「かんぱーい!」凛の音頭に、次々とグラスが掲げられる。
「みんな、今日は食べ放題で飲み放題だから、遠慮なくどんどん注文しちゃって。費用は全部金ぴか持ち」
「何ぃーッ!?」
そんな事これっぽっちも聞いていなかったギルガメッシュが吠える。
「では、私は麻──」
よってたかってボコボコにされる言峰。
「言峰は置いておいて、いきなり何を言う雑種!」
「いいじゃないのよー、散々迷惑かけてきたんだからこれくらい奢ってくれてもバチは当たんないでしょ」
「ぐぬぬ……、アーチャー、貴様、よくこんなのの下でやっていけたな」
「フッ 何を言う」
カランとグラスの氷が音を立てた。アーチャーは余裕たっぷりの表情だ。
「何度胃に穴があくかとおぶぅっ!?」
凛にぶっとばされた。
「ふん、何よ。アンタなんかこっちから願い下げだわ。世間じゃ弓凛なんて言われてるけど、アンタがその気なら、わたしはランサーとくっついてやるんだから」
あてつけで、横で寿司を食っていたランサーに勢い抱きついた。
ふふん、と慌てるアーチャーを見てやろうと思ったのだが。
「む……私には言わなかったくせに、彼にだけはあっさり好きとか言ってると思っていたが、やはりそうだったのか」
妙に納得してやがるし。
「ん? ああ、嬢ちゃんなら大歓迎だ。ま、よろしく頼むわ」
ランサーはランサーで大満足っぽい。
「え、あれ?」
「何だ。俺じゃ不満か?」
「いや、そーいう訳じゃないんだけど……」
なら問題ないと、野趣溢れる笑顔で頭を撫でられた。こういう攻撃に弱い年上趣味(ファザコン)の凛は赤くなってうつむいてしまう。
「という訳で、凛に愛想を尽かされた私はセイバーとくっつく」
「なっ!?」
いきなり横に陣取られて、慌てるセイバー。
「何だと。セイバーは我のものだ」
逆側にはギルガメッシュ。もてもてである。
「ま、待ってください。私にはシロウが……」
「問題ない。私もエミヤだ」
「あんな、お前のルートでも最終的にはあそこの横暴女とくっつきそうな奴の事など放っておけ」
「シロウ、助けてください……って、なんで主人公なのに給仕をやっているのですか!?」
士郎は、コペンハーゲンのエプロン姿で追加注文のビールを持って来た所だった。
「いや、まぁ俺、ここのバイトだから」
手早く空いた皿を片付けていく。
「エミヤん、おバカだからねー」
「でも助かるなー。この店にこんなにお客が来たの初めてだし」
店長の言うとおり、大盛況だった。規格外のもいるし。
バーサーカーは無言で胡座をかいて座敷に座っている。頭は天井ギリギリだ。そこだけ畳がめり込んでいて、たぶん交換が必要になると思う。そもそも、どうやって中に入ったかは秘密。
その胡座にイリヤがちょこんと座って、ハンバーグをもくもく食べている。士郎のお手製で、イリヤも大満足。
「お兄ちゃーん、オレンジジュース欲しいー」
「あー、ちょっと待ってろー」
だーっとイリヤの相手をするのに走って行く士郎。セイバーおいてけぼりである。
「という訳で、セイバーは私と」
「いや我と」
「いっそ3人で」
「おお、それは妙案だ」
状況はまったく打開されていなかった。「いいなぁ」
ぽつりと桜がつぶやく。その肩を、がしっとライダーが掴んだ。
「サクラは、私が」
「ら、ライダー!?」
「百合か?」
「百合だ」
周囲は大喜び。ライダー受けだ、きっとそうだ。桜イダーだ。憶測が飛び交う。
「よ、酔っ払ってませんか、ライダー」
「酔ってましぇん」
顔が真っ赤だった。そのままコテンと横になってすやすやと寝息を立ててしまう。つくづく美味しい所を持っていくライダー。
「女同士では生産性がないな。では、私が」
いきなり名乗りをあげる言峰。それはそれで桜も困る。
「子供は女の子2人がいい。名前は杏里と真由で」
微妙に諦めきれていなかったらしい。
「助けてお爺さまー!?」
「ホホ、聞いたかアサシン! 助けてくださいお爺さま、と! よいぞよいぞ、その哀願、十一年前に還るようじゃ!」
「魔術師殿、微妙にセリフが違うが」
まぁ、お爺さまなんてこんなもんである。「んもう、あっちは騒がしいわね。あ、宗一郎様、どうぞ」
「ああ」
キャスターに注がれた熱燗を、く、と飲み干す。先ほどからこれの繰り返しだった。二人だけの幸せ空間である。それを肴に、一人バーカウンターで飲む佐々木小次郎。陣羽織にカクテル。微妙な取り合わせだった。
カラランと、入り口につけられていたベルが、新しい来客を告げる。
「遅いぞ、爺さん」
「お父様! お母様!」
バーサーカーの膝から飛び降りたイリヤが、入ってきた来客──切嗣に抱きついた。胸に抱いた娘の髪を、切嗣がやわらかく撫でる。その横には、冬の聖女と謳われたユスティーツァの姿があった。
「どうしようかと思ったんだけどね。まぁ、大事な娘と息子のお願いだから」
「特別出演、と言ったところか」
イリヤを肩車した切嗣が微笑んだ。ぼさぼさの髪が、イリヤがしがみついた所為でぐちゃぐちゃになる。
「で、とりあえず」
切嗣はびしぃっとバーサーカーを指さし──
「君に娘はやれないな!」
「■■■■■■■■ー!?」
うろたえるバーサーカー。レア物だ。
「ひっどーい! お父様、わたしとバーサーカーは相思相愛なんだからー!」
「いや、でもね、年の差とかね」
子煩悩。「あ、あのー。衛宮君のお父さんまでいらしたって事は、家の父は……」
そわそわしながら凛が訪ねる。
「ああ、途中で落ち合ったんだけど──」
切嗣が入り口の外を指差した。
「そこで、バナナの皮に」
「そんなベタベタなー!?」
凛が走って行く。その後をアーチャーを始めとする有志が続いていった。
打ち上げはまだ続くようだが、中継はここで終わり。
あとはまぁ、ごゆっくり。