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 『それ』が現実になるなんて、あたしは思いもしなかった。 
 結構大きな町に、いくつかあるマジック・ショップのひとつ。店同士の競争を理由に、少しでも高く盗賊いぢめで手に入れたお宝を売ろうと、必死だったその時。 
 「ねえ、あんた。ちょっといいヨロイがあるんだけど、試着してみないかい?」 
 ガウリイ一人だったら、この商売人のおばちゃんに十中八九買わされてるだろうけど、あたしはとりあえずほっとくことにした。ガウリイが買う前にあたしが断ればいいんだし、あたしが交渉してる間、ガウリイもいいヒマつぶしになるだろう。 
 でも、この時ガウリイを止めてればと、今になって思うのだった。 
 「…リナー…」 
 あ、いけない、忘れてた。 「っっきゃははははは!!!!」 
 …爆笑した。 
 恨みがましげにあたしを見るガウリイ。しかしあたしは、それでも笑い続ける。 
 「はは、あはは…あー、おかし。ガウリイ、あんたそーしてると、どっかのお城の騎士サマみたいよ?」 
 と、すぐに、ヨロイをはずそうとしていたガウリイの顔色が変わった。おや? 「あん! 痛ぃい! 乱暴しちゃい・やゥ」 
 「どわあぁぁぁっっ!!? ヨロイがしゃべったああぁぁぁ!!?」 「あ…あなたもしかして、動く鎧(リビング・メイル)のナタリー………?」 「えへ♪ リナ、また会ったね!」 この時あたしは、間違いなく硬直していた。 
 
 とりあえず、気持ちを落ち着け…られるかどうかは別として、場所を変えての事情説明をあたしとガウリイは聞いていた。ナタリーのいたお店のおっちゃんとおばちゃんが、『だからこんなブキミなモン置くなって…』『でもおまえさん、この娘の声、あたしが若い頃死んだ妹によく似てて…』なんて言ってたから、迷惑料のひとつもぶんどってやればよかったのだが…いかんせん、事のショックが大きすぎてすっかり忘れていたのである。 
 「それでよぉ…。お前さん、これからどーする気なんだ?」 あ、食堂のウエイトレスさん、すごくイヤそうな顔してるし。 
 「とりあえず、わたしの王子様ゥと旅をご一緒させてほしいなぁって…。きゃ〜、ナタリーだいたんっゥ」 
 まあ当然といえば当然の成りゆきである。ナタリーは、そのためにあの店にいたのだから。 
 
 
 
 「あ、うん、なに?」 「まあ…しばらくはしょーがないんじゃない? 少しだけやってみて、その後どうするか決めればいいわ」 
 「ええ〜〜〜!?」 
 
 「…はぁ…。つっかれた…」 
 そもそも、歩くことすら大変だったのだ。何せあたしたちがいるのは、騎士の闊歩する城でもなければ、重装備を好む人間がゴロゴロいる戦場でもない。 
 恥ずかしーので距離をとって歩こうとすれば、あんな重いヨロイつきなのに走って追いかけ、しかも大声で名前を呼ぶ。 想像してみてほしい。ごっついヨロイつけた182cmの男から、キャピルンの少女の声が出る様子を。 だからって離れようとすると、また2人(?)が追いかけて…という悪循環に、すっかりはまってしまったのだった。 
 「あれー? リナ、なんか元気ないね。どうしたの?」 「そりゃあもう♪ だって今日は、理想の王子サマゥとお会いできたんですものー♪今度こそ、本物の王子サマだわ♪」 
 ナタリーは夢みるオトメのブリッコポーズで、ふるふると首を振る。 
 「…でもガウリイは、顔と剣の腕しかとりえないのよ? 三歩あるく前に忘れるし、デリカシーないし、大食らいのくせに甲斐性なしだし……」 「いいなぁ…リナは」 「え?」 「リナはず―――っと王子サマゥと旅してきたのよねぇ…。あたしのまだまだ知らない王子サマゥのこと、いっぱいいっぱい知ってるじゃない? ちょっと、妬けちゃうかなぁって」 「…妬ける…?」 「あは、変なこと言ったね。ごめん、忘れて♪ じゃ、もう寝ましょうか」 動く鎧(リビング・メイル)が眠るかどうかあたしは知らないが、とにかくナタリーはそう言って明かりを消した。あたしも毛布にくるまり、寝ようとするけど眠れない。 さきほどのナタリーの言葉が、なんだか気になってる。 
 …そういえばガウリイと旅するようになってから、彼といちばん一緒にいたのはあたしだと思う。 だけど、ナタリーがこれからもついてくるとしたら、間違いなくあたしよりガウリイと一緒にいる時間は長い。 そう考えたら、なぜか胸の奥がチリチリした。 …やっぱ…嫉妬なのかなぁ、これって…。 
 まあ、相手がヨロイだからヤキモチって認める方がくやしいし、ガウリイとナタリーのハッピーエンディング、なんてホント、想像もつかないけど。 そういうことを考えてる間に、夜はゆっくりと更けていった。 
 
