「リナちゃんは乙女ちゃんなの、初めてだから優しくしてね☆愛のローリングサンダー
ブラックガウリイっっ!生殺し、身もだえ編一人でいっちゃイヤ」のはなし。
   〜その6〜


 さあやってきました第6巻、次第次第に話は進展し、謎は深まってゆくばかり。しかしちっとも進展も深まりもしないのがこの2人の仲。
 リナとガウリイ。端から見れば実にいいフンイキな2人でも、間に何もなければ意味がない。エサのない釣り針をたらし、釣りをしている気分になるのとおんなじである。

 長く釣りする気分になれば、次は本当に釣りをしたくなるではないか。いや、彼の場合、もともとでっかい魚を釣り上げるつもりでこの旅にのぞんでいるのだから、すでに釣りがしたくてたまらないはず。
 増える一方なおジャマ虫にかまいもせず、今度こそリナをオトすとの決意をさらに固め、ガウリイはリナ(&その他大勢)との旅を続けるのだった。







 ある朝起きて食堂に降りると、黒髪にニコ目の神官がリナと同席していた。
 一瞬ムカッときたが、依頼人である可能性も考慮して、とりあえず穏便にしておくことにする。

 (ああ…心が広くなったよな。オレ)

 度のすぎた不幸は感覚をマヒさせる、とどこかの同人誌が言っていたが、すでに彼もその状態にあるらしい。好きな女が朝起きると見知らぬ男と話していた、となれば、ヤキモチのひとつも焼きたくなるのが普通の男ではないのか。

 しかしこの後、アメリアの爆弾発言にガウリイは驚愕する。

 「わたしたちといっしょに旅をするんだって。――と、いうよりリナさんと」
 (原作のアメリアは、5巻以降もたびたびリナに『さん』づけしており、これも誤植ではない)
 『なにぃっ!?』

 ちょっと待て、それはもしや、リナを目当てに旅をするということか!?
 今さらおジャマ虫がさらに1匹増えるのぐらい、オレとリナがいいムードの時に邪魔しなきゃそれでいいが、リナ狙いで旅をする恋敵を見逃すほどオレは甘くないぞっっ!!

 今まで1度もいいムードになぞなったことないくせに、よく言うものである。
 さっきまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、ゼルガディスと2人、ゼロスを思いとどまらせようとする。

 「……おいおいおい、あんた、正気か!?」
 「いやー。それだけはやめといた方がいいと思うな。オレは」
 「ああ。忠告してやる義理はないが、言っといてやる。やめとけ」
 「そうそう。人生投げてどーするんだよ?」

 リナと一緒に旅することの危険を言っているのなら、ガウリイはともかくゼルガディスが、ここまで懸命に説得する必要はない。
 少しだけ親切さんになった、などという説もあろうが、筆者はここで「ガウリイに脅された」説を提唱する。

 きっとゼルガディスがリナ達のパーティに合流した時、ガウリイはゼルの首筋に剣つきつけてすごんだんだろう。「リナに近づくな」と。

 一緒にいた時間はガウリイの方が格段に長い。しかしゼルガディスは、彼らと別れながらもまた出会うという偶然を、2度も(3巻と5巻)起こしている。
 女の子は『偶然』という言葉を『運命』と勘違いして恋に陥りやすい。「1度目は偶然、2度目からは必然」なんていう言葉もある。

 剣と殺気を1度につきつけられたゼルガディスは、その場の勢いで「2人の恋(というよりガウリイの片思い)を応援する」と約束させられたに違いない。

 その容姿と剣の腕で恐れられた魔剣士をもあっさり従わせ、ガウリイの押せ押せモードは衰えることを知らない、かに見えた。











 「……ちょっとその……今夜。つきあってほしいの」

 この一言が、ガウリイの機能を完全停止させた。
 つきあってほしい。しかも今夜。今夜といえば夜である。夜といえば、夜といえば………。

 これは決してガウリイばかりを責められない。というより、このセリフを聞いて、先に他の意味として取る人がどれだけいるだろうか? 現にアメリアやゼロスも、そっちの意味でとっている。

 直接的には関係のない2人ですらこうなのだ。ましてガウリイの心情は推して知るべし。
 彼の頭の中には、百花繚乱花畑の狂い咲きに、賛美歌が高々と響き渡り、輝く光の中小さな天使たちや美しい蝶が舞い踊っていた。
 いや、もしかして混乱のあまり、銭湯の脱衣所でハゲちゃびんが集団でよさこい踊りを踊っていたのかもしんないが、とにかく彼は幸福の絶頂にいた。

