「う〜、腹が空いた」
とにかく今は金がない。
少しでも金を得ようとバイトをする毎日…。
(何を言ってるのよ。さぁ働いた働いた!!)
「しかしだな、ピコ!もう3日も何も食ってないんだぞ」
俺は採掘場で岩を運びながら言う。
「それにしてもお前は良いよなぁ〜。何も食べなくても生きていけるんだから…」
(ちょっとぉ、私は花の蜜とかを吸うのよ。人を不死身みたいに言わないでくれる!)
さっきの一言は彼女のプライドを傷つけたらしい。
「うぅ、何でも良いから食いたい」
そう、とにかく金がないのだ。
実はそれ程までに金がないのは訳がある。
それは数十日前に戻る。
買い物の為に町に赴いた俺はふと刀剣屋に目が止まった。
そしてなんのけなしに寄ってみたのだがそこには東洋の剣が置いてあったのだ。
この東洋の剣というと、我が祖国の刀。恐らく美術品として売りに出されたのであろう。
この刀、こしらえこそ平凡ではあるものの刀身は見事な直刃である。
「欲しい…」俺はそう呟いた。
それはそうであろう。
これだけの物は俺の祖国でもそう手に入るものでもない。
それが異国の地で手に入るというのだから、俺でなくとも俺の国の出身者なら誰もがそう思う。
しかし、いかんせん高すぎる。
(オイオイ、俺の給料の6ヶ月分だぞ)
俺は悩んだ。
夜も眠れず昼寝しまくりの毎日を送る程に…
実は幸か不幸か俺はあまり浪費はしない性分であり、全財産を投げ打てば買えないことはなかったのである。
(諦めるか…いや待てよ!)
お蔭で付いた異名が「怠け者」になってしまった。
そして結局「誰かに買われる位なら」を言い訳に購入したのだ。
それからは地獄である。
次の給料日までわずかな金しか残っていなかったからなのだが…。
そしてそのわずかな金もなくなり今に至る。
「うぅぅぅ、死ぬぅ腹減ったーーー」
(全く次の給料日まで購入するのを待てばいいのに…)
と、ピコが言った瞬間、俺は自分の異変に気づいた。
「あ……あれ?手に…ちか…らが……抜け…る」
そして俺の視界が急速に遠のいていった…。
目が覚めたのか、俺の視界に天井が映し出された。
「あ!!気がつきましたか?」
その声の主は看護婦の格好をしている。
ということは、ここは恐らく病院であろうと察しがついた。
なかなかの美形である(クレアさん程ではないけど…俺的談)
「私はテディー○ア…じゃなくて、テディー・アデレードと申します」
うーん、なかなかおちゃめさんだ。そして彼女は続けて言う。
「貴方は栄養失調で倒れたんですよ」
俺はただでさえ金がないのに、入院費まで払わなくてはならなくなったので少々機嫌が悪かった。
そのせいか彼女に対して俺はあんまりな事を言ってしまった。
「俺はナイト!!友達になってくれない?」
このあんまりな一言に彼女は、
「ええ!!いいですよ」と言ってきたのだ。
世の中には良い人もいるものだと神に感謝した。そして話が弾みだした。
「へぇ、ナイトさん恋人いないんですかぁ」
まぁ他愛のない話をしていたのだが、彼女が不意に
「もう交代の時間ですね。それではナイトさん」こう言い残し出て行ってしまった。
暇な時間が続く…
(誰かこないかなぁ)
などとつぶやいたことをきっかけに悲劇がおこることを、この時俺は知らなかった…
コンコン
静寂な空間にノックの音が響きわたる
「どうぞ!!」
そして出てきたのはなんと、緑色の綺麗な髪をしていて透き通った瞳、
一緒にいると心が落ち着く雰囲気をかもしだしていて、神はなんと罪作りな御方を作ったのだと言いたくなる容姿。
その名はクレア。
「大丈夫?倒れたと聞いたのだけど…」
あぁ、なんとお美しい。僕の全ては貴方の物。
「ナイトさん?」
「あ!な、なんでもないでありますです、はい!」
いかんいかん、あまりの美しさに見とれてしまった。
「ふふ、その様子だと大丈夫そうね」
「はい!気分はジンギスカン」
「………」
やばい。何を言い出すんだ俺は。
彼女は無言で「頭は大丈夫?」的な顔で見ているぞ。話題を変えねば…。
「クレアさん!パンツって誰が作っているんだろうね?」
「え……?」
終わった……何もかも終わった。
彼女の顔は「もしかしてこの人、変態さん?」的な顔で見ている。
(よくこれで知り合いになれたね?)