 「おっ、リナ、おはよう。うわ、すっげえ寝不足のカオ。さてはまた、盗賊いぢめ行ってたな?」 あたり前のように誘いかけるガウリイに、あたしもあたり前のように頷こうとして… 「王子サマァァァゥ お水持ってきましたぁぁぁ!」 思わず二人で振り向くと、ナタリーが水を入れた桶持って、廊下を爆進してくる! 
 「は、はは…。ガウリイ、人の好意はありがたく受け取りなさいよ。じゃ、あたしは行ってくるから」 叫ぶガウリイの声を背に、あたしはそそくさとその場を立ち去った。 
 
 そして。さびしい街道といえば、やっぱりこれ。 「おいこら、そこの嬢ちゃんと優男。足を止めな!」 
 きたきたきたっっ!! あたしのストレス解消必須アイテムがっっ!! まずは挑発してやろうと、あたしは一歩足をふみだし――― 「いやあん、王子サマぁゥ ナタリー怖いぃん」 
 ………ど……… …………この時、思わず後ろを振り向いてしまったことを、あたしはかなり後々まで後悔することになるのだった。 
 もう一度、思い出してみてほしい。今のナタリーは、ガウリイに『着られて』いるのだ。 ぶっちゃけた話………… そこには………… 
 
 
 
 
 「じゃ、リナ。オレ、ちょっと」 
 ぽか、ぽか、ぽか。 あたしが思わず、ごろりと草に寝ころんだ、その時。 
 「キャアアアァァァ!!」 「ナタリー!? …ガウリイ!!」 
 あわてて駆け出す。幸いそんなに離れておらず、すぐ2人は見つかった。 
 「どうしたの? 何があったの!?」 
 カチャカチャと震える指先でナタリーが指し示す先には、あたしに背中向け、必死にズボンをいぢくるガウリイの姿。 
 ナタリーは、少し興奮した口調で、 一方ガウリイは、頭ぽりょぽりょとかきながら、こうのたもーた。 「いやぁ…。結婚とかって言われても、オレ、一度も考えたことないし……」 うああぁぁっっ!! なんちゅーデリカシーのないことをぉぉぉ!!? 
 案の定、ナタリーは目に涙を浮かべ(って目はないけど、あったらたぶんそう)、 「あ、ちょっと待って、ナタ……!」 「もう誰も信じられな―――い!!!」 ……げっしょんげっしょん足音を響かせながら、どこかへ走り去ってしまった。 あーゆータイプって…結構思いこみ激しいからな…。『恋愛=結婚』の方程式ができあがっちゃってるんだろう。 
 
 「乙女ゴコロを傷つけた罪は重いわよ? とってもナイーブなんだから」 …ちょっとガウリイ、かわいそうかも…。 「それに、だ」 ガウリイは、あたしの頭にぽんっ、と手をおいて、 「オレは、結婚はもう少ししてから、考えようと思ってるんだ」 
 そう言って大きな手でわしわしとなでる。 
 
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 もうナタリー書きたくない…ハートマーク多すぎ(死)←書くのがめんどい
 最初のネタはかなり少女マンガだったはずなのに、
 ナタリーが思った以上のギャグ出してくれました(笑)
 だけどなんか、冷静になってみると、よりによってリナのヤキモチの
 原因がヨロイだし、ガウリイのナタリーに対する態度ひどすぎだし。
 …ジブン、キャラの扱い悪すぎ?(汗)