「リナちゃんは乙女ちゃんなの、初めてだから優しくしてね☆愛のローリングサンダー
ブラックガウリイっっ!生殺し、身もだえ編一人でいっちゃイヤ」のはなし。
   〜その8〜


 前回で、姑息な手段を見せ、リナと一気に距離を縮めたムッツリスケベ男、その名はガウリイ=ガブリエフ。保護者という地位をたくみに利用して近づき、リナを一気に捕らえようとするそのさまは、まるで花に擬態してエモノを捕らえる、ハナカマキリのようである。

 しかしながら、今回の話は、この「おちょくりシリーズ」最大の難所と言えよう。なにせ知らない方はいないだろうが、ガウリイの出番がほとんどないのである。アニメや漫画では、フィブリゾに操られてリナを攻撃したり、L様を追いかけていったりとなかなか忙しいガウリイだが、原作では完全なチョイ役に徹している。
 フィブリゾにさらわれ、お姫さまのよーに助けられ、またリナと旅に出る。端的に言うと、これだけしかやってない。

 しかし、そんな短い行動の中にも、しっかりおちょくられるようなスキを作ってしまうところが、ガウリイのガウリイたるゆえんであった。







 ガーヴの腹から、手が生えた。
 いや違う。ガーヴが後ろから、誰かの手に貫かれたのだ。

 やったのは、冥王(ヘルマスター)フィブリゾ。当然のことながら、ガウリイはそんな名前なんぞ、憶えていなかった。彼のキャパシティは、リナと、リナに群がる(ように見える)眼前の敵を追っ払うので一杯なんである。黒幕の名前なんて、憶えてられるわけがない。あるいは姿も見せない相手なんて、リナを争う恋敵にもならないから、憶える必要もないと思っているだけかもしれない。何かが微妙に、いや、かなり違う。

 しかしながら、気配からして人間ではないおそるべき小学生・フィブリゾは、とんでもないことを言い放ってくれたのだった。

 「異界黙示録(クレアバイブル)への空間の中で迷ったきみを、ゼロスのところへ誘導したのはぼくだから。
  ゼロスの奴も、まあ使える方だけど、あの空間の中じゃあ、さすがに手間取っただろうからね」

 彼にとっては初耳な情報。
 リナをゼロスのところへ誘導した。
 それすなわち。

 (リナとゼロスが、2人きりになるよう、しくんだってことか!?)

 ……まあたしかに、あの状況をキチンと見てない人間にとっては、無理からぬ想像かもしれない。
 しれないが、冷静にそんなことをしてられる状況だったかを考えれば、やはり無理のある想像だとわかっただろう。
 しかし、恋に溺れる男には、そんな理屈など通用しないものなのである。彼は眉をひそめて聞いた。

 「……どういう……ことだ……?」
 「――つまりこいつは……
  裏切った魔竜王(カオスドラゴン)ガーヴを始末するために、おびき出すエサとしてあたしを利用した、ってわけよ」

 違う。そんなことが聞きたいんじゃない。
 とはいえ話はどんどんシリアスへと進み、リナはガウリイの相手などしてくれなくなっていた。
 ガウリイは、ただただ寂しく、リナの後ろ姿を見つめることを余儀なくされる。








 この後、ガウリイはフィブリゾが、光の剣こと烈光の剣(ゴルンノヴァ)から出した、黒い触手にからめとられ、誘拐されることと相成る。

 男なら一生に一度は見てみたい光景が、『触手っぽいものに襲われる女の子』。そんなことを、どこぞの兵隊の隊長が言っていた。しかしガウリイは女顔でも女の子ではないし、自分で見るならともかく自分が襲われるシュミはない。というか、『触手っぽいものに襲われる』とゆーのは、本来エロ本やギャルゲーのヒロイン達のみに許された(?)行動だ。例外は、お耽美系の美少年ぐらいのものである。

 ふがいない、ふがいないと思っていたら、とうとうヒロインチックに、こんなものに襲われてしまった。後にリナには、「いともあっさりつかまるなんて、昔ばなしのお姫さまか」とツッコミを入れられていたが、いずれにしても彼には『ヒロイン』の烙印が押されてしまったようである。男として、これはどーなんだろうか。

