第十二章「After count down」


「5、4、3、2、1……」

と、ドルファン地区の時計台の下に集まった人々がカウントダウンをしている。

「ゼローッ!」

時計の針が12を指したと同時に花火が空を鮮やかに彩り、新しい年の始まりを告げる。

ケイゴ「ドルファンではこうして新年を迎えるのだな……」

微かに感嘆を帯びた声で、ケイゴが呟くように言った。

ソフィア「ええ、みんなでここの時計台の前で、毎年こうしてるんです。ところで、ケイゴさんの国はどんな風にして新年を迎えるんですか?」

彼の隣にいたソフィアが、彼の横顔を見て言う。

ケイゴ「そうだな……寺院に集まって、新年を迎えるとそこに置いてある鐘を僧侶が突くのだ。このときの鐘の音は、人間の煩悩を振り払うという言われがあり、それを聞くと一年をよく暮らすことができると言われているので、みんなそれを聞きに行くのだ」

ソフィア「そうなんですか……」

ケイゴの故郷の話は、どれも変わっていて面白い。

自分たちの関心をそそるものばかりだ。

レズリー「よーっ!」

ハンナ「ヤッホー!」

そこに、ハンナとレズリーの二人がやってきた。

ソフィア「ハンナさん、レズリーさん!」

ケイゴ「お前たちも来ていたか」

ケイゴとソフィアが、二人に気づいて振り返る。

ハンナ「二人も来ていたんだね」

ケイゴ「ああ」

と、彼はそっけない返事を返す。

ソフィア「ロリィちゃんはどうしたんですか?」

ソフィアが辺りを見回す。

いつもレズリーと一緒にいる女の子の姿がなかったからだ。

レズリー「ああ。あの子なら、親と一緒に見に行くってたから、今日は別行動だ」

ケイゴ「珍しいな」

レズリー「まあ、そういうこともあるさ」

と、レズリーがバツが悪そうに言う。

ロリィでも、他の人と出かけることはあるようだ。

ケイゴ「さて……支度をしなくてはな」

と、ケイゴはベンチから立ち上がった。

これからなにか用事があるらしい。

ソフィア「?何のですか?」

ケイゴ「正月料理の準備だ。俺の国の料理を出したいと申し出たら、寮の食堂の方々が調理場を貸してくれるというのだ。何分、傭兵寮の連中は食う量が半端ではないから、早い内に作らねばならない。よかったら、お前たちも来るといい。失礼する」

ケイゴは足早に、その場を去っていった。

レズリー「ケイゴの国の正月料理ね……」

ソフィア「どんな料理なんでしょうね?」

ハンナ「う〜ん、想像つかないや」

その場に残された三人は、ケイゴの料理がどんなものかに興味がわいた。

彼やミコトやレイイチロウから訊いた日本のことに関心を持っていたから、当然である。

レズリー「ケイゴの奴、『よかったら、お前たちも来るといい』っつってたし、あたしたちもごちそうになろうか」

ハンナ「さんせーい!」

ソフィア「そうですね。せっかく誘って下さったんですから」

と、三人の意見は一致した。

 

 

夜が明けて、朝日が昇って烽ネお、傭兵寮は騒がしかった。

朝食に合わせてケイゴの料理が出されると、さらに傭兵たちのボルテージが上昇した。

ケイゴ(……加減というものを本当に知らぬようだな、こいつらは……もしソフィアたちが来たら、食堂に連れてこない方がいいな)

大晦日の晩から現在にかけて、彼らのお祭りムードは最高潮を保ったままなのである。

平静であるのはケイゴとアシュレイ、そして傭兵寮の食堂の職員くらいなものである。

アシュレイは、ガヤガヤ騒いでいる若い傭兵たちの集まっている場所から離れて、静かに酒を飲んナいる。

ケイゴは厨房に戻り、料理が残っているかどうか確認した。

ケイゴ「とりあえず、あと六人分といったところか」

そこに、昇降口に据え付けられてある呼び出しベルの音が聞こえてくる。

ギャリック「おひ、ケヒゴ。たれか呼んれるそぉ〜っ」

だらしのない声で、ギャリックが厨房に入ってくる。

ケイゴ「俺が出る。お前ら、厨房に残っている料理には手を出すなよ」

ギャリック「お〜う」

酔っぱらいを客人の前で出すわけにはいかないので、仕方なくケイゴが昇降口に向かう。

ケイゴ「失礼、遅れて申し訳ない」

と、昇降口に顔を出した彼の前には、見知った5人の少女がいた。

ソフィア「ケイゴさん。お言葉に甘えて、来ちゃいました」

ケイゴ「そうか……しかし、ライズ。お前も来るとはな」

黒髪を三つ編みにした、寡黙な少女に目を向ける。

ライズ「私も、あなたの国の料理に興味があったからよ」

彼女にはもう一つの目的があった。

傭兵隊の人員構成などを調査するという目的である。

本来はこれが主な目的だったが、彼女も純粋にケイゴの故郷について知りたかったこともあって、ソフィアたちと一緒に彼の料理を食べに来たのだ。

ケイゴ「そうか。それはありがたい。そこの角を曲がったところにある部屋で待っていてくれ」

ケイゴはそれだけ言うと、足早に食堂へ続く廊下の奥へと消えた。

 

