第十五章 前編「要塞都市ダナン」


???「ミーヒルビス参謀の言った通り、圧倒的不利を通り越して絶望といった感じだな」

要塞の天辺の見張り台の上から、正面に布陣したドルファン軍を、巨体の男が眺めている。

ヴァルファバラハリアン第4大隊隊長にして八騎将が一人、バルドー・ボランキオ。

他の隊はドルファン側に回ったプロキア公国の討伐隊の掃討に出払い、ダナンに残っているのは第4大隊のみ。

だが、大軍勢で現れたドルファン軍を見ても、彼は動揺一つ見せていない。

さすがは、『不動』のボランキオである。

???「……バルドー」

バルドー「ライナノール!?」

本来ならいない人間が、そこには立っていた。

ルシア・ライナノール。

八騎将唯一の女剣士である。

バルドー「お前、まだいたのか!?命令違反だぞ!すぐにミーヒルビス参謀の元に戻れ!」

本来いる筈のない者がここにいることには面食らったが、すぐに戻るように促す。

だが、ライナノールとてすぐに引き下がる訳にはいかなかった。

ルシア「このままでは犬死によ!私の隊も加勢するわ」

バルドー「戻るんだ、ライナノール!ミーヒルビス参謀の命に叛く者は、たとえお前であろうとも……斬る!!」

ライナノールが命令違反を犯してまで自分を助けに来た理由は、わかっている。

でも、彼女の気持ちに応えることは、自分にはできない。

今はいない最愛の者たちを、忘れることができないから。ルシア「わかったわ。……生きて戻って、バルドー……」

これ以上何を言っても無駄だと悟ったライナノールは、それだけ言い残してボランキオのいる見張り場を後にした。

自分が想いを寄せている男は最期まで自分を愛してくれないだろうという、目を背けたくても背けられない現実を目の当たりにしながら……

 

 

戦いが始まった。

忍耐力が勝負の戦いが。

今回は籠城戦、しかも、ドルファン軍は攻める方である。

近寄れば砲弾と矢の雨が降ってくる。

かといって敵の食糧が尽きるのを待っていられる程の余裕もない。

こっちだって兵糧には限りがあるし、プロキアを蹴散らして敵の本隊が戻ってくるのも時間の問題なのだ。

そこで、傭兵隊の中から先発隊を編成し要塞に突入、内部を制圧次第、残りの兵が残敵掃討に入る、というドルファン騎士団に都合のいい作戦が立てられた。

傭兵隊にとっては迷惑この上ない作戦である。

ギャリック「なんで俺たちがこんなことやんなきゃなんねぇんだよ」

不満炸裂のギャリックが愚痴をこぼす。

ケイゴ「その気持ちはわからんでもないが、そうでもしないとこちらが不利になる」

ギャリック「そりゃ、そうだけどよぉ……」

傭兵の扱いの悪さに関してはどこの国でも同じだが、ドルファン騎士団は、他のどの国の騎士以上に、自分の都合の悪いことを押し付ける。

それを見ると、こんな奴等と一緒に戦っているのが情けないし、憤りすら覚える。

ケイゴ「まぁ、あいつらの利益のために、俺たちが戦うこともない。ようは、手柄を取らせなければいい。そうすれば、次から奴等も少しは役に立ってくれるだろう」

ギャリック「そうだな」

シャオシン「先発隊は、僕たちで決めていいようですが……どうしますか?」

アシュレイ「こちらの被害をできるだけ小さくしたい。少人数で、かつ強い者だけで突破した方がよいかのう?」

ケイゴ「ああ。なら、俺たちで行こう。他の者たちは、相当疲れているようだからな」

今日一回目の戦闘でドルファン軍は、傭兵隊も含めて、疲弊の色が濃い。

ケイゴの提案に、他の三人も賛成する。

アシュレイが司令部にこの作戦を申し出ると、即OKの返事をもらった。

 

ケイゴ「遅い!」

手甲『阿修羅』が敵の鎧を砕き、腹を貫通する。

ギャリック「邪魔だっつってんだろ!」

瘴気をまとった大剣『バハムート・ティア』が敵三人をまとめて斬り捨てる。

シャオシン「炎よ!」

炎を宿した鏑矢が、敵の首を撥ね飛ばす。

アシュレイ「うおおーーっ!」

そして、彼の持つ剣、閃刀『シルヴァンス』が閃き、敵を一太刀で薙ぎ飛ばす。

要塞内部に潜入した四人は、内部を混乱させるためにわざと敵陣内で暴れるという、無謀とも思える手段に出たのだった。

初めはたがが四人とたかを括っていたヴァルファ第4大隊だったが、そのたった四人の怒涛のごとき猛攻に、成す術がなかった。

次の相手は誰かとケイゴは辺りを見回す。

ハルバードを手にした若い兵士と眼が合う。

新兵「ひいっ!」

悲鳴をあげたかと思うと、彼は武器を捨てて逃走を試みた。

しかし……。

次の瞬間、ブシュッと湿った音がして、新兵は倒れた。

頭から腹部までが割れ、贓物が石畳に広がっている。

その死体の向こうに、真紅の鎧の大男の姿があった。

血に濡れた黄金のハルバードを手にした彼に、全員が注目する。

???「敵を目の前にして逃げるなど……この『不動』のボランキオが許さん!!」

八騎将、バルドー・ボランキオの雄々しい声が響いた。


後書き

 

国士無双です。

 

ボランキオは気に入っています。

いや、ゼールビス、コーキルネイファを除いて、八騎将は全員気に入ってます。

戦争の虚しさ悲しさが、彼らを通してビンビン伝わってきて、プレイする度に「戦争はしてはならないんだ」と改めて思います。


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