「貴殿とドルファン軍との契約は、今日午前0時をもって終了いたしました。…まことに申し訳ありませんが、速やかなる退去をお願いいたします。それでは…」
出入国管理官の人はそう言って去っていった。
「行こう…」
東洋人傭兵とピコは波止場に向かって歩き出した。
その道の途中…
「本当に、よかったの?手紙、出さなかったけど…」
「ああ、いいんだ…傭兵には、好きな人がいてはいけない…」
「…君が、そう考えるなら…」
昨日
「何?国外退去を知らせないでほしい?」
メッセニ中佐は東洋人傭兵の言うことに困惑していた。
「はい…俺の周りの人には、知らせないでほしいんです…」
「…確かにな…お前は多くの人と関わり過ぎたのかもしれん…」
この東洋人傭兵は人気者だった。
「スーパースター」や「究極の勇者」、「常勝無敗」などの異名があったことはメッセニも知っていた。そして今、「聖騎士」の称号さえ取った。
その男が国外退去となれば、街の活気はかなり落ちるだろう。
「何とかやってみよう。街の活気を落とすわけにもいかんしな。こんな国でも、工作員ぐらいは何人かいる」
「ありがとうございます…メッセニ中佐」
「忌々しいが、お前の活躍で何回かこのドルファンは救われたんだ。借りを返す。それだけだ」
波止場
「いよいよ、この国ともお別れだね…」
波止場に着いた東洋人傭兵は人影を見つけた。
「ライナ、ノール…」
「ようやく来たか…」
「お前…確か朝一番の便でこの国を出ると言っていただろう…」
「ふん…あのときの約束、忘れたとは言わせぬぞ!」
「忘れちゃ、いないさ…」
D27年6月2日
この日、ドルファンの人はまだ「スポーツの祭典」が終わったばかりで、平和を喜んでいた。
当人達以外は誰一人、カミツレ地区の神殿跡で決闘が行われているとは思わなかった。
「ぐうっ…!」
「我が技に、死角はない…」
東洋人傭兵と八騎将の一騎打ち。そしてそれは、
「はあっ!!」
「くっ…」
東洋人傭兵の勝ちで勝敗は決した。
「貴様の勝ちだ…さあ、殺せ!」
東洋人傭兵はライナノールに近付いて、こう言った。
「このまま死んで、いいのか?」
「なっ?」
「お前は愛した者の仇を討ちに来たんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだ!」
「この程度で、相手に屈したくらいで諦めるような弱い意志だとは思わなかったぞ」
「!!」
「まあ、弱者は弱者らしく意志も弱いと言うことか…」
「貴様…!」
ライナノールは怒りにまかせて立ち上がろうとしたが、決闘で負ったダメージが大きく、立ち上がることは出来なかった。
「ほう、元気はあるようだな…」
東洋人傭兵はどうだ、と言った。
「一つの約束と引き替えに俺の部隊に入らないか?」
「なっ…?」
思いも寄らない言葉だった。少しの間、ライナノールは呆気にとられていたが、すぐに聞き返した。
「約束とは…いったいなんだ?」
「約束というより賭けだな…俺の背中に隙があれば、いつでも、遠慮なくその剣で俺を斬るといい。…どうだ?」
「…貴様…正気か?」
「もちろんだ。どうする…?」
と、あいつが割り込んできた。
「甘いな!東洋人!こんな大物を生かしておこうなんて…貴様もヤキが回ったか?」
「…俺がこいつを生かすか殺すかは、こいつの返答次第だ」
東洋人傭兵はライナノールの方を向いたまま、ジョアンに返答した。
「さあ、どうする?」
ライナノールは少し考えた後に、
「さっきの約束…忘れるなよ!」と答えた。
「ああ…まあ、そんなに簡単に死ぬつもりはないんでね。期待にそえんかもしれないが…」
「東洋人!生かしておくつもりか!」
「ああ…」
「…者ども!その女を軍本部へ連行しろ!」
「何をするつもりだ?」
「そいつは八騎将だ!こうするのがこの国のためというものだろう!」
ライナノールを連れて行こうとしたジャックを、東洋人傭兵は突き飛ばした。
「何をする!?東洋人!」
「こいつは一応、今、俺の部隊に所属することになったんでな。部下に何か起こったら守るのが、部隊長の役目だろう?」
「なっ…」
ジョアンは絶句した。
「さて…いくぞ…」
