「あ、おっちゃーん。AランチとCランチ追加ねー!」 「じゃあオレは、Bランチ三つ追加ー!」 いつもの町のいつもの食堂に、ちょっといつもじゃない多めの追加注文が出された。周りの客にはちらちらと視線を向けている者もいるが、食べる二人はいつものことなので気にしない。 はたして、その二人組のうち片方が、相棒へとジト目を向けた。
「まったく……。ガウリイ、あんた少しは遠慮しようって気、ないの?」
まあ、どちらが多く注文しても、結局二人とも満足いくまで食べるのだから、合計の注文量は同じなのだ。一応二人でサイフは分けているが、大元の管理はリナがしているのだし。 ガウリイを呆れさせ、その場に唯一残っていた香茶にリナが手を伸ばしたその時。彼女の背後から笑い声が聞こえた。
食堂の扉が開き、そこにいた人物の登場で、場が騒然となる。
「おっ、すげぇカッコしてるな、あの姉ちゃん。大道芸人かな? なぁリナ、あれ何だと思う?」 リナが必死で知らぬふりを決めこんでいるというのに―――
笑い声を聞かせながら入ってきた謎の人物は、つかつかとリナの横まで歩み寄ってきた。 「ふっ。久しぶりね、リナ=インバース」 「だああああぁぁぁっっ、ナーガ!! あんたなんで、今さらこんなところにぃぃぃぃぃ!?」
振り向きざま、リナが絶叫した。ナーガは以前とまったく変わらない調子で胸を張り、 ナーガは答えない。代わりに、顔にひとすじの汗が流れる。
「図星か……をい……」 しばらく会っていなかったせいで、免疫力(?)が落ちていたらしい。リナは頭を抱えたまま、早々にテーブルにつっぷした。
「ヘタすると、手間が増えるだけのよーな気もするけどね」
まあ不安は残るにせよ、ただオゴるだけというのは、リナのプライドが許さないのだろう。 そんなわけで、ナーガがすぴょすぴょと寝息をたててる今、リナは明日の打ち合わせという名目で、ガウリイの部屋へ息抜きに来ていたりする。 「は〜〜…。まったくまいっちゃうわよね」 額をおさえてついたリナのため息は、彼女にしては珍しく深かった。
「あのねーちゃん、一体なんなんだ?」 「ガウリイと会う前、一緒に旅してた女魔道士でね…。前から神出鬼没なヤツだったけど、まさか数年ごしで出てくるとは思わなかったわ。あ、断っておくけど、アレは友達じゃないから」 「おまえの友達か?」と聞かれる前に、しっかりクギをさしておくリナ。次の言葉をとられたガウリイは、何か言いたそうにしていたが、結局おとなしく口を閉じる。 「まったく…。あいつに会わなくなって、せーせーしたとか思ってたのにな…」 小さく呟いたリナをしばし見つめていたガウリイは、やがて笑いながらリナの頭をかきまぜた。
「うきゃ!? ちょ、なに、ガウリイ!」 リナはなんとかガウリイの手から逃れ、照れたような表情ですっと立ちあがる。
「まったく…。もう寝るわ。おやすみ」 先程のナーガを語る呟きの時、懐かしいような、どこか嬉しいような表情をしていたのに気づかなかったのは、どうも当のリナ本人だけであったらしい。
「リナ。今回のしごとはどんな内容なの?」 リナはちろりと隣を歩くガウリイを見上げる。 そのガウリイはリナをはさんで、少し怒ったような目つきをナーガに向けていた。
「おい、あんた。いくらリナの昔なじみだからって、こいつに盗賊いぢめをすすめるのはやめてくれないか」 ガウリイはナーガをスリッパでひっぱたこうとするリナを、後ろからはがいじめにして、 「それでもいいんだ。オレはこいつの保護者なんだから」 「保護者…?」
ナーガはリナとガウリイをしばし訝しげに見比べてから、おもむろに口を開いた。 いつの間にかガウリイの手から抜けだしていたリナが、半ば本気でナーガの首を絞めあげる。その一部始終を見ていたガウリイは、何とも言えない顔になって言った。
「なあ、リナ…。なんちゅーか、その…かなり問題のある考え方をする人だな…」 リナもげんなりとした調子で答えたのだった。
「それって珍しいのか?」 リナはひょい、と倒木を跳びこし、