 至福の時、というのはまさにこのような状態を言うのであろう。

 絶頂にゆくとあとは下るだけとわかっていても、大多数の人は絶頂に焦がれるものである。さらに言うと彼の場合、「結婚しない?」「抱いて…」などの言葉で何度でも絶頂に行くことができるのだ。結構お手軽な男である。

 ―――つきあってほしいの……つきあって……つきあって―――

 ガウリイの耳では、延々この言葉がリフレインしていた。このままでは永遠に固まり続けて、スレイヤーズは終わってしまうかに見えたが、さすがにガウリイも少しずつ冷静になり、この言葉を深くかみしめ始める。

 奥手なリナがいきなりベッドイン、なんて可能性はまずなくて――いやっ! オレはいいんだ。オレは大歓迎だが、やっぱりリナに合わせた方がいいかもしれんし……。そうなると、始めは”おつきあい”の定番――――

 もしや、交換日記とかか!?

 一緒に何ヶ月も旅してて書くことなんかなんにもないであろうに交換日記もないもんだが、ここまで思い至ってガウリイは顔を赤くした。

 「くぉらっ! ガウリイっ! あんた、何を赤くなってんのよっ!」
 「……いや……だって……なぁ……」

 まったくである。さんざんリナにすけべえな事を仕掛けようと計画し、その実行に燃えていた男が、何を今更交換日記ごときで赤くなるのか。
 最近は中学生にだってこんなヤツはいない。案外おかしなところで純情な男だ。

 それとも、日記に何を書いていいかわからないから迷ってるのか、ガウリイ。普段言いたくても口にはできぬリナへの愛の睦言でも書き連ねてやればいいではないか。

 しかし、オチは今回もちゃんとついてくる。

 つきあってほしいのは剣のけいこ。毎晩リナと長時間一緒にいられるといつものガウリイなら喜ぶところだろうが、これはあまりにもアップダウンが激しかった。
 いつもなら気づく小さな幸せにも気づけないほど、先ほどの幸福感が強すぎたのだということだろう。








 リナと2人でいる時は単なる妄想すけべえオヤジのガウリイも、リナと一緒に戦う時は立派な彼女の相棒である剣士だ。ましてリナ1人ではどうにもならない敵との闘いに助太刀する時、気分はもう完全にリナのナイトである。

 大抵の場合、リナは自分で敵を倒してしまう。リナとガウリイでは強さの分野が違うが、同じ「戦闘力」という言葉になおしてみれば、その能力はほぼ同じくらいであろう。

 しかし今回の敵は、その『分野の違い』が大きく出た。
 いろいろ要因はあるのだが、リナではそいつ――ズーマにかなわないのだ。

 ガウリイが喜ばないわけがない。リナの前で、いくらでもええカッコし放題なのである。ガウリイは率先して、ズーマとばかり戦った。

 そしてズーマとの最終決戦の時も、リナが逃げきれない状況でズーマの足を止める、という最高のタイミングで出てきた。つくづく状況を読むのがうまい。

 これは決まった。ビシッと決まった。大ピンチの時、さっそうと現れて少女を救う。出会った時は別にピンチでも何でもなかったが、今回は本当の大ピンチ。これぞ恋愛の王道、男と女を恋に落とす必勝パターン!

 「ひさしぶりだな」

 すっかりにやけきり、気色悪いうすら笑いを浮かべて、よだれまでたらしていそうな男にこんな挨拶をされて、ズーマに何が言えるだろうか。
 ガウリイが最初間合いを詰めた時、”大きく後ろに跳”んだのは、なんとなく直接攻撃でガウリイに触れたりしたくなかったからに違いない。

 ガウリイにとって幸いだったのは、この時リナに背を向けていたおかげで、彼の表情が見えないリナは「単にズーマが挨拶に答える性格じゃない」と思いこんだことであるといえよう。









 今回の闘いも一段落して。
 またガウリイは、最後の最後でいいところをリナに見せてやることができなかったと、落ち込んでいた。

 だがそんな時でも、ガウリイのリナ専用感知レーダーは、鋭敏に作動する。

 (リナ!? こんな時間にどこへ――)