 しかしもしかすると、これがガウリイの計算だったら、それはそれで侮れない男である。なにせ彼の目指す相手は、自称天才美少女魔道士でありながら、そんじょそこらの男たちでは及びもつかないほどオットコ前な少女、リナ=インバース。「男っぽい少女」をオトすため、「女っぽい青年」に成り下がったとしたならば。それはそれで、悲壮かつ壮絶な覚悟である。あまりの一途な姿勢っぷりに、思わずこのシリーズの本分、『ガウリイをおちょくり倒す』というシゴトすら忘れてしまいそうだ。

 まあ、最初は”ガウリイの行く先についてゆくリナ”の図が、いつの頃からか”リナの後ろについてゆくガウリイ”の図になってしまったときから、こうなることは必然だったのかもしれない。「あなたの進む道をずっと見守ってる、あなたにずっとついてゆく」とゆーのは元来、女性が言っていたコトバである。君は光、僕は影なぞと言うよーなオトコの愛するオンナは、いつも非常にオトコ前だ。
 女装などせずとも、ガウリイの女らしさ(笑)は、そして『出番がない』という最大の不幸は、ここに極まったのだった。

 そして、この後。
 ガウリイは、150ページ以上の長きにわたって、出番を失うのだった。
 家宝である光の剣よりなによりも、リナとラブラブするチャンスを失ってしまった方が、彼には重要な問題であったに違いない。









 目が覚める。
 意識が、覚醒する。
 目覚めのときというのは、案外重要だ。それでその日1日の気分が左右される、などというのは、よくある話である。
 そうするとやはり、『理想の目覚め方』というのを持っている人は多いわけで。まあなかなかそれが、実現することはないのだけど。だからこその『理想』ともいえる。

 目覚めのきっかけの好みは、人それぞれ。コーヒーのにおい。パンのにおい。音なら、小鳥のさえずり。朝ごはんを作ってくれてる包丁の音。
 しかし、『名前を呼んで、起こしてもらいたいのは誰か』という質問をされたとき。答えの中で最も多いのは、『大好きな恋人(もしくは奥さん)』と答える人が、ダントツだろう。

 ガウリイもおそらくは、そうであったと思われる。
 だからこそ、クリスタルの中から出てきて、目覚めた彼が最初にシルフィールを見たとき、こうのたまった。

 「……ここ……は……?」

 リナの姿を求めてか、『かるく頭を振りながら、ガウリイはあたりを見回す』。
 普通ならば、起こした方と起こされた方とが見つめあい、いい雰囲気になるのが物語の定番というヤツだろう。白雪姫や眠り姫の論理、もしくは刷り込みとも言う。

 しかし、頭の中どころか本能のレベルでリナという存在が刷り込まれている男には、シルフィールが夢見たような、お約束王子様とお姫さま的展開は関係ない。猪突猛進頭の王子様に、ロマンスを求めるのは無理だった。というか、王子様にとってのお姫さまはすでに決まってるんだから、どうしようもない。

 『お姫さま』の姿を求めて、シルフィールを無視したのだが、『お姫さま』の言葉はそっけないものだった。

 「シルフィールに感謝しなさいよっ! 彼女がいなけりゃ、あなたを助けられてたかどーか、わかんないんだからっ!」
 「……え……?」

 『くるりっ、とガウリイに背を向けた』リナに、ガウリイは『とまどうような声』を出す。
 シルフィールが協力してくれた。いやそんなことは関係ない。第一、なんでここにシルフィールがいるのか、誘拐されていた彼にはわからない。

 たとえ誘拐されていたのがリナだったとしても、この場合は「どうしてシルフィールがここに」とゆー話になっただろう。彼女が合流したのは、誘拐された後だったのだから。もちろんガウリイだからこそ、リナに関係しないことは深く突っ込んでいないのだ。

 それよりも、リナがこちらを向いてくれないのが寂しい。

 こちらを振り向かそうとボケをかまし、ようやくリナは彼を見てくれた。とうとう、女王様の犬を経てご主人さまの子犬になってしまったガウリイ。ガウリイが、『彼氏』の座を射止める日は遠い。










