「ふむ、ふむ」
昼食の準備をして居間に戻ると、何やらセイバーが熱心にテレビを観ていた。
セイバーが戦闘と食い物以外に興味を持つなんて珍しい。
「……シロウ、今なにか私に対してひどく無礼な感想を抱きませんでしたか?」
「いや、別に?」
勘の鋭い奴だ。
食器を置きながら、テレビを覗き込む。これで嫁姑物とかのドラマだったらセイバーの事をおばさん趣味と断定する。
……濡れ場とかだったらどうしよう。
「あれれ? セイバーちゃんってゴルフ好きなの?」
昼食の匂いにつられてやってきた藤ねぇが、意外そうに感想を口にした。
テレビでは、プロゴルフの中継をやっていた。セイバーの手元に新聞が置いてある事を見ると、偶然という訳でもなさそうだ。
「いえ……好きというか、昔同じような事をして遊んだのを思い出しまして」
「ああ、あれってゴルフの事だったのか」
そういえば前に学校を案内していた時にそんな事を言ってたっけ。確かに、ゴルフだったらグラウンドじゃ少し手狭だ。剣をつかって石ころだかを打っているセイバーの姿を想像する。微笑ましい情景だ。
……聖剣も、すごい使われ方をしたもんだな。
「あ、じゃあそういう事ならちょっと待ってて」
言うなり藤ねぇは昼食をがーっ とかっ込むと、てってけてってってーと家を飛び出し。「お待たせー」
てってけてってってーと帰って来た。手には大きな荷物を抱えている。
「じゃーん、ゴルフ練習セット〜」
どこぞのネコ型ロボの如きセリフと共に取り出したのは、ゴルフクラブと紐の付いたボールだった。どうやら、藤ねぇの親父さんの物らしい。
「これからいきなりゴルフ場行ってもいいんだけど、ちょっとこれで遊んでみない?」
「これは……感謝します、タイガ」
胸に手をあて、感謝の言葉を口にするセイバーに、えへへと笑う藤ねぇ。なんだかんだと言って面倒見のいい奴だ。
そうして、みんなで連れ立って庭に出る。セイバーが、見よう見まねでクラブを握った。どう見てもあれは剣の握り方だと思うが、まぁ遊びだし問題ない。
「チャーシュー麺よ、チャーシュー麺」
どこかのマンガから拾ってきた知識で、藤ねぇが無責任な指導をしている。それに頷くと、セイバーは少し緊張した面持ちでクラブを振りかぶり、打った。瞬間砕け散る縁側の窓。
「………………」
「………………」
「………………」
当然、こういう事態は想定していた。想定していたから家とは平行方向に打ったはずだったのだが、まさか真横に飛ぶとは。
「もっ 申し訳ありません、シロウ!」
「気にしない気にしない。士郎なら、窓なんてすぐ直せるんだから」
く、人ん家だと思って。だが、元はセイバーに喜んでもらうために始めた事だし、こんな事で主旨を曲げるわけにはいかない。内心の動揺を隠しつつ、うんうんと鷹揚に頷いた。
「では──、今度こそ」
戦闘の時にも似た緊張感で、セイバーがグラブを握りなおした。
「がんばってー」
気にするなと言ったわりには随分と遠くに逃げている藤ねぇ。俺は逃げない。男の子だから逃げられない。ちょっと膝が震えていが武者震いだ、気にするな。セイバーが、打つ。
ぶち。
「にゃ!?」一瞬の出来事だった。セイバーが打ち、その威力で紐が切れ、ボールが藤ねぇの顔面に炸裂した。いくらゴムボールとはいえ、セイバーの一撃である。スローモーに倒れる藤ねぇ。
「これは……」
セイバーが、神妙な面持ちでグラブを握った自分の手を見た。「──使える」
「使うな!?」