第五章 前編「破壊神」


D26年7月15日。

ドルファン王国軍は騎士団第2・第4大隊を、プロキア公国との国境沿いにある都市ダナンに派兵させた。

現在、この国境都市は欧州最強の傭兵団『ヴァルファバラハリアン』に占領された状態である。

以後も占領し続ける姿勢を見せる彼らを排除すべく、ドルファン軍が決定したことだった。

ケイゴの所属する傭兵部隊も、第4大隊として参加していた。

 

 

ギャリック「あーあ、何で弱いのにあんなムチャするかなぁ?」

遠方で繰り広げられているヴァルファとドルファン騎士団第2大隊の攻防が、傭兵隊の布陣している小高い丘から見える。

戦局はというと、ヴァルファの軍勢に押され、第2大隊は苦戦を強いられていた。

ケイゴ「己が力量を見極めてこそ、騎士であるというのに……愚かだな」

騎士団は、手柄を傭兵隊に取られたくないという理由で、最前線に第2大隊、後衛に第4大隊、さらにその最後尾に傭兵隊を配備したのである。

しかしドルファン騎士団と言っても今は名ばかりで、あっと言う間にヴァルファに隊列を崩されて、混乱している。

10分と待たない内に最前線から聞こえてくる音が無くなった。

そして、血塗れになった一人の若い騎士が、傭兵隊のキャンプの前に現れる。

 

騎士「……第2大隊、全滅しま……」

騎士は、力尽きて地に伏せる。

ヤングが苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

ヤング「まずいな」

ケイゴ「ああ」

彼は『阿修羅』のベルトを締め直した。

ヤング「これより、臨戦態勢に入る!直ちに自分の配置につけ!」

それまで各々が自分勝手な行動を取っていたが、ヤングの声を聞くなりたちまち自分の持ち場に移動を始める。

傭兵隊に所属する傭兵たちにとって、ヤングは信頼できる上司であり、不平不満をこぼし合える飲み仲間である。

傭兵隊の面々は彼の人としての素晴らしさを知っているから、彼に対し協力的なのだ。

ギャリック「ケイゴ、ヘマするんじゃねーぞ!」

ケイゴ「フッ。俺にぬかりはない」

ギャリックは背中の大剣『バハムート・ティア』を抜いて馬に跨がり、ケイゴは自分の気の巡りの状態を確かめ、それぞれの配置場所に移動した。

ドルファン王国軍傭兵部隊は、歩兵隊、騎馬隊、弓兵隊に分かれている。

ケイゴは歩兵隊、ギャリックは騎馬隊の所属で、個々の能力を見て部隊編制を行ったのが、傭兵隊の隊長を務めるヤングだ。

彼の配備は実に的確で、騎士団との模擬戦では大勝もしている。

それでも、今向かって来るのは最強と謳われる傭兵団である。

果たして勝てるかどうか……

ケイゴ(ドルファンにいる間は、死ねないな)

 

一週間前、戦地に赴くことをソフィアたちの前で言ったら、不安そうに自分の顔を彼女らが覗き込んで来た。

ロリィは大粒の涙を溜めて泣き出しそうだったし、ソフィアはお守りだと言って銀メッキの施された十字架のネックレスを渡された。

そのとき、自分を心配してくれた人たちの為に生きようと初めて思ったような気がする。

ケイゴはお守りのネックレスを首に提げ、敵が現れるのを待った。

 

 

