The Secret of Boogiepop
月の宮殿
気が付くと縛られているというのは、あまり気分のいいものではない。
これまでの経緯がまったくつかめていない藤花には、ここがどこであるのかさえまったくわからなかった。
ぼうっとした頭で周囲を見渡すと、この馬鹿馬鹿しく広い部屋に自分以外の人間が居るのに気づいた。
「おや」
男が近づいてくる。年の頃は30代半ば、といったところか。しかし、外見よりもさらに若々しい仕草と、同時に外見よりもずっと、落ち着いた雰囲気のする、不思議な男だった。
「お目覚めですか?お姫様」
にやりと笑って、藤花の前に立つ。
「誰?」
「私は寺月恭一朗。MCEという会社は知っているかな?あそこの会長をやっている」
「会長さん……」
ムーンコミュニケーションズ・エンタープライゼス、通称MCE。世界でもトップクラスの複合企業だ。そこの会長と言えば、藤花でも名前を聞いたことがあった。確か、年齢は50過ぎだった筈だが……
「その会長さんが、どうしてここに居るんですか?」
「仕事だよ」
恭一朗はそう言うと、笑みを深くした。野心的な、という表現がぴったりな、そんな笑み。
「今までにない大事業でね。世界を征服しようと思っている」
藤花は耳を疑った。そんなことを真顔で言う人がいたなんて。同時に、自分を捕らえたのが彼なのだと理解した。
「な、なんでそんなことを……。それに、私をどうするつもりですか!?」
「1つめの質問は、私が人類はより優れた者によって支配されるべきだと思っているからだ。2つめの質問は、世界を征服するために君の力が必要だからさ。ブギーポップ君」
「え……?」
何を言われているのか、藤花には理解できなかった。そう、たしか謎の三人組もそんなことを言っていた。
「……ブギーポップって、何なんですか?」
「知らないとは言わせないぜ。なにしろ、君自身のことなんだから」
「ほんとに知らないんです!」
恭一朗はふむ、とため息を一つもらすと、指を鳴らした。同時に部屋のドアが開き、外から人が入ってくる。
「織機さんっ」
それは、二人の男に抑えつけられている綺だった。さるぐつわをはめられ、声を出すことが出来ないらしい。
「君がブギーポップであることを認めなければ彼女を殺す
」
何でもないことのように言って、恭一朗は胸のポケットから小型の拳銃を取り出した。
「!!」
綺の目が見開かれる。
「やめてっ 本当に知らないんです!」
軽い足取りで綺に近づき、その額に銃口を突き付ける。
「やめてください、私、本当に……」
ゆっくりと引き金を引いていく。
「!!」
かちり、と音がしてそれだけだった。綺は気を失ってしまっている。
「どうやら本当に知らないらしいな。まぁ、いい。時間はまだあるんだ」
そう言って銃をポケットにしまうと、恭一朗は藤花に向き直る。きっ、と睨みつける藤花を悠然と見返して、彼は大仰に礼をした。
「あらためてようこそお姫様。ここは我が月の宮殿、ムーンテンプル。やがて全ての人間を支配することになる神の座だ」
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