誰かに「マンネリ化してない?」と言われたら否定できなくなってきたこのシリーズ。だが、責任転嫁させてもらえば、これはいつまでたっても進歩のないガウリイの行動がマンネリ化しているのである。
いや、むしろ彼の場合、悪化していると言ってよかろう。
その間、リナはちっともかまってくれないっっ! というものだった。 まるで飼い主にかまってほしい犬である。リナの男になろうとあれこれ画策していたはずなのに、とうとう女王様と犬の関係に成り下がったか、この男は。 ただでさえここのところ、アメリアが一緒でリナがかまってくれないのだ。同年代の女の子が2人でいたら、女のおしゃべりから男ははじき出されるのが世の常である。 ここはひとつ、いいとこ見せてリナにオレの存在をアピールせねばっ!
たかだか盗賊相手に、ガウリイは固く誓った。盗賊を吹きとばすのがリナのストレス解消、ということをすっかり忘れている。愚かな男だ。 リナとアメリアの呪文一発で、盗賊は全員倒れ伏してしまう。
「オレの出番ってぇやつは……?」 あっさりはっきり言い切られてしまい、ガウリイは袖口を涙で濡らす。すでにリナは盗賊たちからお宝をはぎとるのに夢中で、ガウリイの方なんぞかけらも向いちゃくれなかった。 今回の彼の存在感のなさは、おそらくこれが序章だったのだろう。
「このまましばらくそっとしといてやろう」 アメリアがこうして寝ていれば、その間だけでもオレはリナを独りじめ! 今は他に人の姿もないし、リナと久しぶりにゆっくり話せる! ああ長かった、これで最近のおあずけ生活からはさよならなんだーー!!
初恋したての男の子ではあるまいし、『2人っきりで話せる』というシチュエーションで満足してどーするのだろう。 けれど神様は、そのチャンスさえも奪っていった。 他でもないリナが、こんなところで寝かしておけないとアメリアを起こす。なかなか起きないアメリアを見て、リナが一言。 「こーなったらガウリイ、あなたが彼女背負って……」 ダメだそれは!! 冗談じゃない!! リナの目の前で、他の女を背負えるかああぁぁぁ!!!
別に浮気をしろと言っているわけではない。何をそんなに慌てているのだ。それともまさか、彼は俗に言う『手を握られただけで妊娠しそうな男』だからとでも言うつもりか。 そんな風に騒いでいると、唐突に敵出現。まったくもって面倒だったらありゃしない。しかしこの時、ガウリイの頭の中でひとつの計画が持ちあがった。 (ここでいいとこ見せて、今度こそオレという存在を見直させようっ!) 「リナ! アメリア! 逃げろっ! オレひとりならなんとでもなるっ!」 呪文の使えないリナ。寝不足で精神集中のできないアメリア。2人を逃がし、自分が囮になるという非常に自然なシチュエーション。
これでリナは、再びオレと会えた時、感激のあまり抱きついてくるはずだ。以前は「光の剣ちょーだい!」なんぞとかわされてしまったが、あの時の、あの時の雪辱ははらしてみせるぜ今度こそ!!! 考えていたことがつい顔に出て、ガウリイの表情が思いっきりふやけまくる。
3体1(2.5対1?)という圧倒的不利な戦況で二へ二へとしまりのない笑みを浮かべる男はめちゃくちゃ気持ち悪い。襲ってきた獣人たちは思わず一歩ひいた。
確か今、オレたちは3人で旅をしていたはず。リナとの2人旅をジャマされていたのだから、それは間違いない。そして、オレ1人が今ここにいる。
なんでこんな滅多なことではありえないことまで思いつくのだろう。これでは心配性と言われてもまったく弁解できない。 (余談だが本当に、アメ×リナのカップリングはここから発生した、とするウワサが存在する。ウワサは存在するのだが、事実の確認はとれていない)
ちなみに、ガウリイの危惧は半分あたりで、半分はずれだった。 彼の不安は、どちらかといえば悪い方へ的中していたといえよう。
その分は、戦況を一変させるほどの大活躍でカバーした。 戦闘が終わった後、敵のリーダー格の獣人――デュクリスが呟く。
「――何なんだ――あの武器は……?」
デュクリスの問いに、答えたのはなんと、リナ!!