傭兵隊が戦闘体制を整えてから間もなく、第4大隊のベースキャンプにヴァルファの部隊が雪崩れ込んできた。

両陣営が入り乱れ、傭兵隊の布陣場所にも敵の騎馬隊が現れた。

ヤング「弓兵隊は歩兵隊の援護、騎馬隊は第4大隊をサポートしろ!」

傭兵隊隊長の指示が空気を裂く。

彼の指示に従って、兵が動く。

ケイゴ「敵の騎馬隊は俺一人で押さえられるな」

ケイゴは歩兵隊から飛び出て一人前に出る。

傭兵隊歩兵隊隊長、アシュレイ・S・ファーレンスは彼を呼び止めた。

アシュレイ「ケイゴ、たった一人で騎兵隊を潰せるわけなかろう!戻れ!」

老練な手足れらしい、威厳のある風格の顔をケイゴは振り返る。

ケイゴ「忠告、ありがたく感謝する。だが、敵兵はあれだけではないだろう。ここは俺に任せろ」

ケイゴの自信ありげな顔を見たアシュレイは、彼がただ者ではないと悟るとこの場を去った。

ケイゴは歩兵隊が去っていくのを見届けると、赤い鎧をまとった騎馬隊を見据えた。

敵兵1「何だ、あれは!?わざわざ死に行くとは」

騎馬隊は、たった一人で構えを取るケイゴの姿を見て、拍子抜けしてしまった。

敵兵2「隊長、どうします?」

敵騎馬隊長「軍団長は敵を蹂躙せよと仰せられた。命に従うまでよ!」

敵は、何も知らずにケイゴの迫っていく。

ケイゴは構えたまま目を閉じ、敵の集団が来るのを待った。馬が自分に向かって疾走する音のみに、意識を集中させて……

ケイゴ(今だ!)

カッと目を見開く。

ケイゴ「金剛武神流、破砕掌!」

ケイゴは右腕に気を迸らせ、大地に打ち付けた。

地面は砕け、ケイゴが放った気の奔流が騎馬隊を空高く吹き飛ばした。

吹き飛ばされてくぼんだ地形に、死傷した兵と馬が次々と落ちていく。

その攻撃の範囲外にいた馬は、驚いて既に兵の元から去っている。

ケイゴ「たかが一人と鼻を括ったのが、お前たちの命取りだ」

ケイゴは冷たい眼光で敵兵を睨み付けた。

しばらくの沈黙の後、一人が口を開いた。

敵騎馬隊長「お前は、何者だ?」

声が震えていた。

人外の力を使って、一気に自分の部下の半数を先頭不能に追いやったケイゴに並々ならぬ恐怖しているのだ。

ケイゴ「俺は、ケイゴ・シンドウ。通り名を『ゴッドハンド』」

敵兵3「『ゴッド』……『ハンド』!?」

見る見る敵の顔が青ざめる。

敵騎馬隊長「こ、殺せ!何としても奴を生かしてはならん!」

声を絞り出すように出して、ヴァルファの騎馬隊長は叫んだ。

ケイゴ目掛けて、赤い鎧の兵が突撃してくる。

ケイゴ「金剛武神流、霊光掌!」

ケイゴは気を集約した両腕を前に突き出した。

巨大な気の塊が掌から飛び出し、敵を飲み込む。

敵騎馬隊長「うおっ!」

彼は何とか体をひねって回避したが、残りの兵は自分含めて三人だけだった。

その部下の二人も、ケイゴのボディブロウと踵落としで沈められる。

口や額から血を流し、目は白く濁っている。

ケイゴは何も言わず、残りの一人に迫った。

敵の騎馬隊長は「助けてくれ」と言おうとしたが、その前にケイゴの胴回り回し蹴りが頭を砕いていた。


後書き

 

ケイゴがヴァルファの騎馬隊を一つ潰してしまいました。

自分で書いてて、いくらなんでもやりすぎだと思ったりして……

今回は今まで出てきたケイゴの必殺技について、登場しているもののみ解説致します。

 

<必殺技>

雷槌脚……気を集約して、踵に光の爪を作り出し、ジャンプ踵落としをお見舞いする。

破砕掌……腕に集めた気を地面に放出し、大地諸共周囲の敵を吹き飛ばす。

霊光掌……両手に集めた気を放ち、巨大な気の塊を飛ばして敵を分子レベルで分解。

???……???

 

<奥義>

???……???

???……???

???……???

 

<特殊技>

白刃砕き……白刃取りの際に敵の武器に飽和量以上の気を送って粉々に破壊する。

 

???の部分は、五章後編以降の登場となるでしょう!

読者の皆様、期待して待ってくださいでしょお〜〜〜〜っ!

ハッ!?

どうして丸尾君口調に……?

次回はネクセラリアの登場だ!(格闘シーンが見せ場なのに、次回なのか)


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