東洋人傭兵はライナノールに手を貸して、軍本部に連れて行った。そして、メッセニ中佐などの上層部との話し合いを申告した。
そして、しばらくして東洋人傭兵は、ライナノールとともに、会議室に入った。
「本気か?東洋人…」
「ええ。本気も本気。真剣ですよ…」
「…」
反応は予想通りだった。みんな渋い顔をして2人を見ていた。
「敵とはいえ、騎士の端くれです。約束は守ってくれますよ…」
「証拠でもあるのか?」
「ええ。賭けましたからね。隙があれば俺をいつ殺していい。とね」
もちろんジョアンのように軍幹部達は絶句していた。
「それに、あなた方が目の前にいるのに彼女が剣を抜かないのは、俺との賭けを彼女がのんだからじゃないんですか?(まあ、俺も少しこいつに威圧感を与えているからな…それも若干はあるだろうが…)」
軍上層部はライナノールを隊に入れることを認めた。3ヶ月の謹慎の後、ライナノールは正式に東洋人の小隊に入ることになった。
「おい、本物だぜ…」
「マジかよ…何考えてるんだ?あいつ…」
もちろん周りの傭兵達はいい目で見なかった。
「うるさい…俺はまだしも、俺の部下に何かあったら、承知しないぞ…」
戦場に行けば、何があろうと死ねばほとんどの場合、「戦死」として処理される。たとえ、上官が恨みなどで最前線に送った者が死んでも、上官は罰されない。まして、それが傭兵なら尚更だ。
小隊だが、一応隊長を受け持つこの東洋人によって、そうされてもおかしくない、と感じた他の傭兵達は、それ以降この事に、あまりふれなくなった。
そしてテラ河、パーシル、首都城塞戦を2人は経験する。東洋人はそれらの戦いにおいて、全て最高の戦果をあげた。3月15日までに八騎将のうち、ライナノールを含め6人に勝利した。
波止場
「朝一番に出る、と言ったのは俺を油断させる罠、と言うことか…?」
「ああ…」
「なら、なぜここに来る途中の道で殺ろうとしなかった?」
「ふん…貴様があまりにもふぬけに変わってしまったからだ」
「…」
「私はそんなお前に負けたのではない。聖騎士となった昔のお前に負けたのだ。…私とて騎士の端くれ。約束した者とは他人の者を殺す気など起きぬ」
「そいつは悪かったな…」
「このままではお前との賭けが成立しない。だからお前を待っていたのだ」
「…」
「どうせまた、戦場に行くのだろう…?」
「ああ。そのつもりだが…?」
「ならば、私も共に行く」
「なぜだ?」
「戦場にさえ行けば、お前は昔のお前に戻るだろう、と思ったからだ」
「…」
「今のお前では、自力で昔のようになろうとしても無理だ。…覇気が少しも感じられない」
「…ずいぶんだな…」
「ふん、私はこれでも約1年半、お前を観察してきたからな…それにゼロから作り出すのは無理だ。お前が昔出していた覇気はな…」
「なるほど…」
「賭けを放棄するか…?」
「まさか…言ったことは守るさ」
そして2人は、船に乗ってドルファンを後にした。
「とは言ったものの…昔の俺…か…」
甲板にいる東洋人はそんなことをつぶやいた。
「戻る自信がないわけでもあるまい?必ず昔のお前に戻ってもらうぞ…言ったことは守るのだろう…?」
「…努力してみるさ…」
「私はお前との賭けのために生きてきたんだ。努力ではない。必ず戻れ」
そう言ってライナノールは船の中の自室に戻っていった。
最後の「戻ってもらうぞ…私に殺意を忘れさせたほどだったお前にな…」という言葉は、東洋人には聞こえなかった。
あとがき
O2 星輪です。
このドルファンステーションの姉妹ページのないと50さんのコーナーを見てライナノールエンディングを書こうと思ったのですが、
ラブストーリー、苦手です。大の苦手です。
このライナノール、今、恋愛度のハート2つぐらい。ちょうど心を開きかけているところといったところでしょうか。全くエンディングになってません。
ライナノールファンの人、まことにすいません。
もっといい作品を作りたいと、私めも思ったのでありますが、限界です。
どなたか、新しいライナノールエンディングの物語を書いてください。
こんな物語よりはよくなるはずです。いや、なります。
11月7日 自室にて