クレア・マジョラム 〜その青春〜

−第2話−

著:帝王


ここはハンガリア陸軍の宿舎。若き兵士達は、ある噂に色めき立っていた。

セイル「なぁヤング、おまえも聞いただろう?あの噂…」

ヤング「近々、戦があるってやつだろう?」

セイル「ああ。なんだか大きな戦らしいぜ!楽しみだ・・」

ヤング「おいおい…噂は噂だろ?まだきまったわけじゃな…」

ヤングが言い終わるのを待たずに、部屋のドアが勢いよく開いた。

上官「静かにしろ!いまから重大な発表がある。このたび…」

それは噂通り、戦争勃発の知らせだった。狭い部屋がどよめく。

兵士達は上官の話も耳に入らないようすで、仲間同士、話し始めた。

上官「…出撃は週明けだ!各自準備を怠るな!!以上!!」

上官が部屋を出た後、部屋はさらに騒がしくなった。

セイル「なっ、ほんとだろ?」

ヤング「あ、ああ……」

セイル「よっしゃぁあ!手柄たててやるぜ!」

 

その日の夜…道路にいつもの影があった。

セイル「まぁ…、そんなわけだ!来週からしばらく帰れない」

クレア「う、うん……」

セイル「どうした?」

クレア「だって、貴方のことが心配で…」

セイル「大丈夫だって!いっぱい手柄たてて帰って来るって!そのときは……」

クレア「そのときは?」

セイル「その……俺と…け、結婚してくれ!」

クレア「!!」 クレアはうつむいたまま答えなかった。

セイル「駄目か?そりゃぁ今は一介の兵士だから…でも、この戦で手柄立てて出世して、おまえを養えるようになるから!」

クレア「……しい」

セイル「え?」

クレア「うれしいの……」

セイル「じゃ、じゃあ…?」

クレア「待ってます……貴方の帰りを……」

クレアは、涙で濡れた顔をそのままにセイルに抱きついた。

セイル「クレア……」

セイルはクレアの涙を拭いてやると愛する人をきつく抱きしめた。

 

辺りは血の海だった。あちこちに死体がころがり、むせかえるような血の匂いが戦場を包み込んでいた。

ヤングは本拠地の守りを任されていた。一方セイルは最前線に配置されていた。そこは地獄と呼ぶのが

ふさわしいほどの惨状だった。

だが、そんな戦も終盤にさしかかっていた。

敵側は、大将と数えるほどの兵士しか残っていなかったのだった。

敵大将「誰かこの俺の首をあげようと言う者はおらんかぁ!!」

セイル「お……」

セイルが名乗りを上げようとしたとき、上官がそれを遮った。

上官「おまえは引っ込んでろ!あいつは俺の獲物だ!!」

セイルは槍を構えると、上官を睨んだ。

上官「何だその目は!?なんか文句でも……」

セイル「あんたじゃ無理だ……」

上官「なんだとぉ!?貴様上官にむかって!!」

ドスッ!! …鈍い音がした。セイルの槍は上官の心臓に突き刺さっていた。

上官「き、貴様…!!…なぜだ……。がはっ!!」

上官は恐怖でひきつった顔で、自分に牙をむいた部下を見ていた。

セイル「邪魔なんだよ…雑魚は…」

上官が倒れると、セイルはその死体につばをはいた。そして、近くで、唖然としている同僚を振り返った。

セイル「おい!!上官殿が敵にやられた。運んでやれ…」

兵士達は青い顔をして死体を担ぎ、逃げるように去っていった。

敵大将「き、貴様…何を…!?」

セイルは敵大将を振り返ると不敵に笑った。

セイル「我が名はセイル・ネクセラリア!!その首、もらい受ける!!」

 

戦争はハンガリアの圧勝だった。戦勝ムードの中、一人の男が部隊から去ったことを兵士達は知らない。

セイルは上官殺しの罪で、密かに国外追放を命じられていた。

セイルは、ヤングにも、クレアにさえ、別れを告げずに去っていった。ヤングとクレアがその事実を知ったのは、

セイル国外退去後二日目のことだった。


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