝撃のあまり血管が切れるだろうか。だが、その正体が盗賊というのは、さすがに予想がつかなかったようだ。

 すぐにリナには追いついたが、ここでひとつ問題が発生した。それはどうやって、リナの足を止めるのかということだ。こーやって森の中を歩いているのは立派に彼女の自由意志。「ガウリイには関係ないじゃない! そんな口うるさい保護者ならいらないわ!」などと言われた日にゃ目もあてられない。
 そんなわけでガウリイが後を追いながらほとほと困っていると、いきなり火が見えてきた。周りに人もいる。そいつらの格好からすると、盗賊団のアジトのようだ。リナがこっそりそちらをうかがい、なにやら準備しているのをガウリイはつぶさに観察していた。そして。

 「たすけてぇっ!」

 リナが走りながら叫び、盗賊のひとりに『しがみつく』!

 ……ぷちぃ。

 ガウリイのひたいに、青スジがたった。

 オレにだって……オレにだって緊急の時のほかは、してくれたことないのに……オレにだって……あんなヤローに……あんな……

 ガウリイの頭はすっかり、「『自分から』男に抱きついたリナ」で占められていた。しかもリナは、男の腕の中でかすかに身をふるわせている。

 リナが……オレのリナが……あんなヤローの腕の中で……腕の中……うでの……

 彼が思考トリップしている間に、辺りはリナの呪文で地面と盗賊が仲良くふっとび、阿鼻叫喚の地獄絵図状態なのだが、そんなことガウリイにはどうでもいいらしい。しかしその時。

 ひるるるるるる……… べちぃっ!

 ガウリイの足下に、人がとんできて墜落した。見ると、それはなんとさっきリナが抱きついた、盗賊団のひとり。

 ぶみゅぃいぃっっ!!

 かかとを下にしたガウリイの靴底が、思いっっっきし盗賊の顔に命中した。



 しばらくしてやっと我に返り、今まさにおたからを物色しようとしていたリナをガウリイは連れだした。自分の勝手な想像とはいえ、かなり身を揉まされたので、どうしても語調が荒くなる。

 「真夜中に一人でこっそり宿を抜け出したりするから、一体何かと思ったら……」

 男かと思ったじゃないか!とはさすがに言えないのでだまっておく。
 しかし、せっかく威厳をとりもどし、一度おさまった妄想癖も、次のリナの一言で見事に大ー復ー活ー!を果たした。

 「明るい将来設計のこと」

 ほっっ!!ほんとかリナァァ!!?
 そうか、ついにオレと一緒に、2人手に手をとりあい歩んでくれることを決心してくれたのかぁぁぁ!!うんうん、やっぱり子供に辛い思いをさせたくないからな、金はたしかに必要だろう。だがしかしリナ、お前は大きく思い違いをしているぞ!
 将来設計より先に、話し合うことがあるだろう。そう、それは家族計画!!
 善は急げだ、さっそく今夜から毎晩じっくり語りあおう!オレはリナとの子供だったら何人いてもかまわんぞぉ!!

 この間、リナが次の言葉を続けるまでの0.2秒。いつもは5歳の子供ほども回らない頭が、なぜこーゆー時だけシナプス(脳の神経連結細胞。思考の早さに大きく関連する)繋がりまくりなのか。まるでサラブレットのようである。普段は走らせてもらえないため、試合の時は反動で大きな力を発するというアレだ。

 とはいえ、すでにこの2ヶ月で彼女の言葉には何の含みもないことを知ってしまっている悲しき男は、その頭の中の思考とリナに受け答えする思考とを見事に使い分けるという、実に器用なことをやってのけたのだった。
 せめてもう少し、「夜の森に2人きり」というムードにひたり妄想を暴走させたかったのだが、直後ヴルムグンを名乗る男に襲撃され、それもままならなくなってしまった。相変わらず不幸な男である。




 やがて瘴気の森に入り、再会したランツ、ゼルガディス、シルフィールに、新しく出会ったエリス、それに愛しの(笑)リナと、自分の計6人で神聖樹の根が作りあげた洞窟へ入りこんだ。もっと戦力が欲しいがどうするか、という話になった時、シルフィールがこの木の奥にある剣を取りに行けばいいと言いだしたのだ。

 「あと一人――そうですね、ガウリイさま。いっしょに来ていただけますか?」
 「オレ、か?」

 ガウリイはついちらり、とリナの方を見た。
 シルフィールが自分に、一般的な好意以上のものを抱いているのは知っていた。もしかするとこの機に、告白してくるつもりなのかもしれない。いや、そんなことどーでもいいが(ひでえ)、これはつまりリナと一時でも離ればなれになることではないかっっ! それは力いっぱいイヤだっっっ!
 とはいえ、さすがに冒頭の”見張りA、Bを追っ払うための舌先三寸攻撃”で思考力を使い果たした彼に、これ以上の知恵を求めるのは無理であった。助けを求めるようにリナの方を見るが、願いは天にもリナにも通じず、彼はシルフィールとの行動を余儀なくされてしまう。

