「おい、為政どこへ行くんだ。」
ある秋のこと、池柳為政は同じ傭兵の友人に酒場の側で声をかけられた。
「ちょっと家庭教師をしにな。」
「お前、外国人のくせによくこの国で家庭教師なんてできるな。」
「それはつっこまないでくれ。」
そう言い残し、為政は足早にその場を去った。
(本当にオレ、よく家庭教師なんてできるよな。実は頭がいいのかもしれん…)
そんな事を考えながら城の城壁に沿って歩いていた。
「おーい、為政。」
その声に振り向くと、明朗快活なお転婆娘、いやこの国の王女プリシラ・ドルファンがいた。
「王女様、この様なところでお目にかかり大変光栄です。」
「何いってるのよ。それより今日は、私につきあわない?」
「今日はお仕事。無理、無理。」
「あら私より仕事を優先するというの。いったい何の仕事なの?」
「ピクシス家の家庭教師。」
「あら、そうなの…。なら仕方がないわね。セーラによろしくね。」
「おや、知っているのか。」
「王族がピクシス家の人間を知らないわけないでしょ。だいち、従姉妹よ。」
「そうか、そうだったな。それより時間がないからいくぜ。」
「どうぞ。それより来週どっかつきあわない?」
「予定がないから別にいいぜ。」
そう言って為政は国立公園の前を通って、マリーゴールド地区にあるピクシス家へ急いだ。
ピクシス家に着いても、いつも出迎えにくる使用人達が出てこない。
ただ犬のシリウスが落ち着かない様子であるだけである。
「すみません、家庭教師の池柳為政ともうしますが…」
そう声をかけても誰も出ず、ただ慌ただしい人の気配があるだけである。
おかしいと思いつつも為政は、セーラの部屋のある二階へと進んでいった。
するとセーラの部屋の中から執事のグスタフ・ベナンダンディの声がする。
それもいつもとは違い大変慌てているようである。
「すいません、グスタフさん。誰もでないものですから…」
そう言いいながら部屋に入ると、セーラがバルコニーの側に何やらいつもとは違う様子で立っている。
「これは為政殿、良いときに参られた。」
グスタフはそう言いながらもセーラの方からは、目を離さない。
「一体これは何事です?」
「いやっ!!こないで!!」
セーラは近寄ってくる為政に叫んだ。
「セーラ様の可愛がられていたメビウスが…」
そこまで聞いたところで、為政は状況を理解した。
「私も死ぬのよ!メビウスのように…」
セーラはヒステリックに叫んでいる。
「馬鹿な真似はよすんだ!」
為政はセーラを止めようとそう叫んだ。
「馬鹿な真似って何よ!もうお兄さまにもあえないのよ!私の命、どう使おうと勝手でしょ!」
「やかましい!黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」
「黙っていない、黙っていない」
グスタフのつっこみを無視しながらビックリしているセーラに向かって続けた。
「君に命の価値がどれくらい分かるというんだ。
君は確かに心臓に重い病を抱えている。しかしピクシス家に生まれた君には分からない、
もっと過酷で悲惨な運命に巻き込まれ、もっと生きたい、死にたくないと願いつつ死んでいった人達が
多く存在しているのを君は分かっていないのか!
そんな彼らが望んで止まないたった1つの生命を君はすてようというんか!」
続けてグスタフも叫んだ。
「そうですぞ、セーラ様。そのような悲しいことは仰らないで下され。
私にとってセーラ様をお世話することは何よりの楽しみ。セーラ様の笑顔こそが…。」
そこまで聞いたところでセーラは、泣き崩れ呟いた。
「うっ…、私死にたくない。元気になりたい…。誰かたすけて…。」
「為政殿、今日は大変助かりました。今度もまたよろしく御願いしますぞ。」
為政はグスタフの声を背にピクシス家をあとにした。
ふと空を見上げると秋の気配は去り寒々しい冬空になっていた…。
あとがき
これは私の最初のSSです。
最初は明るい話にするつもりだったのですが…
かなり暗い話になってしまいました。グスタフを中心にしようとしていたのですが…。
ちなみセーラの病気の心房中隔欠損症。私の父親もそうでした。
もう治っていますが、治すにはそれなりの手術が必要です。
中世ヨーロッパのようなドルファンでは絶対なおせないでしょう。
でもおとなしくしていれば、そんなに倒れることはないと思うのですが。
この後のセーラはプレイ済みの方はご存知でしょうし、未プレイの方は自分でゲームをやって知って下さい。
最後に今後どうなるかは自分でも分かりませんが、見かけたらそれなりにご贔屓のほどを。