早くも好評(だと思う)おちょくりシリーズ第3弾、今回は登場人物が一気にどちゃっと増え、その分人間関係も複雑なものになってゆく。
愛するリナが自分の目の前で男たちにすけべーこまされそうになったのをなんと縛られたまま、つまり口先だけでガウリイが追っ払ったところからが今回の事件の始まりだ。めずらしく…というより、彼が単独の頭脳戦で勝利を収めたのは、おそらくここだけではないだろうか。どれだけガウリイが、男どもをおっぱらうのに普段ガッチガチに錆びついてる脳ミソをフル回転したかが知れるというものだ。 だがこれは、あくまでも始まりにすぎなかった。事件は、常に何度も連続してやってくるものなのだ。
眠れない。なかなか寝つくことができない。隣の部屋でリナは今、どんな寝顔で寝ているのか、それを思うと―――― (って、そーーじゃない!!!) さすがに夜中なので声に出して絶叫することは控えたガウリイだったが、頭を冷やしてこようとトイレに出た。あくまでも、眠れないのはレゾのことで悩みが深いからだと自分に言い聞かせて。煩悩の強い男はこれだから困る。もっとも、ここで素直になられるとそれはそれで面白くないが。
しかし、トイレから帰ってくるとますます目がさえて眠れなくなってしまった。 それはリナのパジャマ姿っっっ!!
こればっかりは、野宿ではどーしようもない。野宿ではパジャマが汚れてしまうので、使われることもないからだ。 かくなる上は今夜、今すぐ、なにがあっても見てやる。男の欲情をそそる神器のひとつ、麗しのパジャマ姿ぁぁぁぁ!!! もしかするともしかして、リナが気づいて起きるかもしれない。だがしかーし! その場の勢いで押したおせる望みも、十二分にあるではないか!! なんといってもリナがいるのはベッドの上、まさにまな板のうえのコイ!! トゥナ〜イトゥナ〜〜イ トゥナイトゥナ〜イ 今夜こそ〜おまえを〜〜 オトしてみせ〜る〜〜♪と某世良氏の歌声をBGMに、ガウリイは部屋に戻り、とりあえず窓から様子をうかがった。いやあ、なんと楽しく都合よく、思考回路の回る男であろうか。こーゆーのを”楽天主義”というのである。覚えておこう。テストに出るかもしれないぞ。 ところが、その肝心かなめなリナの部屋の窓は、思いがけないことに開いていた。身をのり出して見てみると、どうも部屋はもぬけのカラらしい。 (どこに行ったんだ、あいつ?)
なにげなく視線を巡らせると、ふと、見慣れた栗色の髪と闇色のマントが目に入る。リナだ。どうもどこかへ向けて、走っていくようである。 男か!!?
そういや夕飯の時分から、そわそわしてて落ちつかなかった。もしかするとあの時点で、すでに誰かと会うつもりだったのか。まさかと思うがこの辺の、どこかの男に一目惚れ!? いやそうじゃないとしても、前からの知り合いというセンも十分ありうる話だろう。 うおおおおおぉぉぉぉ、許さーーーーーんっっっ!!!!
暴走モード爆裂ブッちぎりのガウリイは、エイトマンもびっくりのスピードで後を追いかけた。
すぐにリナには追いついたが、ここでひとつ問題が発生した。それはどうやって、リナの足を止めるのかということだ。こーやって森の中を歩いているのは立派に彼女の自由意志。「ガウリイには関係ないじゃない! そんな口うるさい保護者ならいらないわ!」などと言われた日にゃ目もあてられない。 「たすけてぇっ!」 リナが走りながら叫び、盗賊のひとりに『しがみつく』! ……ぷちぃ。 ガウリイのひたいに、青スジがたった。 オレにだって……オレにだって緊急の時のほかは、してくれたことないのに……オレにだって……あんなヤローに……あんな…… ガウリイの頭はすっかり、「『自分から』男に抱きついたリナ」で占められていた。しかもリナは、男の腕の中でかすかに身をふるわせている。 リナが……オレのリナが……あんなヤローの腕の中で……腕の中……うでの…… 彼が思考トリップしている間に、辺りはリナの呪文で地面と盗賊が仲良くふっとび、阿鼻叫喚の地獄絵図状態なのだが、そんなことガウリイにはどうでもいいらしい。しかしその時。 ひるるるるるる……… べちぃっ! ガウリイの足下に、人がとんできて墜落した。見ると、それはなんとさっきリナが抱きついた、盗賊団のひとり。 ぶみゅぃいぃっっ!! かかとを下にしたガウリイの靴底が、思いっっっきし盗賊の顔に命中した。
「真夜中に一人でこっそり宿を抜け出したりするから、一体何かと思ったら……」
男かと思ったじゃないか!とはさすがに言えないのでだまっておく。 「明るい将来設計のこと」
ほっっ!!ほんとかリナァァ!!? この間、リナが次の言葉を続けるまでの0.2秒。いつもは5歳の子供ほども回らない頭が、なぜこーゆー時だけシナプス(脳の神経連結細胞。思考の早さに大きく関連する)繋がりまくりなのか。まるでサラブレットのようである。普段は走らせてもらえないため、試合の時は反動で大きな力を発するというアレだ。
とはいえ、すでにこの2ヶ月で彼女の言葉には何の含みもないことを知ってしまっている悲しき男は、その頭の中の思考とリナに受け答えする思考とを見事に使い分けるという、実に器用なことをやってのけたのだった。
「あと一人――そうですね、ガウリイさま。いっしょに来ていただけますか?」
ガウリイはついちらり、とリナの方を見た。
実はガウリイは、シルフィールが少々苦手だった。かつてガウリイがこの町へ来た時、とある事件のためガウリイは町の救世主とまで言われたのだが、その英雄視された機会に便乗し、彼は来る者拒まず去る者追わずの精神で寄ってきた女と片っぱしから床を共にした。リナとランツに、「あちこちの女に見境いなしに手を出しまくったとか」「子供いっぱいできてたりして」などとからかわれた時はっきり否定しなかったのは、それが原因である。どちらかと言うと、否定できなかったとゆーのが正しい。この町へ来るのに気のりしなかったのも、リナ達の冗談と同じ想像をしてしまい、確認するのがこわかったからなんじゃなかろうか。
とにかく急ごう。つーか、シルフィールの話はとぼけてりゃすむが、やっぱりリナが心配だ。
「早く、これを持って帰らなきゃな」 もう少しガウリイ様とゆっくり…と続けていたシルフィールの言葉を、もはやガウリイは聞いていなかった。シルフィールの一言で、またもあっちの世界へ行っちゃっていたからである。
…………。もしかして、いや、もしかしなくても今、オレがいないリナのそばに、ゼルガディスとランツがいる………………? ダメだあああぁぁぁぁ!!! あいつはオレのもんだぁぁぁぁ!!!!
鼻血でも吹きそーな勢いで声なき絶叫をあげたガウリイに、もしかして巫女であるシルフィールは、近づきがたい…というよりとても好んで近づきたくない何かを感じたかもしれない。しかしガウリイはそれに構わず、シルフィールの手をひっつかみ一目散に駆け戻った。
ガウリイ。お前はリナをオトすために一緒にいるんじゃなかったのか? なのに今回はなんだ、リナの周りから男たちを追っぱらうことだけに終始し、お前自身のアプローチはぜんっぜん行われていないではないか!? しかも困ったことにガウリイはこの矛盾点にまったく気づいていなかった。だんだん目的がズレてゆくガウリイに、彼の計画もこのシリーズも前途多難であると言わざるをえない。
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