ピコが俺に聞こえるよぉーーーーーに言う。
でも、彼女はやさしく自己嫌悪に陥った俺に言った。
「あ!お見舞いに来たのになにもないのはいけないわね。林檎を買ってくるわね」
こう言って彼女は静かに出ていった。
あぁ、貴方はなんてやさしいんだ。
(ただ単に逃げたんじゃない?)
このピコの一言は聞かなかった事にしよう。
───数分後───
また静寂な空間にノックが響きわたった。
俺はまた彼女が来てくれたんだと思ったが、トビラから入って来たのは栗色の髪をした女の子である。
「やぁ、ソフィア」
「大丈夫ですか?倒れたって聞きましたけど…」
誰に聞いたんだろう?と一瞬疑問がよぎった。
「あぁ、大丈夫。ちょっと(本当は凄く)腹が空いたけどね」
「それなら林檎を持ってきましたよ」
一瞬「林檎」という言葉に反応した。
何故反応したかというとクレアさんが買ってくると言っていたからだ。
「はっはっは、ありがとう」
と、こんな風にソフィアと話していた頃、ドアの前の通路に一人の女の子がいた。髪はピンク色でリボンをしている。
その名は…ロリィ。
「お兄ちゃん、倒れたって聞いたけど大丈夫かなぁ?一応、林檎を持って来たけど…」
そして嬉しそうに言う。
「でもお兄ちゃんは恋人いないって言っていたよね、ふふふ」
そしてノックもせずにドアを開けていきなり言う…。
「お兄ちゃん!お見舞いにきたよ…あ」
「あ!!」
まさか、ソフィアが来ている時に他の子がお見舞いに来るとは思わなかったので俺は困惑した。
っとちょうどその時、やはり病院の通路で一人の女がいた。髪は紫色でパン屋の看板娘をしている。名は…スー。
「彼、倒れたって聞いたけど大丈夫かしら?全く心配かけるんだから…。
ところで彼に林檎を持ってきたけど好きなのかしらねぇ?」
彼女は不敵な笑みを込めて言う。
「彼!確か、恋人いないって言っていたわよねぇ、うふふふふ」
そして彼女はノックもせずに彼のいるドアを開けた…。
っとまたしつこく病院の通路で女の子がいた。長い金色の髪をしている。名は…レズリー。
「あいつ、倒れたって聞いたけど大丈夫かなぁ?」
もちろん手には林檎を持っている。ふと彼女は呟いた。
「確か、あいつ恋人いないって言ってたなぁ」
自分が言った事が照れ臭かったのか、顔を赤くしながらノックもせずに彼のいるドアを開けた…。
っと更にしつこくこれを後8回続くのだ。そしてその後、彼の部屋の内部は壮絶であった…。
「あの…し、失礼します」
「お兄ちゃんの浮気者ぉぉ」
「ひ、酷い私とは遊びだったのね!!結婚してくれるって言ったのにぃぃーーー」(←言ってない)
「キャハハハ!殺すリスト赤マル急上昇」
「これだから貧乏な庶民は嫌なのよ」
「おいお前!!馬車に引かれてみるか」
「ジョアンの方が一途で貴方よりマシですね」
「王女を怒らせたら貴!命ないわよ」
「お前。ロリィを泣かせたな」
「せ、先生!!私…」
「この薬の実験台になってもらおうかねぇ?」
……等々、俺ことナイトの容態がお見舞い客にボコボコにされて1年程悪化したのは言うまでもない。
ちなみに、林檎は(泣きながら)全部食べたのだから我ながら凄い。
<おまけ>
結局、林檎を買って戻って来るはずの緑色の髪をした御方は帰ってきませんでした。
何も言いますまい。
ただ単にゲーム中に倒れると親しいキャラが見舞いに来るのですが、
「もし同じ時間に全員が見舞いに来たらどうなるのかなぁ」と思い立っただけですからねぇ(^^;)
ちなみに林檎は「見舞いといったらコレでしょう!!」ということから勝手に持ってきました。