「あ、これなんかかわいいんじゃない?」
今日は朝から遠坂に連れまわされている。その、デートという奴だ。
「む、そうでしょうか。視界が妨げられるのですが」
まぁ、一緒にセイバーも付いて来てたりするで、厳密に言うと違うのかもしれないが。両手に花と言えば聞こえがいいが、2人ともとびきりかわいい女の子で、俺はデートなんてこれが初めてだったりする訳で、なんというか、生きた心地がしない。
今は遠坂の思いつきで眼鏡屋に立ち寄り、セイバーに伊達眼鏡をつけて遊んでいる所だった。俺もさっきとばっちりで伊達眼鏡を付けさせられて爆笑された。今は店の外でふてくされ中。
「ぷぴ」
突然、遠坂が変な音を出した。
「リン? どうかしたのですか?」
「ん、どうかしたかセイバー」
「いえ、リンが突然──」
そう言って振り返ったセイバーに事情を聞こうとして、
「ぴょ」
俺も変な音を出した。慌てて顔を逸らす。ダメだ。まともに見る事が出来ない。
「? シロウ?」鼻眼鏡セイバー、髭付。
やばい、破壊力でかすぎ。遠坂を見れば、なんかうずくまって痙攣している。相当ツボにはまったらしい。
「2人ともどうしたのですか? 私の顔に何か?」
何かも何も、その眼鏡はまずいだろ。爆笑したい所だがセイバーは拗ねると後がとても恐いので、必死で彼女の顔を見ないように鏡を差し出す。恥ずかしがって怒るだろうが、それは遠坂にであって俺にではない。自業自得だ。迷わず成仏しろ、遠坂。
セイバーは俺から鏡を受け取り、その中を覗き込んだ。当然鼻眼鏡を装備した自分の顔が見えるわけで。
「こ、これは……!」
言うなり硬直した。数秒の後、セイバーは少しだけ頬を赤らめる。
「素晴らしい」
「「は!?」」
ハモる俺と遠坂。
本人はそんな事知ったこっちゃなく。
「いえ……私はこの通り騎士ですが女の身であったので、こういう、男性らしい髭に憧れていたのです。それが、こんな形で叶うなんて……」
感極まったのか、そっと目じりを拭うセイバー。その仕草は年相応の女の子らしくて、とても可愛かったのだが鼻眼鏡邪魔。しかもそれが理由。
「あの、シロウ。こんな事をお願いするのは大変心苦しいのですが、できたらこれを買ってはいただけないでしょうか?」
「あ、ああ。セイバーが欲しいって言うなら」
なんて、戦闘にまったく関係ない所でセイバーにお願いされたのなんて初めてだったから、つい頷いてしまった。それが、そもそもの間違い。
「──っ! ──っ!」
遠坂以上にクリーンヒットだったらしいキャスターには声もなく爆笑され。
「…………………………がんばれよ」
ランサーには生温かい目で見られながら肩を叩かれ。
「セイバーに何付けとるんじゃー!?」
アーチャーにはガチで殴られ(俺も何付けてんだと問いたかった)。
「マジ殺す雑種」
ギルガメッシュはマジギレした。
で。
「おはようございます、シロウ」
「……ああ、おはよう」
全てが終わった後も、セイバー鼻眼鏡標準装備。過去に戻って自分を殺したいと願ったアーチャーの気持ちがなんとなく理解できる今日この頃。
かなり本気で英雄目指したいと思う。