 すでに外は夜中。普通の女の子が出かける時間ではない。
 盗賊いぢめか、ただの散歩か。どっちにしろ心配でこっそり後をつけた彼には、自分がストーカーと呼ばれる存在になりかけている自覚など微塵もないのであろう。

 やがて、リナの目的がわかったが、それはガウリイの予想を遙かに上回るものだった。

 なんと、ゼロスとの密会(笑)である。

 「あなたを待ってたのよ。ゼロス」

 ぜひとも1度リナの口から聞きたいと思っていたその言葉が、他の男へ向けられるとこんなに神経を逆撫でするとは思わなかった。
 ガウリイの全身からは、真っ黒なオーラがでろでろでろとわき出ている。ちょうどドライアイスをまっ黒に染めて、かてかてに濃縮して凝り固まらせたものを煙にしたら、こんな感じになるだろうか。ちょっと勘の鋭い人になら見えるかもしれない。

 そーゆー感情に最も敏感なゼロスは、もちろんそれに気づいていた。そしてガウリイの殺気が自分に向けられているのにも。ゼロスは柄にもなく、背筋に寒気が走った。

 すんでのところで出ていくのを押さえていたガウリイは、ここで思いがけない話を聞くことになる。
 ゼロスが魔族。そうか、やけに人間離れしていると思ってたけど、やっぱり人間じゃなかったのかと、自分がリナに似たようなことを言われているのも棚に上げて、話にうんうんと頷くガウリイ。

 これならオレのライバルにはなり得ないな、とガウリイが安堵しかけたその時、それは聞こえてきた。

 「……ほめてるつもりなの?」
 「ほとんど最高の賛辞ですよ」

 さんじ……サンジ……三時……惨事……いやちがう、それってリナを最大限にほめてるってことか!? ゼロスの野郎、しっかりリナを気に入ってる!?
 許せん…許してなるものか!! リナはオレのだああぁぁぁ!!!

 再びさっきのでろでろオーラを身にまとわせ、ガウリイはじっとりとゼロスをねめつける。その目線だけで、ゼロスは自分が針のむしろにいる気分になった。

 (恐るべしっ! ガウリイさんっ!)

 魔族をも恐れさせる男、ガウリイ=ガブリエフ。彼もやはり人間ではない。









 目線だけで恋敵(今回はそうではないが)を牽制する。それはすばらしい技術だが、彼はひとつ、大事なことを忘れている。

 わかっているのかガウリイ? いくら恋敵を追っ払ったところで、お前自身がリナにアタックできなけりゃ、どうにもならんのだぞ!?

 攻撃は最大の防御なりという。防御ができなくても攻撃ができれば倒せることもあるが、防御だけできても攻撃はできなければ、勝てる相手はいないのである。
 リナにちょっと色めいた事を言われて赤くなる。そんな状態を打破しなければ、彼に明日はない。

 そもそも、そこに気づいてさえいない現時点では、大願成就も遙か先の話であると容易に想像がつく。


   ブラックサンダーガウリイごーごーっっ♪
   リナちんを汚すぅ、その日のために、日夜闘い続けるお〜と〜こおお〜♪♪
   ごーごーごーごーっっ♪♪♪








 ガウリイが”つけあわせのパスタ”をすすっている時、その頭までもパスタ状態にした、リナの「今夜つきあってほしいの」発言。我々には非常に残念ながら、これはリナがガウリイをはっきり自分の好きな男性として認識してはいないということだろう。
 認識していればこれは立派な誘いだが、彼女はこういう、あだっぽい誘いを人前で堂々とかけられるタイプの女性ではないからだ。リナの性格は(ガウリイほどではないにしろ)見る人によって違いが出るが、これだけは共通した意見だと思う。人前で告白するなら、もっとストレートにいくはずだ。

 けれどガウリイを大事に思う気持ちは確かなようである。森の中でレッサー・デーモンたちに数百本のフレア・アローで攻撃された時、リナはアメリアでもゼルガディスでもなく、ガウリイにタックルをかけて、攻撃から守った。
 アメリアやゼルは魔法を使えるが、ガウリイは使えないということを考慮して、ガウリイを助けるのが1番得策と判断した、と考えることもできるが、せっかくだからここはリナが無意識に「彼を守るのは自分でありたい」と思った、という説を提唱する。

 とはいえやはり無意識下の行動であることにかわりはない。リナが意識しない限り、この2人の進展はたれぱんだの歩みより遅いのだろう。




 小説3に戻る