★☆事前の、言い訳にもならない前置き☆★
ぼくもわたしもみんな大好き「スレイヤーズ」。今さら言うまでもないが、この話はリナの一人称で書かれている。つまり、リナの心情は手にとるようにわかるが、その他の人々はどーもよくわからない。
中でも特に、リナの相棒ガウリイ=ガブリエフ。もともと素性が知れない上に、最近は出番もセリフも減りつつあり、ますますもって解析不能だ。だから、「バカな演技をしている賢い人」なんてファンの間でまことしやかに囁かれている。面白いので、筆者もそれは否定しないが、彼はどんなにマジメになろうと結局マヌケから抜けられないというのは皆さんご存知だろうか。
頭を使わないシーンでマヌケなのではない。頭を使っててマヌケなのだ。
これは、ガウリイという男がどんなヤツなのか無謀にも原作からひも解こうという、実にふざけた企画なのである。
ガウリイ=ガブリエフは旅をしていた。長かった一人旅ではなく、少し前から二人旅である。
道で、女の子をナンパしたのだ。
目の保養になるような美女と思いきや、相手はまだ少女。しかしよくよく見ると、なかなか愛らしい。充分範疇内。ターゲットロックオンだ。
ここで「人の良さそうなお兄さん」という役割で出てきたのは、後々の影響も考えて、彼の「よくやった」とほめてやりたい数少ない正解選択肢である。もっともこれがいつまでも彼を保護者の椅子に縛りつけておくことになるのだが、そもそも大の男十数人に囲まれて毅然としている女の子に下心を見破られたら、ついて行くことさえできないし、こーゆーおちょくりを楽しむことができるのだから、これは誰がなんと言おうと大正解なのだ。
しかし、男は狼なの〜とかつての歌にも歌われた。ガウリイとて例外ではない。ゆえに彼は今、とーーーーーーーっっっても悩んでいた。
それはこの状況である。時間は深夜。場所は宿屋の一室、そう一室。つまり隔てるものは何もない。
そして同じ空間に少女がひとり。おあつらえ向きにベッドまである。据え膳食わぬは男のハジ。ここで手を出さずしていつ出そう。
つい先程、宿に敵が攻めてきた。岩人間と呼ぶならば邪妖精(ブロウ・デーモン)の部分はどこへ行ったんだと叫びたくなるゼルガディスの手のものである。
それをレゾが追い出した後、リナはなんとあろうことか、ガウリイの部屋の床へと転がったのだ。
「ここはオレの部屋だぜーい」
「わかってる」
………………。
はっきり言ってこの行為、どう受け取られても仕方がない。
例えればケーキがフォーク持って、「わたしを食べて♪」とやってくるようなものである。いや、多少意味は違えど「食べる」という言葉は変わらないから、たとえというよりそのままと言うべきか。
こんな夜更けに男の部屋を訪ねる女、それすなわち目的はひとつ。
何ともダイタンなふるまいだがよいではないかよいではないか、昼間抱きあげた時のあの感触、柔らかい触り心地がこの手に甦る。
リナ自身は胸がないのを気にしているが、やはり女の躰は男に比べて柔らかいため触り心地がいい。それで十分だ。
「夜襲があることも考えられるでしょ」
この状況で、これは口実とガウリイがとったとしても、誰に彼を責められるだろう。
だが、さすがに一回目から床というのも何だ、と彼は思った。
「お前がベッドで寝ろよ。オレが床で眠るから」
まったく、最初から一緒に寝ようと言わないあたり、この男も好きモノである。
が。しかし。
「そんなことできないわよ。あたしが押しかけたんだから」
…彼はここに至って、ようやく事の次第が飲みこめた。
彼女の言葉に裏や誘いは全くない。まさしく言葉通りの意味なのだ。
これがおそらく、ガウリイのさらした初めての真のマヌケぶりと言えよう。第一、リナが誘うと思うところからして間違っている。まったく知らない男が(形としては助け助けられたの関係とはいえ)、親しげに話しかけてきて、「ついてゆく」と明言した日にゃ普通の常識と貞操観念を持っている女の子なら、こちらも親しげに会話するなんてまずできない。(筆者は過日、電車の中で知らない男に声をかけられ手を握られた。何とか逃げたが、たとえ好みの美形であってもあの口説き方はゴメンである)そんなことできるのは、女の方でも下心を持ってる場合か世の中の男を知らないそういう意味での世間知らずかのどっちかだろう。無論リナがどちらかなんてわかりきっている。
「お休み。お嬢ちゃん」
自分で自分に言い聞かせないと自制もできないのだろうか。まったく情けない男である。彼は昼の感触を思いだし、ひとりさびしく涙を流すのであった。
この時、その気になるまで押すという選択肢もあったのだが、昼間のケガを気づかってかガウリイは何もしなかった。もしかすると、無意識にリナの気持ちを大事にしていたのかもしれない。この時点で、すでにガウリイの方が先にオチていたのだ。
明けて翌日。リナがさらわれ、ガウリイは必死で捜し回るハメになる。
「リナーーーー!!! どこだあああああぁぁぁ!!?」
囚われの身になったリナ。しかも相手は野郎ばかり。そして最悪なことに、リナは今、魔法が使えない。危険だ。はっきりいって危険以外の何物でもない。
ガウリイの頭で、よからぬ妄想がぐるんぐるん回る。
――キャーーッ! 何すんの、やめてよ!
