船はゆっくりと次の港を目指し、進んでいた。
男は船の手摺に寄り掛かりながら海を見ていた。
彼はただ一人、黙って闇と同化しうごめいているような、黒い夜の海を見つめていた。
「あの国は、いつもの夜を迎えてるんだろうな」
ドルファン王国。あの国で得た物は何だったのだろうか、ふと男は思った。
戦争では、戦果を上げたことによって名を上げることはできた。
そして………。
彼の手の中には、見るからに安物の、おもちゃのような首飾りが絡み付くように下がっている。
かつて彼が、愛する人に贈ったものだ。
そして彼女は、彼の手元に形見を遺したまま、透き通るように消えてしまった。
あの夜、天の気まぐれが降らせた白い淡雪のように。
船が低く、霧笛を響かせる。
もう、出港してからどれだけの時間が流れただろうか。
「ドルファン王国……か」
声に出してつぶやいた。
彼女と出会った国。そして、彼女を失った国。
不意に彼はネックレスを持った右手を振りかぶり、海に向かって勢いよく振り下ろそうとして……思いとどまったように手をおろした。
霧笛が、むせび泣くように深い夜空へ吸い込まれていく。月もない、闇夜だった。
ふと、誰かがささやいた気がして、彼は振り向いた。
ふわりとほほをなでる、やさしい風。体いっぱいに、さわやかな潮の香りが広がる……。
……幸せに……。
だがやはり、人気のない甲板と黒々と波打つ広い海原が、そこにあるだけだ。
「らしくないな」
そうつぶやき、彼は船室へと戻っていった。
後書き
「らしくない」のはヒロインたちのほうだ! と思われた方、そのとーりです。
かなり、自己流入りまくった人物設定です。ソフィアやテディーなんて別人です。
この調子で全員分書く勇気は、私にはありません。だからご贔屓キャラだけ。
あのSSの企画見て、どうしても参加したくて書いちゃいました。
企画された方の意図とは、だいぶ毛色の違うものになっちゃったようですが…。
重ね重ね、もうしわけありません。てなわけで、この辺で退散します〜。
DOTE