ああ、聞こえてるぜ、汽笛の音。
見送りに行けなくてすまない。自分でもあきれるくらいシケたツラしてるんだ。こんな顔、おまえには見せられないよ。
さびしい。どうしようもなく、さびしいんだ。
たぶんもう、一生会えないんだろうな。おまえみたいなヤツとは、もう一生巡り会えないんだろうな。
朝からこんなことばかり考えてるよ。ジーン様ともあろう者が、女々しくなっちまったもんだ、情けない。
正直に言おう。おまえのこと……好きなのかなって、思ったことも、あるんだぜ。ほんの少しだけど……今も少し、そんなふうに思う。
でもたぶん、おまえとは友情だけで終わるんだろう。それも悪くないって思うから、今まで何も言わなかった。おまえ、気づいちゃいなかったよな? いや、責めたいわけじゃない。それでいいんだよな、オレたちはさ。
今? 仕事してるよ。ほかにすることもないしな。
おっと、見覚えのあるところに来たぞ。おまえ、忘れてないだろうな?
初めて会ったあの場所だよ。あのときおまえを轢き殺してたら、今ごろこんな気持ちにならなかったのかもな。あはは、冗談だってば。
そういえば、あそこのレストランにはよく二人で食事に行ったな。あそこの酒場では二人してブラックジャックで大損して、無一文で帰るハメになったっけ。そうそう、この近くで拾った子猫がおまえの知り合いだっていうガキの猫で……
ああ、だめだ。どこを見てもおまえを思い出しちまう。
どうしたっていうんだ、いったいオレは。こんなことならいっそのこと、想いを伝えておけば良かったんだろうか。
でも、できなかったんだ。
いや、オレ、マジで言おうとしたこと、あるんだぜ?
抱いてくれ……って。
でも言おうと思ったおまえの横に……彼女がいたんだ。
今、客を降ろした。
あっちで呼んでるヤツがいるが、今日は店じまいだな。とても客を拾える気分じゃない。
彼女のことを知ったとき、やっぱりちょっと、ショックだったよ。でも、それについちゃ、もう吹っ切れたんだ。だってその後も、オレ、おまえと二人きりでよく飲みに行ったし、別におかしくなんかなかったろ?
おまえとは、いい相棒だと思うんだ。
それだけだって、かまわないと思うんだ。
だから今こんなにさびしいのは、たぶん相棒を失ったからなんだ。
好きなヤツとか、そういう軽いものを失った辛さじゃない。それよりもっと、なんかこう、体の一部をもぎ取られたような苦しさなんだ。
少し、人のいないところに行くよ。
ああ、2度目の汽笛が鳴った。もう、出港だろ。
おまえの横にはたぶん、彼女がいるんだろうな。目に浮かぶよ。
体に気をつけてな。傭兵は戦争が仕事だろうが、下手なケガなんかするんじゃねえぞ。手柄なんて二の次にしておけよ。死ぬんじゃ、ねえぞ。
おまえの無事と幸せを祈ってる人間が、ここにもいるということを忘れるな。
いつだって、おまえのことを……想ってる。
よし、ここなら誰もこないな。
笑うんじゃねえぞ。
オレ……少し、泣くよ。