――へっへっへっ、いい声で啼くじゃねえか。もっと聞かせてもらおうぜ。
――イヤ、いやぁーーーー!! 助けて、ガウリイーーー!!
「うおおぉぉぉぉぉ、許さーーーーーん!!! リナがオレを呼んでいるーーーー!!」
都合のいい男である。なぜリナが自分の名を呼んでいると断定できるのだろう。そんなにリナの一番乗りになりたいのか。
このガウリイの予感は見事に的中し、リナはすけべえこまされそうになるが、敵方軍勢の心情的及び生態的理由により、見事難を逃れていた。
だが、それを知らないガウリイの雄叫びは、連夜お月さまを不眠症にするのだった。
そしてようやく苦労が実り、リナと再会できたガウリイ。それも彼女のピンチに、すんでのところで現れるというオマケつきだ。
しかし、そうそう偶然であるタイミングだろうか。これは狙っていたに違いない。
もっとも一番いい登場シーンを考えていたらリナがピンチに陥り、これを幸いと出てきた可能性が最も高そうだが。
ともかく、実にキマった再登場。これでリナもオレにイチコロ(死語)、ダイナマイトじゃないバディ、でもいんじゃな〜い?計画は成就する!
再会に感激したリナは、オレに抱きついてくるだろう。オレはそれをしっかと受けとめ、笑ってやるのささわやかに!
おお、リナが駆けよってくる。さあおいでマイハニー、飛びこんでくるんだこの胸へ!!
「その剣ちょーーだいっ!」
ああ、なんと哀れな男だろう。人ごとながら、筆者は涙を禁じ得ない。
小さな躰を抱きしめるはずだった両腕は再び空をきり、なんと色気のないシチュエーション。巨人の星の明子ねーちゃんのごとく、木の陰から代わりの涙を流した読者も多かったのではないだろうか。
彼がこの後、リナに迫られた売却交渉を拒否したのは、もちろん値段が安かったこともあるが、このことですっかりスネていたためというのはもはや確実であろう。
最終的にガウリイは、見事この光の剣をエサに、何とリナの方から「ついてゆく」と言わせることに成功した。お子ちゃまを懐かせるもっとも有効な手段といえどリナに餌付けを行うとは、なんとも姑息である。
しかし彼は、彼女の目的が純粋に剣のみであり、ほんとにまったくぜんぜん裏がない事もこの数日で熟知してしまっていた。悲しい運命の男であった。
ブラックサンダーガウリイごーごーっっ♪
リナちんを汚すぅ、その日のために、日夜闘い続けるお〜と〜こおお〜♪♪
ごーごーごーごーっっ♪♪♪(主題歌作詞:繰倉来さん)
リナはガウリイに「よくオレの事を信用したな」と言われた時、「人を見る目はあるつもり」と答えた。もしかして、意識的かどうかはともかく彼が無防備の自分には手を出せないと知っていたのだろうか。だとしたら、なお容易ならざる相手である。
まあどちらにしても、ガウリイ受難の日々はまだまだ続くのだ。