ラッキー7、という言葉がある。西洋で、7という数字はおめでたい。
七福神、七五三なんてのもよく知られている。日本でも、7は縁起のいい数字なのだ。
初七日、七つの子とかゆーのもあるが、まあやはり7というのが人にとって特別な数字であることに違いはない。
そんなわけで7巻である。物語は佳境に入り、魔族との戦いもいよいよエスカレート。こんなきわどい毎日の中、いまだ進展――どころかむしろ後退してるんじゃなかろうかと思わせるガウリイくん。
彼にはたして、ラッキーセブンの幸福は訪れたんであろーか。
夜半過ぎ、彼は突然目をさました。
胸騒ぎとかカンとか、呼び方は何でもいいだろう。トイレとか夜這いの時間とかいう、情けない理由でなければ、とりあえず。
隣の部屋。リナの気配はない。
またも盗賊いぢめ、と判断したところで、誰が彼を責められようか。
俗にいう条件反射、パブロフの犬ってやつである。何度も何度も夜中の盗賊いぢめで身をもんできたガウリイにとって、もはやこの考えは必然ですらあった。
それにしても、すでに「夜這いへ行こうとしても相手は部屋を抜け出しもぬけのカラ」という状態になんの感情もわかないあたり、この男もヤキが回ったとゆーか、不幸の味に慣れきったとゆーか、本気で哀れ、かつ、おもろかしいヤツである。普通の男ならとっくに逃げ出しているところだが、それだけリナに入れ込んでいるのか、それともただのアホなのか。
だがここで、彼はふと気がついた。
気配の数がやたらと足りない。
辺りの部屋をノックしまくると、起きてきたのはこういう時、唯一ロンリーウェイをゆくマイペース男、ゼルガディスだけ。リナ、アメリア、ゼロスは部屋にいない。
(まさか、リナっっっ…!!??)
ゼロスが魔族、という大前提もすでに忘れ、彼の頭の中では3Pにふける3人の姿。もはやリナがイキそうな表情くらい、想像していたであろう。彼が普段からリナのそーゆー顔を想像していたとすれば、それはしごく容易になしとげられることなのではないか。
(3Pがわからない人は、おとーさんかおかーさんに聞いてはいけません。そこらにいる、妄想猛々しい同人おねーさんにそれとなく聞きましょう。高校の頃、友達に「サイバーでグーハーって何?」と聞かれた時にはビビったよ。意味わかった人、一緒にゴーカートでF1気分を味わいに行こう)
ガウリイが、真夜中に突然叩き起こされたかわいそーなゼルガディスを引きずりながらリナを探しに行ったのは言うまでもない。
実は今回、よくよく見るとゼロスはリナと絡んでいることが非常に多い。そう、それはまさに1巻、5巻のゼルガディスを彷彿とさせる。
ここでゼロスに出遅れたガウリイは、後々もゼロスにことごとくいい位置を持ってかれるのだが、彼はなんと思わぬ巻き返し策に出ることとなる。
「どーも魔族たち、お前さんをもっぱら狙ってるよーな気がするんだが……ひとりで動くってのはヤバいんじゃないか?」
これぞ、『オレは保護者なんだぞ』攻撃。「おまえを心配してるんだ」と匂わせて相手に好印象を持たせ、さらにその心配を理由に無警戒な相手についてって2人きりになる。
リナと一番つきあいの長いガウリイならではの作戦だ。まるで失恋して心にスキのできた女性を下心たっぷりに慰める、姑息ヤロウのようである。
だがこの計画は、彼の普段の行動から惜しくも水泡に帰した。
「ガウリイさん! まともな意見言えたんですね!? わたし、はじめて知りました!」
「ほんっとひさしぶりじゃない! あんたがまともなこと言うなんて! ひょっとして、脳ミソが多少は復活してんの!?」
「……たいしたもんだ。その状態が続けばいいが……」
カッコよく決めたつもりだったのに、いと哀れ。リナから送られるのは信頼と愛情のこもった眼差しではなく、まともな意見(名案、じゃないところがポイント)を出したことに対する賞賛にとって代わられた。
せっかく正攻法――とまではいかなくとも、ちゃんとぢみちにマジメに行動しだしたとゆーのに。これまでのツケが、今頃回ってきたんだろうか。
けれど、こんなことくらいでガウリイは諦めなかった。「心配」がダメなら「信頼」を見せるのだ。
この、バカのひとつ覚え男も、第7巻にしてようやくアプローチの仕方とゆーもんがわかってきたらしい。とてもとても、これまでカン違いの妄想と見当違いの嫉妬から空回りしてきた男と同一人物とは思えないほど効果的かつ賢い戦法になっている。
妄想男のガウリイはどこへ行ったんだ。「やたらセクハラおやぢの妄想が空回りする姿を見せ、人々に笑いをふりまく」彼が大好きだったのに。
だが、ガウリイがリナをあきらめないように私もくじけない。例えガウリイがどれだけ利口な口説き方をしようと、それになんだかムショーに腹がたとうと、彼をおちょくるのがこの話の主旨なのだから。
ヤツはついに、伝家の宝刀を持ち出した。といってもそのまんまな光の剣でツるのではない。比喩的表現である。
「お前さんが、知らん顔したままいっしょに旅続けてるから、たぶん、何か考えがあるんだろうなー、なんて思ってな」
あろうことか、カラダ一杯で『オレはお前にこの命を預けてるんだぁ!!』と叫びまくる。魔族と一緒に旅をする、なんて危険いっぱい怪しさめいっぱいのことを、聞いてもいないリナの考えひとつ頼りに、へーぜんとやっていたと告白したのだ。
