「…浮かれていると、思わぬケガをするわよ」
今朝、森林区へ来る途中…一人の女の子に言われた言葉。
浮かれていたワケじゃないんだけど…
「ゴォォァァァア!」ブン!
「どわぁ!」
バコォ!…紙一重でかわした“平手打ち”が岩を砕く。
「何やってんだ!反撃しろ反撃!」ムチャ言うなよ…
去年退治したはずの熊…森の中でばったり出会ってしまい、また戦うことに…
「はぁぁぁっ!」ブン!
こちらの攻撃はかわされる…一度は退治したはず…なのになぜ苦戦する?
むこうは正確に攻撃してくる…バキィ!
「いやぁ…なかなか面白いモデルだ、躍動感のある良い絵が描けるぞぉ」
うー…勝手なコトを…
「ねぇ…この子、首輪してない?」
「くま」と書かれたおしゃれな首輪…だれだよ!こんなヤツを飼い慣らしたのは…
ドカァ!
飼われていた…とゆうより鍛えられた一撃!
「っ…だめだ!逃げるぞ!」
本気を出せば勝てるかもしれない…だけど“女の子を守りながら”となると自信がない。
なんとか相手の攻撃をかわしながら、レズリーと二人で逃げ回る。
「見つからないね…銀色蝶」
ピコはマイペースに捜し物…もう一人は途中で立ち止まり、絵を描きながら逃げている…
「もう、いい加減にしてくれ〜!」
―何時間経ったのだろう?―
「くま」とゆー名前の熊を振り切り、綺麗な小川の横で一休み…
ぜぇっ…ぜぇっ…
「だらしないなぁ」
「先週女の子が見てるって張り切るからダヨ…」
「おまえらなぁ…俺は一番重い鎧を着たまま走ったんだぞ!息ぐらい…上がって当然だ!」
「おまえらって…二人きりだぞ、ついに幻覚を見るようになったか?」
「もーいいっ!俺は寝るっ」
「んじゃ、私は絵を仕上げるとするか…」
小川のせせらぎ、涼しい風…傍らには絵を描く彼女。
ココだけ見るとデートみたいなんだけどなぁ…
「ねぇ!ねぇ!!ねぇ!!!」けたたましいピコの声。
う…うるさい…少しぐらい休ませてー…
「見つけたよ!銀色蝶!」
小川の向こう側、銀色と言うより鏡のように輝く羽を持つ蝶が…
「あ…」レズリーも気がついたようだ…
「ロリィ!何やってんだ!!」
「え?」
「あ〜お兄ちゃんとお姉ちゃんだ!やっほ〜」
なんで?なんでこんな所に?
「見て!見て!あの蝶々、ロリィが捕まえるからね!」
「よせ!」レズリーの声を無視して、銀色蝶に近づくロリィ、その先には…
「えいっ」虫取りアミは見事に銀色蝶へ…グラッ…ロリィが傾いたかと思うと…
ドボーン!!
川の中へ落ちた?
「くそっ!」あわてて川へと飛び込むが…
―体が重い?―
必死に水をかき、先へ進もうとするが体が言うことを聞かない。
俺には助けられないのか?
―『ただ愛した人の仇を討つのみ!』―
結局…傭兵には人殺ししかできないのか?
「あのバカ、何やってんだ!」
「…お姉ちゃん!」
ロリィの声を聞いたレズリーもフラフラと川のほうへ。
「ああっ!ダメだよっ」だがピコの声は聞こえない、俺以外には…
二人ともロリィのコトだけを考えて、自分が何をやっているのか、わからなくなっていた。
「一人でこんな所へ来ちゃイケナイって、いつも言ってるだろう?」
「だって…だって…」
「レズリーも人のこと言えないぞぉ…以外と浅かったから良かったけど」
「鎧を着たまま飛び込むヤツよりはマシだ…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「そんなにお金がほしかったのかい?…言ってくれればコノお兄ちゃんが…」
…おい…
「筆…エアブラシって筆をお姉ちゃんにプレゼントしようと思って」
照れながら答えるロリィ。
「ロリィ、おまえ!」
(…俺達はお呼びじゃなかったらしいな)
「うん、でも良かったじゃない」
「ごめんなさい…ロリィのせいで、せっかく描いた絵がグチャグチャに」
「あ?…気にするな、絵なんてまた描けばいい。ロリィの代わりは無いから…な!」
ロリィのほうへと向いていた目を今度は俺へと向ける。
「無くなった物はまた作ればいい!命まではどうしようもないけどな…。
熊から私を守ったのはあんたなんだ…何も無いなんて言うなよ」
俺は彼女たちに何かしてやれたのか?
「タダおぼれていただけなんだから…ホメすぎだよ」
(悪かったな!)
「そーだ!今度はロリィをモデルに描くよ」
「本当?お姉ちゃん!」
「この前…ひどいこと言っちゃったお詫びに」
「うん!」
―あれからしばらくして、俺はロリィにつれられて何かの展示会へ―
『戦場』『勝利』『勇気』『強さ』色々な題名の絵が並ぶ。
敵を一刀のもとに両断する戦士。勝利の凱旋に酔いしれる英雄。
死体の山の中、討ち取った首をかかげて勝ち名乗りを上げる騎士。
戦意を向上させるような絵が並ぶ中…
一枚だけ可愛らしい少女の笑顔があった、題名は『何よりも大切なモノ』。
その絵には戦争で無くしてしまう物、戦争をしてでも守りたい物が描かれていた。
そして、俺が守りたいと思える物…俺の誇りがそこにあるような気がした。
オマケ
「『くま』ってだれが飼っていたのかな?」
「さあ…?俺にわかるかよ」
「くま…どこ?始めるわよ」
ガァ…
「あら、見慣れないケガがふえてるのね…? そう、一人で訓練していたの?フフッ…偉いわ…」