「ま、最初にふい打ちすれば、一度でほとんど倒せるから。楽勝よね」
「ちょうどいい機会ねリナ! そのオーク、どちらが多く倒せるか勝負しない? わたしが勝ったら、礼金の取り分を多くさせてもらうわ!」 「…ほ…ほ――っほっほっほ」
「ごまかすなぁっ! いーいナーガ、そーゆー条件を出すんだったら、あたしが勝った場合、あんたの取り分はナシよ!」 「――リナッ!」 二人の言い合いを遮って、ガウリイの声が鋭く通る。その中に含まれた緊迫感に、リナは慌てて彼の視線を追った。
「――オーク!? いつのまに!?」
リナとナーガのかけ合いのおかげで、リナはおろかガウリイまで気配の察知が遅れてしまったのだ。向こうに先に見つかってしまっては、不意打ちなどできっこない。 と、その時。
「ほーっほっほ! これだけいれば、相手に不足はないわ! さあリナ、これで勝負よ!」 「もーっ、ナーガのやつー!」 リナも文句を言いながら、戦線に参加した。
「デモナ・クリスタル!」
オークたちも反撃しようとはするのだが、通常でもオーク程度では彼女らの敵ではない。
「ったく、チョコマカとうっとーしい! 八匹目っ!」
「もらったぁぁ! これであたしの勝ちよっ!」 びくんっ!
リナが思わず足を止める。
「ガウリイ! ここから離れるわよ!」 「フリーズ・レイン!」
ごげっ!ととんできたひとかかえもある石が、ナーガのあたまを直撃する。
「痛いじゃない! なにするのよ!」 魔結球(フリーズ・レイン)。大きな氷の球から、雨のように氷の矢が降ってくる術である。その対象は無差別で、術者さえも例外ではない。リナが怒るのもとーぜん、一歩まちがえば自分たちが穴だらけになっている呪文だ。 しかしナーガは、怒りまくるリナに余裕の表情をして、 「ごまかそうったってそうはいかないわよリナ! これでわたしの倒したオークの数は13、約束どうり礼金のとり分は7まで増やしてもらうわ!」 リナは一瞬言葉に詰まった。確かに結果だけ見れば、ナーガの勝ちに違いはないのだ。だがしかし、ここで黙っていては、本当に礼金の七割をもっていかれてしまう。
「なにいってんのよ! こんな広範囲呪文を使っていいなら、あたしの最初の一発で勝負はついてたわ! こんなの無効よ無効!」 「へえ、13か。じゃあオレと同じくらいだなあ」
またドロ沼の舌戦がくりひろげられそーな雰囲気は、この牧歌的な一言で破られた。
「ガウリイ…それホント?」 リナはいそいで斬り傷のあるオークの死体をかぞえにかかった。リナやナーガの呪文の余波をあびているとはいえ、致命傷になるならかなり深い傷だ。一目でわかる。 「13……14……15!?」 「…ま…まさか……」 呆然としたナーガの声がして、リナは得たりとばかり笑みをうかべた。
「どうやらこの勝負、『ガウリイ』の勝ちみたいね…。ならやっぱし、あんたの取り分はナシね♪」 きっぱり言いきったリナに、ナーガは返す言葉がおもいつかずしばし考えこんでいたが、やがてポンとひとつ手をうった。 無意味にバサァッと髪をかきあげ、
「…ふっ。わかったわリナ=インバース。あなたとその人は一心同体! ならば! 二人そろってこの白蛇のナーガの最大最強のライバルとなるわけねっ!!」
そう言って高笑いを始めたナーガに背を向け、リナはガウリイの腕を両腕でしっかと抱きかかえた。 結局、夕日にすべてが暮れなずむ時刻になっても、3つの影の追いかけっこは続いていたらしい……。
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やっぱしすぺしゃるといえば最初はナーガでしょう。(でもナーガってむずかしい…)
私、じつはけっこうナーガってキライじゃなかったりします。
だからかもしれませんが、リナもけしてナーガを嫌ってはいなかったと思うのです。
だって、ねえ。何だかんだいって、あれだけしっかり面倒見てるんですから。
ちなみに、このシリーズの主題。
「見る人が見れば妄想できるように、さりげなーくガウリナをまぜよう」。
さあ、あとはお好きにトリップしてください(笑)