寒い…。
身体の芯から冷気がこみ上げてきているみたいだ。
普通、死に直面した際には、温かい光に包まれると聞いた事があるが…。
所詮は、迷信じみた戯れ事だったのか…。
しかも、やたらと落ち着いている自分に驚く。これは『死』を覚悟したという事なのだろうか?
そう考え出すと、何事に対しても意欲が湧かなくなってくる。
それが、『生』に対する物であっても…。
案外呆気なかったな、俺の人生…。全ての悔恨を忘れて、このまま天に召されるのも一興かもな…。
『アスタさん…』
何処からともなく、聞き覚えのある声が響いてきた。この声には聞き覚えがある。
しかし、此処に彼女が居る訳がない。何処かも分からないこの場所に…。
『アスタさん…』
再度聞こえてきた。幻聴ではないらしい。と、いう事は…?
「ソフィア!?ソフィアなんだな!何処だ!何処にいる?姿を見せてくれ!」
しかし、俺の周りは暗闇に包まれていて、何も見えない。俺の叫びも、その暗闇に吸い込まれる様に消えていった。
それでいて、妙に血生臭い。変に身体が軽く、浮遊感を感じている。体重が全て失われているみたいだ。
「ソフィア!居るのなら答えてくれ!此処は何処だ?何故、姿を見せてくれないんだ?」
俺は、言いようの無い恐怖に襲われ、つい大声で叫んでしまった。
しかし、返事が返って来る事はなく、虚しい沈黙のみが俺を包み込んだ。
が、暫くすると再び彼女の声が聞こえてきた。
『此処は、戦争によって流された血が溜まる場所。戦争によって命を落とした人達の悔恨の念が創り出した世界…。
そして、私が在るべきでは無い世界…』
「なっ…!?」
ソフィアは、信じ難い事を冷静かつ、淡々と語った。
一言一言が哀れみに満ちていて、何処か突き放す様な冷たさすら感じる。
これは、ソフィアからの『死の宣告』なのか?
そんな事を考えていると、ソフィアが更に言葉を続けてきた。
『貴方は、この世界に足を踏み入れてしまった。もう貴方は…』
「俺…。俺どうなるんだよ?しっ…、死ぬのか…?」
見苦しいという事は分かっていた。だけど、言葉にしないと何かに押し潰されそうな感じがした。
自分の存在が否定されそうな恐怖に襲われたのだ。
その時、不意に涙が頬を伝った。その涙の意味は、死に直面したからか?
それとも、ソフィアに会えなくなる哀しみからか…?
零れた涙がゆっくりと落下する頃、一番認めたくない事実をソフィアが告げた。
続く………