ソフィアたちは、ケイゴに言われた部屋に入るなり、その室内の綺麗さに驚いた。

傭兵の寮と聞いていたから小汚い部屋かと思っていたが、その予想をいい方へと裏切ったようだ。

丁度品もいい仕事をしたものが並び、自分たちがここにいていいものかと頭をひねらせるが、一人ロリィは、豪華な調度品を見て「すごーい!」とはしゃいでいる。

実際、ここは雇って貰っている騎士団の高官が訪問してきたときに使われる来賓室だった。

落ち着きのない様子で、ソフィアたちはとりあえずテーブルの席に着く。

ケイゴ「持ってきたぞ」

ケイゴがそこにたくさんの料理を持って現れる。

盛り付けの済んだ皿を一人一人の前に並べる。

ソフィアたちの目の前に、雑煮、魚の生け作り、大きな海老の日本酒蒸し、そして、ケイゴが倒した鮫のヒレで作ったフカヒレの姿煮など、美しく彩られた料理が並ぶ。

芸術品とも言って差し支えない料理の数々に、一同は思わず目を見張る。

とはいえ、それは真に日本のものとも言えなかった。

雑煮には餅は入っておらず、どちらかというと、鶏と野菜のスープといった感じだ。

魚の生け作りも、野菜のボリュームを多くし、カルパッチョ風に仕立てたし、海老の日本酒蒸しは、伊勢海老ではなくオマール海老(ロブスターのこと)を代用している。

それでも、味噌や醤油のテイストを殺さないように細心の注意も払った。

簡潔に言うと、ここに並べられているもののほとんどがケイゴの創作料理と言っても過言ではない。

まぁ、中には、伊達巻や黒豆の甘煮などのように全く手を加えていないものもあるが。

ケイゴ「お前たちの口に合うかどうかわわからないが、まぁ、食べてみてくれ」

彼の言葉に合わせて、ソフィアたちはそれぞれの皿に手を出す。

料理を口に運んだ瞬間、その中に今まで感じたことのない味が広がった。

今まで口にしたものの多くは濃い味であったのに対し、それは、ここが強いインパクトを持ってはいないものの、食材が調和しており、すーっと心地よく味が舌に広がっていく。

美味しい、と思った瞬間には次の一口を運んでいた。

ピコ「みんな、美味しそうに食べてるね」

わずかに開いていた扉の隙間からピコが現れ、ケイゴの肩にちょこんと座る。

普段、無表情なライズまで、料理の味を楽しむ顔になっている。

ケイゴ「ああ。作った甲斐があったというものだ」

と、ソフィアたちの表情を見て、ケイゴは口元を緩めた。

 

その後。

料理はアッと言う間になくなってしまった。

うまい料理は食を進めるとよく言うが、それは本当のことのようだ。

ソフィア「ケイゴさん、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

テーブルの上の皿を片付けているケイゴに、ソフィアが言った。

美味しかった。

これはここにいる女の子5人の一致した意見だった。

ケイゴ「そうか……お前たちの口に合ったようだな。ギャリックたちからまともな感想を聞けなかったから、どうかと思っていたのだが、安心した」

無表情な顔からは想像もつかないようなことを彼は言う。

レズリー「なぁ。一体、誰に料理を教わったんだ?」

ケイゴ「……ミコトに教わった」

少し間を置いてから、ケイゴが口を開けた。

ケイゴ「教わったというよりは、教えられたの方が正しいか。どうもあいつは強引なところがあってな……ん?どうした、お前たち」

クスクスと笑っているソフィアとハンナ、レズリーを見て、ケイゴは首を傾げた。

どうして笑っているのかと言えば、ケイゴがミコトにあれをしろこれをしろと言われているのを頭に思い浮かべたからなのだが、彼は、その理由が分からない。

腑に落ちない顔付きをしていると、ロリィがケイゴの腕を絡め捕った。

ロリィ「お兄ちゃん、デートしよ」

突然のロリィの行動に、さすがのケイゴも戸惑った。

ケイゴ「おい、どういう風の吹き回しだ?」

ロリィ「美味しいお料理、作ってくれたお礼!」

ケイゴ「お、おいっ!」

ロリィに腕を引っ張られるケイゴの困ったような顔を見て、ソフィアたちは笑いながら二人の後を追った。

一人残って任務をしようとしたライズも、それを取り止めて彼らの後についていくのだった。


後書き

 

こんにちは。国士無双れす。

いくら守護月天のハートフルな小説(全11巻)を持ってても、こういう話を書くのはどうも苦手なようです。(自己分析)

でも、こーゆー話、読むのも書くのも好きですね。

書いてる自分まで幸せな気持ちになるので。(でもちょっと恥ずかしくもある)

 

さて、次回はロリィが準主役の話を予定しています。

あのイベントとあのイベントを足して、まとめてやっちゃいます。

お楽しみに!


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