 実はガウリイは、シルフィールが少々苦手だった。かつてガウリイがこの町へ来た時、とある事件のためガウリイは町の救世主とまで言われたのだが、その英雄視された機会に便乗し、彼は来る者拒まず去る者追わずの精神で寄ってきた女と片っぱしから床を共にした。リナとランツに、「あちこちの女に見境いなしに手を出しまくったとか」「子供いっぱいできてたりして」などとからかわれた時はっきり否定しなかったのは、それが原因である。どちらかと言うと、否定できなかったとゆーのが正しい。この町へ来るのに気のりしなかったのも、リナ達の冗談と同じ想像をしてしまい、確認するのがこわかったからなんじゃなかろうか。
 別にシルフィールに触れたわけではないのだが、彼女の親父さんはこの町の神官長という聖職についている。彼女自身も巫女頭で神官志望だ。そういう聖職関係でしかも自分に慕情を寄せている女性というのは、概してこのような話をするとどんな反応をするか全くわからない。ましてその当時、自分としっかり知り合いで、同じ町にいたというのだから。リナとはぜんぜん違う意味で、サイラーグでの過去を知られたくない人ではあった。

 とにかく急ごう。つーか、シルフィールの話はとぼけてりゃすむが、やっぱりリナが心配だ。
 シルフィールが何か言いたげにしていても、その隙を与えないほどの早さでガウリイは進んでいった。



 やがてたどり着いた、『祝福の剣』(ブレス・ブレード)。これを持って帰れば、またリナと一緒にいられるとガウリイはとても喜んだ。

 「早く、これを持って帰らなきゃな」
 「…そうですね。リナさんやゼルガディスさんたちの事も気がかりですし。でも…」

 もう少しガウリイ様とゆっくり…と続けていたシルフィールの言葉を、もはやガウリイは聞いていなかった。シルフィールの一言で、またもあっちの世界へ行っちゃっていたからである。

 …………。もしかして、いや、もしかしなくても今、オレがいないリナのそばに、ゼルガディスとランツがいる………………?
 いかんいかんいかああぁぁぁぁんん!!! ゼルガディスはリナに惚れてるかもしれない(1巻参照)やつだし、ランツだってリナをナンパしたことがあるではないかぁぁぁぁ!!! いくら今、リナの頭があの偽レゾのへの対策でいっぱいだったとしても、あのウブな彼女が真剣に告白されたらどーーなるかっ!? 一度懐に入れたものに弱いリナのこと、考えたくもないことだが、オレよりそいつを意識して、気持ちが傾いたらどーしてくれるっっ!!

 ダメだあああぁぁぁぁ!!! あいつはオレのもんだぁぁぁぁ!!!!

 鼻血でも吹きそーな勢いで声なき絶叫をあげたガウリイに、もしかして巫女であるシルフィールは、近づきがたい…というよりとても好んで近づきたくない何かを感じたかもしれない。しかしガウリイはそれに構わず、シルフィールの手をひっつかみ一目散に駆け戻った。
 この時、リナはランツとエリスに襲われ重傷を負っていたのだが、ゼルガディスいわく「思ったより早く帰ってきた」ガウリイ達に助けられるのは、また後の話である。





 そして一人の名もない男、通称コピーレゾと呼ばれる彼が倒れたことによって今回の事件は幕を下ろしたのである。だが我々は、とても重要なことに気づかなければならない。

 ガウリイ。お前はリナをオトすために一緒にいるんじゃなかったのか? なのに今回はなんだ、リナの周りから男たちを追っぱらうことだけに終始し、お前自身のアプローチはぜんっぜん行われていないではないか!?
 リナをオトすのが目的で保護者を自称してゴマかしてるのに、本当の保護者やっててどーする!?

 しかも困ったことにガウリイはこの矛盾点にまったく気づいていなかった。だんだん目的がズレてゆくガウリイに、彼の計画もこのシリーズも前途多難であると言わざるをえない。


   ブラックサンダーガウリイごーごーっっ♪
   リナちんを汚すぅ、その日のために、日夜闘い続けるお〜と〜こおお〜♪♪
   ごーごーごーごーっっ♪♪♪







 決戦の時、リナはケガをしたガウリイに向け、「すぐに決着をつけるから待ってて」と心の中で呟いた。これで十分、リナがガウリイの事を良き仲間として認めているのがわかる。だが、ガウリイに想いを寄せるシルフィールに「へんなしゅみ」という感想をもったところからしても、これが恋愛感情に発展するにはまだまだ時間がかかりそうだ。




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