まぶたをあけて、最初に目に入ったのは白いシーツ。 髪がひっぱられてるのに気づいて、オレは目を覚ました。 首をひねると、オレの長い髪をリナが小さな細い手でつかみ、つんつんとひっぱっている。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」 オレは思ったことを素直に口に出した。さすが自分で『じまんの』と言うだけあって、リナの髪はそこらを行くねーちゃんよりかなり状態はいいと思う。……まあ、惚れた欲目が入ってるのかどうかはわからんが。 リナはオレの髪から手を離し、組んだ手の上にあごを乗せて小首をかしげた。
「だってさあ。あたしの髪じゃどんなに手入れしても、お日さまにきらきらーって光ったりしないじゃない?」 そう言って髪をすいてやる。その髪からは、ふわっとした甘い匂いがした。リナはほんのり頬を染め、 「もうっ! ガウリイのはその上、さらにきらきら光るから悔しーのよっ! ああもう、だんだん腹がたってきたっ!」 そしてオレの髪を思いっきりひっぱる!
「いでででででっっ! こら、やめろ!」 …んなこと言われてもなぁ…。お互い生まれつきだし。 その時、窓の隙間からさし込む光を見て、オレはそれを思いついた。 「じゃあ…こうしたら、どうだ?」 少しだけ窓をあけてやるといいタイミングで朝日が部屋に入ってくる。太陽がのぼった直後のオレンジ色と、高くなってきた頃の白色との、わずかな間だけ見られる金色の光。それが彼女を包みこみ、リナがキラキラと光る。 「ほら。これでおまえの髪も光ってるだろ」 リナは驚いたように自分の身体を見回した。髪だけでなく、白い首筋や脚も同じ金色に輝いている。 純粋に、きれいだと思った。こうして太陽を浴びて光っている時も、月の下で白く染まっている時も、それぞれ違う種類の美しさでオレを魅了する。そんなリナは、とてもきれいだ。いっそ両方一度に楽しめればいいのに。 そうリナに言うと、彼女は軽やかにクスクスと笑った。
「なぁにいってんのよ。ガウリイってば、意外と欲ばりなのね」 オレは言葉を口にして、リナの額、髪の生え際に唇をおとす。 「髪も。肌も。声も、視線も、関心も。…全部、オレが独り占めしたい…」 リナはくすぐったそうに笑って、 「ダメよ。あたしの身体も、心も全部あたしのもの。…でもね、あたしにこうやって遠慮なく触れていいのは、あたしと、あなただけなのよ?」 それから楽しげに、オレの唇へ人差し指をあてた。 「いいものは、独り占めじゃなくて2人で楽しまなきゃ、ね」 一瞬キョトンとしたオレだが、意味を察してなんだかおかしくなった。いたずらっぽい笑みを浮かべている彼女にほほえみ返す。相変わらず、こいつにはかなわない。 「おそれいったよ、その通りだ。――オレも、リナと一緒に楽しみたいな」
リナの肌にのばしたオレの手が、ぺちっとはたかれた。 「なに調子にのってんのよ! 前言撤回するかんね!」 残念ながらあたたかい体温を残して、リナはスルリとベッドから抜け出してしまう。 階下からは、宿の女将さん特製の自家製パンを焼くいい匂いがただよってきていた。 |