ミ〜ン…ミンミン…
「ミンミンうるさいぞぉ…ピコ…」
「私は妖精!セミなんかじゃな〜い!」
ドルファンに来て2年目の夏。森林区の森の中。
なにが楽しくてこんなコトをやってるんだろう…。
「コラッ!動くなっ!」
「はぁーいぃ…」
「傭兵がこのくらいのことで音を上げてどーするんだよ…腕が下がってるぞっ」
「はい、はい」
レズリーのカミナリ…
「情けなぁ〜い」
ピコの冷たい視線…自業自得とはいえ、真夏に鎧をつけてのモデルはツライ…
―事の起こりは1週間前の日曜日―
一人の女の子に捕まってしまったコトから始まる…
「ねぇ!お兄ちゃん…ヒマ?」
何気なく町を歩いていて、いきなり声をかけられた。
「ロリィがデートしてあげるっ!」と、俺の腕を引っ張る。
「…まあ、良いか、コレと言ってやることも無いし」
「嬉しいクセにぃ」嬉しそうなピコのツッコミが入る。
「ヒマなだけだ!」
「またまたぁ」
「?…どうしたの?早く行こう、お兄ちゃん!」
「あっ…そうだね、早く行こう」
(会話に入ってくるなって言ってるだろう…)
「良いじゃない、他人には聞こえてないんだから」
それがマズイんだって…
つれてこられたのはウインドゥショッピングだった。
「よかった…まだ売れ残ってたぁ…」
彼女は小さな雑貨屋のウインドゥの前で胸をなで下ろす。
「何かお目当ての物でもあるの?」…しまった!
ココまで口にして、自分がハメられたコトに気がつく…。
彼女のねらいはココにあったのだ。
「お兄ちゃん!もしかして…買ってくれるの?」
まってましたとばかりに目を輝かせるロリィ。
「うっ…ロリィがいい子にしていれば…クリスマスにはサンタさんが…」
「最低…相手がロリィだからってそーやって逃げるの?」
(しょうがないだろ…相手がロリィでもいちおー“女の子”だぞ!
ヌイグルミならともかく…もしアクセサリーのたぐいだと、高価な物をねだられるかも…)
「ココは男として経済力のあるところを見せなきゃ!」
“背に腹は代えられない”とゆー言葉を知っているか…ピコ。
「え〜…クリスマスまでロリィまてないよぉ!…売れちゃうかもしれないし」
「じゃあ…誕生日は?」
「セコイなぁ〜」なんとでも言ってくれ。
「うーん…」考え込むロリィ…たのむ、これで許して…
だがロリィの返事を聞くことはできなかった、なぜなら…
「ずいぶん楽しそうだなぁ…“お兄ちゃん”!」
「あっ!お姉ちゃんだっ!…どうしたの?怖い顔して?」
そう、今日はレズリーと約束があったのを忘れていたのだ。
「キミぃ…二股は良くないよ?」
(おまえが教えてくれないからっ)
「私のせいにするのは、もっと良くない!」
…まぁ…しかたがないか、このところ本業の方が忙しかったからなぁ。
ピコにも心配をかけどうしだったし、忘れちゃうのもしかたがないか。
…などと考えている時じゃ無い。レズリーの殺気が…
「ねぇねぇ!お姉ちゃんも一緒にデートしよう?」
「え?…うーん…まぁ、しょうがないね」
とりあえずロリィの無邪気な提案に助けられたようだ…よけい後が怖いけど。
客観的に見れば両手に花(+α?)で喜ぶべき展開なんだろうけど…
“真綿で首を絞める”とはまさにこのことだろう。
「でも嬉しいでしょう?」
(ん?)
「ヤキモチを焼いてるってことじゃない!つまり…」
ヤキモチか…だったらどんなに嬉しいか…
―5月の花嫁コンテスト―
「コレで誰が上位に行けるか賭けようよ。」女の子達が楽しそうに騒いでいた。
一番下のヤツが何でも言うことを聞く、ありがちなルールだ。
「あんたもやるか?」俺は男だからナイスガイコンテストで…
自分の容姿に自信があったわけではない。みんな“花嫁には幼すぎる”…と思ったんだけど…結果は見事な惨敗。
「自分の順位を計算に入れなきゃダメだよぉ」と、ピコ…もっと早く指摘してくれよぉ。
宿題の手伝い、ネコの世話、雨漏りを直す日曜大工…そして今日はモデルの予定だったのだ。
うー…絵のモデルは次回に回してもらって、今回は楽しむ…なんてムリかな?
「ま、二人はそれなりに楽しんでいるみたいだし、後で俺がレズリーに怒鳴られればすむことか」
だが…「世の中そんなに甘くはないヨ」不吉なことを…
「ねぇ似顔絵屋さんがあるよ、三人でいるところを描いてもらおう?」
「そーだね、歩きっぱなしでチョット疲れたし…」
「…私は遠慮しとくよ、二人で描いてもらいな」
「えーお姉ちゃんも一緒に描いてもらおうよ?ネ?」
レズリーの腕にからみつくロリィだったが…
「いいって…」
それをふりほどくレズリー、そして…
「うっとうしいんだよ!」
「ふぇ…」
「いつまでもお姉ちゃん、お姉ちゃんって…デートも一人で出来ないのかい?」
その時のレズリーの顔を見ることはできなかった、いったいどんな顔であんなコトを言ったのか…
「ふぇ〜ん!お姉ちゃんがぁ…」
「そんなんじゃ…王子様に逃げられちまうよ。
…じゃあな、邪魔者は消えるから…後は楽しくやりな」
そう言い残して帰っていくレズリー…。俺は後を追いかけるべきだったんだろうか?
「意外だね?あの二人がケンカをするなんて…」
「…それよりロリィをなんとかしないと」
―あれから“二人が仲直りをした”とは聞かない。―
約束を破った上に、ケンカを止められなかった…
せめて、あの場を取り持つぐらいは俺にも出来たはずだ。
約束を破ったことが原因なんだろうか…?責任を感じた俺はレズリーの所へ足を運んだ。
とりあえず約束を守るために。うまくいけば仲直りのきっかけを見つけられるかもしれない。
一週間ぶりに会うレズリーは、いつもの彼女だった。俺への対応をふくめて…
そしてモデルをやるために森林区へ…
俺は彼女たちのために何か出来るのだろうか…?
つづく……