早起きの雀たちに急かされて、佳乃は目覚し時計が鳴る前に目を覚ました。
カーテン越しの日差しが、今日も暑くなることを予感させる。そんな爽やかっぽいシチュエイションとは裏腹に、寝覚めはあまり良くなかった。
ポテトが、「放送コード? なにそれ?」といわんばかりの暗黒舞踏を踊っている夢。
しかも2匹。
ぴこぴこ言う声が、なぜか野太い。
「びごーびごー」
なぜだか逃げられない佳乃の目の前で、1匹が爆ぜた。それはもう木っ端微塵に。
間髪を入れずもう1匹が分裂。
そしてまた2匹で暗黒舞踏。
以下エンドレス。さっぱり訳わからなかった。
でもまあ夢だし。起き上がって、大きく伸びをする。眠っていた体が急速に目覚めていく。
半ば無意識に、右手のバンダナに目をやった。……。
目をやろうとした。
…………。
あれ? 寝ぼけてるのかな?
………………。
バンダナが、ない。
……………………。
顔から血の気がひいた。
心臓はばくばくいっている。
両腕をあげたその体勢のまま、ベッドから落ちた。どどどどうしよう!?
コント55号だよぉっ!佳乃大混乱。
あわてて起きあがる。
がさがさとベッドの上をひっくりかえすも発見できず。
すでに半泣き。もしかして。
もしかして、わたしが大人になったから?
大人になって、魔法が使えるようになったから?
それは、わたしが恋をしたから?乙女ちっくな方向へ現実逃避。
……失敗。ごみ箱をぶちまけて中をあさるも発見できず。
やけくそ気味に本棚を物色するも発見できず。
机の引き出しを片っ端から開けて、
がこっ上に置いてあった犬の置物が頭部に直撃。
前のめりになったひょうしに椅子のかどにおでこを痛打。
とどめとばかりに足の小指で机をシュート。セリエAも真っ青。しばらく声もでず。
バンダナが、無い。
体の一部を失ったような衝撃。
もう、何も考えられなかった。その場にうずくまってしまう。
ばさり。
突然、視界に見慣れた黄色が飛び込んできた。
顔を上げる。黄色も一緒に動く。まだ痛む自分の頭に手をあててみる。
そこに、あった。
酔っ払ったサラリーマン風に。
バカみたいな結末だった。
佳乃は笑おうとして、
なぜだか泣いてしまった。
……でもなんで?
翌日、またもや佳乃の右手にバンダナはなかった。
頭に手をやっても今回は発見できず。
昨日の惨劇再び。今度は足に巻いてあった。