まさか、リナ、お前あいつと知り合いなのかっっ!? しかしいったい、いつの間に!!? しかし、重傷のデュクリスにはなかなか伝わらない。 「おまえさんが気に入っちまったからじゃねぇか――」
彼らほど敏感ではなく、大ケガをしていても、さすがにそれが自分に向けられていてはいくら何でもわかる。デュクリスは生命の危機を感じた。 彼が倒れたことでガウリイはその殺気を消し、いそいそとリナに近づいた。 さあお待ちかね、感動の再会シーンだっっ!! 今度こそ、リナはオレの胸に抱きついて離さないだろうっ! てゆーか、もう虫つけたくないから、オレが絶対はなさないし!!! 「――なんとか無事だったようだな」 しかし。 どげしぃぃぃっ! もらったのは熱い抱擁ではなく、愛のアッパー。
合流するのが遅くなった、というのがリナの気に触っているらしい。気の立ってるリナは、さらにスリッパを使いガウリイをひっぱたいた。
「こんなこともあろうかと思って、しばらく前に宿屋でパクっといたのよっ!」 もしやリナ、お前はオレがいつかこういうことをすると、オレのことを考えてくれてたのか!!??
そうだよなあ、やっぱり夫婦はお互い、どんなことをすればどういう反応が返ってくるか、わかり合ってるべきなんだっっ!!! まだ夫婦になってない、などとゆーツッコミも、この男には効きゃしない。 この場合、リナがガウリイを理解しようと歩みよってくれたというよりも、めちゃくちゃあっさりと思考回路を読まれるほどガウリイが単純なだけという気もするが、そんなこと言おうもんなら「リナがわかりやすいんだからいいじゃないか」と真顔で返されそうな予感がして、筆者としてはとても怖い。 しかも、その考えにガウリイがひたっていて『一瞬落ちた沈黙』に、アメリアが追い打ちをかけた。 「リナっ! ゆーちょーに夫婦漫才やってる場合じゃないわっ!」 ア、アメリアァァァ!!! オレとリナのジャマばっかするやつだと思ってたけど(それ以外の見方はないのか)、お前さんは、オレとリナが夫婦だと、愛を育んでいるのだと、認めてくれるんだなぁぁ!? あぁ、リナ、真っ赤な顔で照れちまって…かわいいやつゥ(やだ、こんなガウリイ…)
妄想の中でリナと夫婦になり、幸せ絶頂大爆発のガウリイ。
まさにこれは、天がオレのために、リナにいいとこ見せるために用意してくれた舞台ではないかっっ!!
ザナッファーの説明を、リナから受けるガウリイ。だが、頭はすでにリナとのらぶらぶゥ
妄想モード。今イチ説明が、しっかり頭に入ってこない。
「『僕がきみを守ってやる』なんて甘いこと言いながら女に近づいて、ぼろぼろになるまでさんざん利用したあげくポイ捨てする、悪逆スケコマシヒモ男みたいなもんよっ!」
そりゃわかるだろう。何たって、自分が今やってることとそっくりなのだから。 (…待てよ) ガウリイは一瞬、足を止める。 まさかとは思うが、こんな例えが出るとゆーことは、リナ自身そうされた体験があるんじゃなかろうな!? だからオレの同行をあんな簡単に許可したのか!? いやいやいや、もしそうだとしたら、逆に似たような状況で現れた俺はとことん避けられるはずだ。だが、だがしかし、いまだリナがその男を忘れられなくて、オレは身代わりって可能性も………! ぐるぐるとガウリイが思考の海にトリップしている間に、リナは話を進めていた。 「デュクリスは――そのことを知ってたの?」 リナの口から出たデュクリスの名に、ガウリイがピクリと反応する。
「知ってたはずだ。ザナッファーの二号を『着る』のを自分から志願したって話だ」
小さく呟いたリナの顔は。寂しげで、切なげで。めったに見せないそんな表情は、ガウリイに衝撃を与えるには充分だった。
おのれデュクリスウウゥウウ!!? 死して(るかどうかはともかく)なお、オレのリナの心に居座り続けるとわっっっ!!!! たった数日目をはなしているうちに、リナはゼロスと出会い、ゼルと再会して、デュクリスに気を許していた。 2巻当時以上に虫がつきやすくなってしまったリナのため、ガウリイは虫を追っ払うのに労力を費やすのであった。人畜無害と思わせるためおバカのフリをしていたはずなのに、とうとう本来の『リナをオトす』という目標まで忘れるほど脳ミソがスポンジになってしまったとは、まったくもってあわれである。
少しずつガウリイに傾いてきたリナの気持ち。会えない時間が想いを育てる。そろそろこの時点で、『恋心』と呼ばれるそれに変わってきていたのかもしれない。 |