 戦いすんで、日が暮れて。

 何がなんだか、よくわからないうちに、フィブリゾは滅びた。ガウリイから見れば、ガーヴを倒したフィブリゾと対峙→光の剣から出た黒い触手にからまれ、青い霧につつまれる→気づけばリナたちがいて、ここから脱出すると言う→リナが消えて驚く→また気づけば建物は消え、リナがいた、という展開。つまりフィブリゾとは、一度も戦っていないのだ。そんな、敵だかなんだかすらの認識もない相手は、はっきり言ってどーでもいい。

 大切なのは、リナのこと。

 なんでもリナいわく、光の剣はフィブリゾが、どこかへ送り返してしまったらしい。それを聞き、『めずらしく、遠い目をするガウリイ』。
 これからどうやってリナと一緒に旅をしていくか。一見するとおだやかに考え事をしているように見えるが、内心では哀れなほどに慌てながら、その『理由』を考えていたことであろう。なにせ、光の剣というエサで、リナを釣っていたのだから。エサがなければ、魚は逃げてゆくものだ。

 だが、幸いなことに、その『理由』はリナの方から提示された。

 「光の剣にかわるよーな剣を、なにか見つけてあげよーじゃないのっ!」
 「なにぃぃぃぃぃぃっ!?」

 剣というエサはなくなった。ましてリナを守る手段もなくなった。これから先のことを悲観し、どうすれば両方の問題を解決できるのか。彼の頭はフル稼働した。しかしそれもどうやら、リナの方から提示された、この提案ですべてオッケーが出たようだ。

 終わりよければすべて良し、とよく言われる。とはいえ、これは明らかにガウリイの功績ではない。
 彼は労せずして、再度『リナの隣』という位置を、ゲットしてしまったのである。
 なんということであろうか。これまでの彼の苦労を、神が認めたとでもいうのだろうか。
 たとえ神が認めようとも魔王が認めようとも、リナに認められねば意味がないのだが。

 「つまりは、剣が見つかるまではいっしょ、というわけだな。
  途中でオレの路銀だけ持って逃げたりしないな?」
 「しないって」
 「よーしっ! それなら行こう早速行こうっ!」

 そんなにはしゃぐなガウリイ。リナと一緒にいられる、とわかったとたん、まるで子供のようである。
 本当ならば、『リナといっしょに最後まで行こう』と口走りたいところだったのだろうが、さすがにそれを言葉にしないだけの分別は心得ていたらしい。

 しかし、彼はほんとーにわかっているのだろうか。

 リナと出会って約1年。その間に、めぐりめぐって今の彼らは、元のスタンスに戻っただけだということを。
 あの頃から今まで、彼らの絆は強くなっても、実際の関係はなにひとつ進んじゃいないことを。
 彼の起こしたアクションの数々は、ことごとく、見事なまでに実を結んでいないことを。

 それに気づく日が来ないかぎり。
 ガウリイの努力が報われる日は、来るわけない。



   ブラックサンダーガウリイごーごーっっ♪
   リナちんを汚すぅ、その日のために、日夜闘い続けるお〜と〜こおお〜♪♪
   ごーごーごーごーっっ♪♪♪







 シルフィールと再会して、リナは『なぜガウリイと共に旅するのか』という理由を、改めて考えさせられた。
 そして、ガウリイの命をたてに、重破斬(ギガ・スレイブ)を撃つことを要求されたとき。
 リナの頭からは、世界のことも自分のことも、なにもかも消えて、ガウリイのことだけが残った。

 冷静で頭のいい彼女らしからぬこの状況。誰がどう見ても、ガウリイのことをそれだけ大事に思っているのは一目瞭然である。
 さすがにここまで来れば、いくらリナでも己の気持ちに気づいているに決まってる。

 とはいえ、そこはやっぱり痩せても枯れてもリナ=インバース。自分の気持ちに気づいても、そのまま乙女ちっくにガウリイとラブラブ、とはいくわけなくて。
 自分の想いを秘めたまま、相棒という関係で、ガウリイとの2人旅はまだまだ続くのだった。




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