「帰ってきたか…この国に」
久しぶりに見るこの国は一見、何も変わっていないようにおもえる。
だがよく見ると港の風景には使われなくなった倉庫が目立ち、活気もない。
「あれから十五年か、もうそんなにたったのか」
ドルファンから出てから十五年、私は常に戦場にいた。あるときは革命軍に雇われ、あるときは暴君に雇われ、変わったところでは怪物退治だ。あれが何だったのかいまだにわからない。わたしはそのすべてで最高の働きをした、私の名声がそれを裏付けてくれるだろう、いや悪名といったほうがいいかもしれない。夜叉、血まみれ桧垣、剣鬼、さんざんな呼ばれ方だ。
「だがそれも終わりだな」
私ももう四十前、身体もまだまだ衰えてはいないがそろそろ潮時だろう。故国から仕官の誘いがきている。陸軍少将の地位を約束された。破格の扱いだ。しかしそれで満足するつもりはない。そのために必要なのは名家の妻と…。
「聖騎士の名を捨てることだな」
この十五年でドルファンは大きく国力を落とし評判も下落した。当然あの外国人排斥法が原因だ。
商人は寄り付かず、試行の際に大量の人間が他国に流れ込んだ。プリシラ王女が傭兵の一人と駆け落ちし傍系の暗君ジョージ王の即位がそれに拍車をかけた。
得た時から名ばかりであった聖騎士の称号はその名すら価値を失ったのである。
ふとある少女の面影が胸をよぎる、私よりあの男を選んだ少女の…。
「はなして!はなしてください!」
そうこんなふうにあの少女と…ん!
「姉さんからてをはなせ!」
いかにもごろつきという風体の三人組が一人の少女を強引に連れ去ろうとしている。
「ふん、痛い目をみたくなきゃすっこんでなぼっちゃん」
ごろつきのひとりの大男が怒鳴りたてる。少女を押さえつけるふたりは小柄で二人ともそっくりだ。
双子だろうか? 迷う必要はない、静かに双子の背後に回り込み少女を押さえつけている腕を叩き折る!
「うぎゃああああああああ!」
腕を押さえてのたうちまわる双子に目もくれず、大男に突進する。
「なんだてめえは!」
大男は剣を抜こうとするが、その手をつかみ握り潰す!
「ぎゅぎょおお!」
泡を吹き悶絶する大男は放っておき、
「だいじょうぶかな?」
「こ、ここまですることないだろ!」
「そうかね?刀をつかわなかっただけ彼らには感謝してもらいたいぐらいだが」
だが少女は気絶してしまったようだ。ううむ刺激が強すぎたか。
そこではじめて私は、少女をじっくりとみた、十五、六だろうか。硬質だが繊細そうな美貌をもった少女だどこかで見たような気がする。着ている服はどこかの制服だろうか?
「姉さん、しっかり!」
少女と同じ赤みに強い茶色の髪と青い瞳の小柄な少年、大きな目と小さなあごのラインが小動物のような愛らしさをかもし出しているが、その瞳には強い意志がうかがえる。
まさか?
「きみはもしかして、ジョアンの?」
そしてソフィアの?
「ボクはリイノ・エリータス、ジョアンは父です」
そして彼は母親譲りの大きな瞳でわたしをにらみつけた。
後書き
はじめまして黒羽京也です。
他の人と毛色が違うものをと書いてみたら主人公が四十手前になってしまいました。しかも原作キャラは主人公だけ。
なんだかみつめてナイトである必要があるのか、って感じの話になってしましましたが、どうしても書いてみたかったんですよ。
私は初プレイ時、次プレイ時と二回とも何の情報もなしにやり二回ともソフィア狙いで失敗しました。
それで二回続けてジョアンに勝ち誇られました。
こんな経験したら性格歪むよなと思いついたのがこの主人公桧垣雹磨です。
正直、不適当と判断されても仕方が無い作品ですが、広い心で許してくだされば幸いです。