ヤング、聞こえる? あなたがかわいがっていたあの子が、旅立っていくわ。
見送りに行くべきだったと思う? いいえ、行ってはいけないのよ。そう思ったから、あなたのところへ来たの。
潮の香りが心地いいわ。あの子も今、同じ風を感じているのかしら。
そして、その隣にはたぶん、かわいい彼女がいるのね。
ヤング、あなたのお墓参りに来ると、必ずあの子たちと鉢合わせたのよ。
二人で肩を並べて、他愛ないおしゃべりをしながら歩いているの。それは仲むつまじいのよ。彼女はちょっと恥ずかしそうに。あの子は誇らしげに自信に満ちて。
なんだか神様が私にだけ意地悪しているような気がしたわ。
うふふ、年甲斐もなく、嫉妬していたみたい。
あなたは怒ったりしないわね。一緒に笑って、失恋した私を慰めてくれるわね。
だって、そもそもあなたが死んでしまったりするからいけないのよ。
出港を知らせる汽笛が鳴ってる。ヤング、聞こえる? あの子が旅立っていく。
すばらしい手柄をたてたのよ。今ドルファンがこうして平和なのも、すべてあの子のおかげ。ヤング、あなたがかわいがっていたあの子は、あなたの想像以上にすばらしい青年だったわ。
それとも、あなたにはすべてわかっていたのかしら?
わかっていたから、なんのためらいも気後れもなく、無茶な一騎討ちに臨んでいったのかしら? だとしたら、あなたはとんでもない確信犯よ。
確かに私は立ち直ったわ。
あなたを失ってすべてを失ったと思いこんでいたけど、1年もたたずに別の男に恋をしたわ。そして、ものの見事に玉砕。
不思議ね。気持ちはむしろ、さわやかなの。私もようやく大人になれたのかしら。
たぶんまた、新しい恋ができると思うわ。私だってまだまだ、オバサンなんて年じゃないんだもの。
うふふ、こう見えても、プロポーズしてくれた人だっているんだから。断っちゃったけど。
残念ながら、あなたへの思いを引きずってプロポーズを断ったわけじゃないわ。
引きずっていたのはむしろ、あの子への想いかしら?
怒らないでね、ヤング。だって、あなたが悪いのよ。
私を置いて、こんなに早く、逝ってしまったりするから……。
でも――
時々考えるの。
もしあなたが生きていたらあの子に惹かれたりしなかったと、言いきれるのかしら。
もしあなたが生きていたら……。私は、想像もできない地獄に堕ちていたかもしれない。
汽笛が鳴ってる。でもあの汽笛は別の船ね。もうあの子は行ってしまった。
私も行かなきゃ。新しい生活をはじめに。新しい恋を見つけに。
さよなら、ヤング。また来るわ。今度は新しい恋人をつれて。
過去は過去。未来は未来。
流れる時のなかで、たとえわずかな時間だったとはいえ、あなたと出会えたことも、あの子と出会えたことも、神に感謝しようと思うの。
人は私を幸薄い女だと思うかもしれないけど、とんでもないわ。私は幸せよ。
短い人の一生の中で、あなたやあの子のようなすばらしい男性にめぐり会えたんだもの。
きっと私、男運はいいのよ。だから次もきっといい出会いが待ってる。
そう思うから、私、行くわ。
思い出に浸ることはあっても、もう、振りかえらない。
そんな風に、颯爽と生きていくの。あなたやあの子がその生きざまで、教えてくれたように。
あなたも祈ってね、私の幸せを。そして私と一緒に祈ってね。あの子の幸せを。