フロゥエイブまでの行程、およそ1月半。
ガウリイたち3人は、あちこちの町に宿泊しながら道を進んでいた。
ガウリイにもそれはわかっていたから、町で泊まることに関して口出ししなかった。 目的地まで半分ほど来たある日、ガウリイがアメリアの部屋の扉をたたいた。 「どなた? …あ、ガウリイさん」 アメリアの開けた扉の向こうで、ガウリイは少し言いにくそうな顔をしつつ、
「…あの、な。アメリア。ちょっと外に出たいから、つきあってくんないか?」
きれいにウインクをして、アメリアは了承した。 「それで。何の用なんですか?」 宿屋を出てすぐの通りを歩きながら、アメリアはガウリイに問いかける。
「買い物なんだ」 アメリアは首をかしげる。彼女の記憶では、今のところ足りないものはないはずだ。 「リナが…さ。もし捕まった先でろくなもん食わしてもらってなかったら、きっと腹すかしてるだろ? なんか持ち運べて保存のきくもの、買っとこうと思って」 はずかしそうに言うガウリイに、アメリアはにっこりとほほえんだ。 「ええ……そうね」
大丈夫。 理屈ではないどこかで、アメリアはそう確信していた。
「あーーーっ、ガウリイさん! あれあれーー!」 アメリアが嬉しそうな声をあげる。ガウリイが視線をうつすと、そこには道端で絵を売っている絵描きがいた。
「…あの絵かきがどうしたんだ?」 断言してあさっての方向を指さすアメリア。きっと彼女の目には、そこに希望の星とやらでも見えているのだろう。 「似顔絵、な……」
ガウリイが苦笑するが、正義に燃えているアメリアは気づかない。 「おじさんっ! 正義の人相がきを作るので、協力してくださいっ!」
勢いこんだ少女の言う”正義”の2文字はわからねど、とりあえず人相がきが欲しいのだと理解できた絵描きが、こころよく頷く。 「んーとぉ……。目は大きくて、鼻の高さは普通だったかな? 髪は短くて、口もたぶんそんなに大きくなくて……」
絵描きはアメリアの言った通りに描いてゆく。 「あ、あれ? おかしいわね…」
しきりに首をかしげるアメリア。 「…そうじゃなくて。目はもっとぱっちりと。鼻が低くて、全体的にもう少し顔が小さいんだ」 絵描きは言われた通りに直してゆく。修正された絵を見て、アメリアが声をあげた。
「すごーいガウリイさん、これそっくりだわ! よく覚えてましたねー!」
再度苦笑するガウリイに今度は気づき、アメリアが不思議そうな顔をする。 「…なあ。この人相がきの相手って、あの娘じゃないのかい?」 『!?』
ガウリイとアメリアが絵描きの指さした方向をふりかえると。 「ついに見つけたわっ!」 アメリアがセイラを指し、高らかに宣言する。あまりの非日常的な光景に、2人とセイラまでの間にいる人々がざざざっと道をあけた。 「悪にその身をそめしものっ! あなたの未来に光はないっ! 今すぐ改心し――」 アメリアの口上の途中で、セイラはきびすを返し、町の雑踏の中へと駆けだした! 「待てっ!」 間髪入れず、その後を追うガウリイ。 「ガウリイさん!」 出遅れたアメリアは、似顔絵の描いてある羊皮紙を丸めて胸元へしまい、走り始めた。
(頼む―――!)
ほんの、わずかな一瞬でいい。 「待ってくれ――!」
ガウリイの懇願するような叫びにも、セイラは反応しない。 「――っ!?」
セイラが路地裏を抜けた。 「…!? 待っ……!」
人よりかなり身長の高く、さらにあれこれ装備しているガウリイでは、この人ごみの中で小回りがまったくきかない。 「…………」
セイラの後ろ姿を見つめながら立ちつくすガウリイ。通行人たちがジャマそうに彼をよけていく。
「大丈夫ですか、ガウリイさん!?」 表情を固くしてうつむいてしまったガウリイに、アメリアはため息ひとつ。
「…まあ、この人ごみじゃ仕方ないし…。とりあえずいったん戻りましょ。ゼルガディスさんだって待ってますから」 足は先に立っていくアメリアを追いながらも、ガウリイの目は振り返り振り返り、セイラの見えなくなった雑踏に向けられていた。
予想通り、一連の出来事を話すとゼルガディスが驚きの声をあげた。
「そうです。すぐに逃げてしまったんですけど、あれは間違いありません。心にやましいことがなければ、逃げるはずないじゃないですか」
ゼルガディスが視線をやると、ガウリイはやはりあの時のまま――セイラを見失った時のままの表情で、ひたすらテーブルを見ている。 それでも、ゼルガディスの問いにははっきり答えた。
「………ああ……」
アメリアが珍しく、慰めの言葉を口にする。あまりのガウリイの落ちこみように、いつものハッパかけができないでいるのだ。 ガウリイは、怖いくらい悲壮な顔になり、 「―――そうじゃないんだ―――」
この世のありとあらゆる悲しみを背負ったかのようなガウリイに、アメリアもゼルガディスも何と言ってよいのかわからない。
「…お前たちが見たのは『セイラ』1人きりで、リナを見つけたわけじゃないんだろう?」
その答えは、いまだガウリイの胸の中。 |