前回で、姑息な手段を見せ、リナと一気に距離を縮めたムッツリスケベ男、その名はガウリイ=ガブリエフ。保護者という地位をたくみに利用して近づき、リナを一気に捕らえようとするそのさまは、まるで花に擬態してエモノを捕らえる、ハナカマキリのようである。
しかしながら、今回の話は、この「おちょくりシリーズ」最大の難所と言えよう。なにせ知らない方はいないだろうが、ガウリイの出番がほとんどないのである。アニメや漫画では、フィブリゾに操られてリナを攻撃したり、L様を追いかけていったりとなかなか忙しいガウリイだが、原作では完全なチョイ役に徹している。 しかし、そんな短い行動の中にも、しっかりおちょくられるようなスキを作ってしまうところが、ガウリイのガウリイたるゆえんであった。
やったのは、冥王(ヘルマスター)フィブリゾ。当然のことながら、ガウリイはそんな名前なんぞ、憶えていなかった。彼のキャパシティは、リナと、リナに群がる(ように見える)眼前の敵を追っ払うので一杯なんである。黒幕の名前なんて、憶えてられるわけがない。あるいは姿も見せない相手なんて、リナを争う恋敵にもならないから、憶える必要もないと思っているだけかもしれない。何かが微妙に、いや、かなり違う。 しかしながら、気配からして人間ではないおそるべき小学生・フィブリゾは、とんでもないことを言い放ってくれたのだった。
「異界黙示録(クレアバイブル)への空間の中で迷ったきみを、ゼロスのところへ誘導したのはぼくだから。
彼にとっては初耳な情報。 (リナとゼロスが、2人きりになるよう、しくんだってことか!?)
……まあたしかに、あの状況をキチンと見てない人間にとっては、無理からぬ想像かもしれない。
「……どういう……ことだ……?」
違う。そんなことが聞きたいんじゃない。
男なら一生に一度は見てみたい光景が、『触手っぽいものに襲われる女の子』。そんなことを、どこぞの兵隊の隊長が言っていた。しかしガウリイは女顔でも女の子ではないし、自分で見るならともかく自分が襲われるシュミはない。というか、『触手っぽいものに襲われる』とゆーのは、本来エロ本やギャルゲーのヒロイン達のみに許された(?)行動だ。例外は、お耽美系の美少年ぐらいのものである。 ふがいない、ふがいないと思っていたら、とうとうヒロインチックに、こんなものに襲われてしまった。後にリナには、「いともあっさりつかまるなんて、昔ばなしのお姫さまか」とツッコミを入れられていたが、いずれにしても彼には『ヒロイン』の烙印が押されてしまったようである。男として、これはどーなんだろうか。 しかしもしかすると、これがガウリイの計算だったら、それはそれで侮れない男である。なにせ彼の目指す相手は、自称天才美少女魔道士でありながら、そんじょそこらの男たちでは及びもつかないほどオットコ前な少女、リナ=インバース。「男っぽい少女」をオトすため、「女っぽい青年」に成り下がったとしたならば。それはそれで、悲壮かつ壮絶な覚悟である。あまりの一途な姿勢っぷりに、思わずこのシリーズの本分、『ガウリイをおちょくり倒す』というシゴトすら忘れてしまいそうだ。
まあ、最初は”ガウリイの行く先についてゆくリナ”の図が、いつの頃からか”リナの後ろについてゆくガウリイ”の図になってしまったときから、こうなることは必然だったのかもしれない。「あなたの進む道をずっと見守ってる、あなたにずっとついてゆく」とゆーのは元来、女性が言っていたコトバである。君は光、僕は影なぞと言うよーなオトコの愛するオンナは、いつも非常にオトコ前だ。
そして、この後。
目覚めのきっかけの好みは、人それぞれ。コーヒーのにおい。パンのにおい。音なら、小鳥のさえずり。朝ごはんを作ってくれてる包丁の音。
ガウリイもおそらくは、そうであったと思われる。 「……ここ……は……?」
リナの姿を求めてか、『かるく頭を振りながら、ガウリイはあたりを見回す』。 しかし、頭の中どころか本能のレベルでリナという存在が刷り込まれている男には、シルフィールが夢見たような、お約束王子様とお姫さま的展開は関係ない。猪突猛進頭の王子様に、ロマンスを求めるのは無理だった。というか、王子様にとってのお姫さまはすでに決まってるんだから、どうしようもない。 『お姫さま』の姿を求めて、シルフィールを無視したのだが、『お姫さま』の言葉はそっけないものだった。
「シルフィールに感謝しなさいよっ! 彼女がいなけりゃ、あなたを助けられてたかどーか、わかんないんだからっ!」
『くるりっ、とガウリイに背を向けた』リナに、ガウリイは『とまどうような声』を出す。 たとえ誘拐されていたのがリナだったとしても、この場合は「どうしてシルフィールがここに」とゆー話になっただろう。彼女が合流したのは、誘拐された後だったのだから。もちろんガウリイだからこそ、リナに関係しないことは深く突っ込んでいないのだ。 それよりも、リナがこちらを向いてくれないのが寂しい。 こちらを振り向かそうとボケをかまし、ようやくリナは彼を見てくれた。とうとう、女王様の犬を経てご主人さまの子犬になってしまったガウリイ。ガウリイが、『彼氏』の座を射止める日は遠い。
何がなんだか、よくわからないうちに、フィブリゾは滅びた。ガウリイから見れば、ガーヴを倒したフィブリゾと対峙→光の剣から出た黒い触手にからまれ、青い霧につつまれる→気づけばリナたちがいて、ここから脱出すると言う→リナが消えて驚く→また気づけば建物は消え、リナがいた、という展開。つまりフィブリゾとは、一度も戦っていないのだ。そんな、敵だかなんだかすらの認識もない相手は、はっきり言ってどーでもいい。 大切なのは、リナのこと。
なんでもリナいわく、光の剣はフィブリゾが、どこかへ送り返してしまったらしい。それを聞き、『めずらしく、遠い目をするガウリイ』。 だが、幸いなことに、その『理由』はリナの方から提示された。
「光の剣にかわるよーな剣を、なにか見つけてあげよーじゃないのっ!」 剣というエサはなくなった。ましてリナを守る手段もなくなった。これから先のことを悲観し、どうすれば両方の問題を解決できるのか。彼の頭はフル稼働した。しかしそれもどうやら、リナの方から提示された、この提案ですべてオッケーが出たようだ。
終わりよければすべて良し、とよく言われる。とはいえ、これは明らかにガウリイの功績ではない。
「つまりは、剣が見つかるまではいっしょ、というわけだな。
そんなにはしゃぐなガウリイ。リナと一緒にいられる、とわかったとたん、まるで子供のようである。 しかし、彼はほんとーにわかっているのだろうか。
リナと出会って約1年。その間に、めぐりめぐって今の彼らは、元のスタンスに戻っただけだということを。
それに気づく日が来ないかぎり。
冷静で頭のいい彼女らしからぬこの状況。誰がどう見ても、ガウリイのことをそれだけ大事に思っているのは一目瞭然である。
とはいえ、そこはやっぱり痩せても枯れてもリナ=インバース。自分の気持ちに気づいても、そのまま乙女ちっくにガウリイとラブラブ、とはいくわけなくて。 |