さすがにこれは効果的で、いかにニブちんのリナの心でも揺り動かすことに成功したらしい。うまくいったらいったでちょっと面白くない、ひねくれた筆者の心情などお構いなしに。
それにしても、これはつまり自分の命に関わることさえリナに考えをまかせて放棄した、とゆーことにどうして誰も気づかないんであろうか。
この作戦が好調だったことに気をよくしたのだろう。ガウリイはさらなる追い討ちを決行しようとしていた。
女とゆーものは、まず言葉での愛情を欲しがるのである。とはいえ、もちろんスキンシップもおざなりにはできない。次の段階は、リナとのスキンシップだ。
ところがこいつは口で言うほど簡単ではない。身持ちの固いリナのこと、手を握ったり肩を抱きよせたりというのを故意に行うのは、下心を見抜かれる恐れがあるのだ。
かといって、無意識・さりげなさを装うには、2人の身長差が大きくジャマをする。
自然と最もさりげなく手をのばせる頭をふれるだけにとどまってしまうのだが、これでは「恋人のスキンシップ」にはほど遠い。
ゼロスの年が1012歳以上というむちゃくちゃジジイ、なんて事実を明らかにして、密かにリナに興味があった時のために備えようとしていたようだが、それが的外れだってことに気づかないくらい、ガウリイの頭は「リナにふれる」とゆーことでいっぱいだったんである。
好きな女の子の手を握るため、フォークダンスの順番を待ってる少年の方が、まだしもまともな思考回路を持ち合わせているであろう。とうとう本能や品性だけでなく、知性までもケダモノ並に落ち込んだか。
だが、今回はほんとに彼にとってはラッキー7な話であった。なんと、チャンスはすぐにやって来たのだ。
異界黙示録の洞窟から戻ってきたリナに向けて、放たれる凶々しい殺気。
その爆発からリナを守るため、ガウリイは、リナを『抱えておし倒す!』
……………。普通ならば間違いなくピクリとも動けないほどリナにぶちのめされ、その後警戒で身も心もガッチガチにガードされ、近づくことすらできなくなるところである。やはり7巻分もおあずけくらってた犬は、飢えた狼であった。ほんのわずかな脈を見つけ、もう歯止めがきかなくなってしまったのだろう。
けれどいかなる下心を抱いていようと、このシチュエーションでは「リナの身を守るために」としかとられない。なんとも憎たらしい手段ではないか。
これぞまさに、脊椎反射で生きている男。リナの身を守り、己の欲望を少しでも満たす状況を瞬時に判断し、それを迷わず実行したのである。こんな卑怯な作戦は他にないが、やり方がうまいことは認めざるをえない。さすがに7巻分(約1年)も一緒にいると、こういう知恵がつき、またそれを実行するチャンスもあるものだとつくづく思わされる。おそらくこんな場面はこれまでにもあり、そのうち何とかこれを利用する機会をうかがっていたに違いない。
浮かれ調子でいたガウリイだが、とーぜん運命を司るL様、もとい状況は、そんな余韻を許さなかったんである。
「ともあれ、あんたには死んでもらうぜ」
リナの近くに、またも新しい男が登場。ワイルドさ、とゆー視点で見れば、ガウリイよりはるかに上な魔竜王ガーヴ。
もっとも、こいつはゼルガディスやゼロスと違い、最初からリナを殺すのが目的で近づいているのだ。これまでのように、リナが気づかぬようこっそりと牽制するのではなく堂々と追い払えるのだから、そういう意味では楽である。
ただし、リナの心ならば奪い返すこともできるが、命を奪われたらすべて終わりだ。
ならば、ガウリイの使命は何がなんでもリナを守ること。しかもここまでいーとこ見せてきたのだから、もしかするとここでもう一押しすれば、リナはオチるかもしれない。
ガウリイは緊張感の裏で胸をワクワクさせながらガーヴと対峙した。
ああ、それなのに。
ガウリイではガーヴに傷ひとつつけられず、見せ場は彼の勇姿を見せつけるはずだったリナにもってかれ。
結局、ガウリイには何ひとつ見せ場がなかった。「男その1」と変わらないレベルである。
そしてこの不運は、ボールが坂を転がり落ちるように止まることなく、このまま8巻へと続くのだった。
ブラックサンダーガウリイごーごーっっ♪
リナちんを汚すぅ、その日のために、日夜闘い続けるお〜と〜こおお〜♪♪
ごーごーごーごーっっ♪♪♪
リナとガウリイの関係は普段からラブラブだ、2人の漫才は夫婦漫才だ、とは我々のみならずアメリアでさえも認めているのだが、実は本人たちがそれと意識した回数は意外なほど少ない。
2人でいる時は、おそらく信頼しあっているからだろうが、互いの関係などロクにかえりみないし、片方が『心配』という感情でもりあがっている時、もう片方は離れてるか気絶してるかなのだ。
そんな2人が、今回珍しくいい雰囲気になった。
リナがガウリイに信頼されて嬉しいと感じた瞬間、ガウリイはリナの傍にいた。しかもめったにないリナ側の感情発露である。これは大きい。
そして、これを伏線にしつつリナの感情をゆさぶる8巻に続く。リナの感情は、この時点で着実に成長していると言って良いだろう。