第1話


「以上が、今回の作戦報告であります」

スイーズランド軍司令部の一室で、俺、リョウ・アサクラは淡々と報告をしていた。

聖騎士と呼ばれるまで登りつめたドルファンを出国して三年余り、俺はいろいろあってここスイーズランドで外国人傭兵部隊の指揮官として暮らしている。その間にもここ南欧の状勢は激しく移り変わり、今回も突如勃発したゲルタニアとプロキアの戦争にゲルタニア側として従軍した帰りだった。

 

ゲルタニア・プロキア戦争、まずはこの戦いの因果から説明せねばなるまい。

三年前トルキア地方の2つの国家で成立した「外国人排斥法」、この法がプロローグだった。この法により国を追われた者はかなりの数に上る。中には俺や他の何人かの同僚のように他国で新しく暮らしている者もいるが、それができない人間が難民として隣国に大量に流れ込んだのだ。そしてそのしわ寄せを最も多く受けたのが、その当事国であるゲルタニアとドルファン双方に国境を接するプロキアであった。

他国の数倍にもなる万単位での難民の流入、これにより社会不安が急速に蔓延したプロキアでは各地でデモが頻発、対応に苦慮した当時の政府は退陣を余儀なくされた。そして新しい政府は難民問題の早期解決を約束し、隣国ゲルタニアとドルファンに対して武力の行使をもちらつかせた徹底的な批判を展開。その強硬外交の終着点としての戦争であった。

 

「ご苦労だった、アサクラ大佐。ゲルタニア政府も君の活躍を大いに喜んでいたよ。2〜3日後に今後の方針を決める会議を開く予定だが、それまでは休暇とする、ゆっくり休んでくれたまえ」

彼は南欧方面の総司令官であるフィリオ・ワイズマン中将、つまり今現在の直属の上司に当たる。“よく切れる”という理由で「カミソリ」とあだ名される男だ。「カミナリ」でないだけ、かなりありがたい。実際そっちの“キレる”だったら中間管理職としてはかなりつらいモノがある。

「ありがとうございます。では、今日は失礼いたします」

俺はそう言って、居並ぶほかの将軍達にも挨拶をしてから部屋を出た。気付かなかったが、外はもう夜の帳が下りていた。

「…寒いな」

外に出て俺はつぶやいた。ドルファンに比べればかなり北に位置するスイーズの夜は、3月になってもまだ少し寒い。馬車が賢明と、俺は停車場へ向かおうとした。

「リョウ」

聞きなれた声が、俺を呼び止めた。声の主は、ライズ・ハイマー。俺がドルファンを出るとき偶然同じ船に乗船しており、まだその後の身の振り方を考えていなかった俺にスイーズでの仕官を斡旋してくれた、いわば恩人であった。彼女もまたスイーズランドで仕官し、現在は諜報部にて何人かのエージェントを束ねている。

「ライズか、君も帰るのか?」

「ええ。…途中まで一緒に歩きましょ」

彼女はそう言って俺の隣に並んだ。俺もうなずき、並んで歩き出した。馬車で帰れないのは残念だが、まあ仕方ない。こうして歩きながら情報を交換するのも、また重要な日課だった。

「今回の戦いはどうだったの?」

珍しく、ライズが先に話を振ってくる。

「俺は勝ったよ。敵の機動力を奪うために河岸に布陣したのが吉と出た。でも、全体としてはゲルタニアの完敗だった。国境付近のゲルタニア側軍事基地4つのうち、3つが2週間で潰されたんだからな」

事実、力の差は歴然としていた。プロキア軍の機動力はゲルタニアの予想を遥かに上回っていたのだ。到着はまだだろうと高をくくっていたゲルタニア軍は、ろくな準備もできないまま次々と敗走していった。俺の隊が何とかしのいだため全滅は避けられたが、圧倒的な力を見せ付けられたゲルタニア政府は早々と講和条約の締結を提案、それにともない俺の仕事も終わった。

「ゲルタニアは排斥法を緩めるそうよ。けど、プロキアの要求を呑んだ上でだから事実上あの法律は骨抜きになるでしょうね。例えばトルキア人種のみという条項をはずすとか…。まあ、何にせよそのうち自然に消滅するでしょうけど」

ライズは戦争や政治が絡むと、通常の3倍は多弁になる。伊達で赤を着ているわけではないと、俺はいつも妙に感心していた。

「これで次のターゲットはドルファンね。…心配?」

「そうだな…」

生返事をしながら俺は、あの日、3年経ってもなお色褪せることのないあの日のことに思いを馳せた…。


キャラクタ紹介

 

東洋人傭兵

名前「朝倉 亮」、聖騎士。

本名は別に存在するが長いため省略してこれで通している。故郷で最強と称された剣客集団の出身で、そこで鍛え上げた剣術もかなりのものだが、どちらかといえば指揮官タイプの男。ゼールビスまでは倒しているが、嵐の中の特攻で破滅のヴォルフガリオに敗れたという設定。当然サリシュアンとの決闘もなくライズエンドも満たしていない。一応プリシラエンドのつもりです。

 

ライズ・ハイマー

ヴァルファヴァラハリアン壊滅後1人スイーズランドにもどるが、そのとき偶然亮と同じ船に乗船しており彼に仕官を勧める。亮に対する好感度は爆弾テロイベントが起きるギリギリくらい。現在は「サリシュアン」のコードネームで活動するスイーズランドきってのエージェント。


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