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fateのネタバレSSです。エンディングフルコンプしてからご覧ください。

迷図


 視覚が壁になる。
 イリヤの魔術により、俺の視覚は森を抜け、彼女が住んでいるという城へ飛んだ。
 体の感覚はあるが、体がない。俺はただ、視覚のみの状況になっている。
 豪奢な部屋に、二人のメイドの姿が見えた。イリヤの言っていた世話係なのだろう。二人して部屋の掃除をしている。
 ──否。一人が掃除している後を、もう一人がクッキーを食べながらついて歩いている。

「リーゼリット、先ほどから何をしているのですか」
 掃除をしていた方のメイドが、後からついてくる方に苛立たしげに問いかけた。それはそうだろう。後ろから歩いている彼女は何もしていない。何もしていないというか、掃除をした後にクッキーのかすが落ちている。
「権兵衛が種蒔きゃ、カラスがつっつく、という、言葉があるわ」
「それが何か?」
 つい、と、掃除をしていた方を指さした。
「セラが掃除すると」
 今度は自分を指し示し、
「わたしが散らかす」

 アイアンクロー炸裂。

「ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
 たっぷり10数えてから開放された。ううーと、こめかみを押さえてうずくまるリーゼリットとやら。
「まったく。今日も今日とてイリヤスフィール様の姿が見当たりませんし。どこをほっつき歩いていらっしゃるのでしょうか」
「ここは、遊べないから」
 よろよろと立ち上がるリーゼリット。こめかみはまだ痛いらしい。
「だからといってお一人で街になど出て行って、あやしげな集団にかどわかされて無理矢理地下流出物のビデオに出演させられて散々慰み者にされた挙句に魔術の実験台に売られたところがアインツベルンだったりしたらどうするのですか」
 おそろしく物騒な心配をしているセラ。
「そのときは、そのとき」
 うわ、最低な返答だ。
「というわけで、娯楽を、用意してみた」
 リーゼリットはそう言うと、がさごそと服のポケットから何やらボタンを取り出した。
「ぽちっとな」
 どこで覚えたのか知らないが純和風の掛け声と共にスイッチオン。同時に、部屋全体が小刻みに振動する。
 ういんういんういんと壁が開いていき、中から巨大なAVセットが出現した。
「い、いつの間にこんな物を……」
「徹夜した」
 徹夜した程度でできるものなのだろうか。それはともかく、出現したばかでかいテレビとDVDデッキは一級品だった。ソフトも山のようにある。なるほど、これならこの城にいても退屈はしないだろう。
 セラも驚いてはいるものの感心した様子でソフトを手にとって。

 ぴきっと音を出した。

「……リーゼリット、これは?」
「エロビデオ」

 絶頂期のハンセンを彷彿とさせるウェスタンラリアットが決まった。

 ぼよーんとベットの上で跳ねるリーゼリット。
「最近イリヤスフィール様の言動がたまにアブノーマルなのは貴女が原因かっ!?」
「だて、イリヤ、「女王様とお呼び」とか、似合いそうだもの」
「それはそうだけど」
 否定しないんかい。
「イリヤスフィール様は大切なお役目のある身なのですから、俗事に関わっている暇などありません」
 そうたしなめるセラをベットの上からぼけーっと眺めていたリーゼリットは、ふむ、と深く頷いた。
「さすが黒幕は、言う事が、違う」
「誰が黒幕か」
「昔から」
 ぴっと、人差し指を立てて。
「掃除が苦手な、メイドが、黒幕」
「そんな昔の事は忘れなさい。というか、掃除した後に散らかしてるのは貴女でしょう」
「あなたを、犯人です」
「いい度胸ね貴女」
 セラが盛大なため息をつく。
「……まったく、貴女と会話しても不毛な事この上ないわね」
「今頃、気付いたの?」
「……………………………」
「……………………………」

 セラが卍固めを極めているあたりで映像がとぎれた。
 
 

 視界が自分に戻る。
「ごくろうさま。どう、ちょっとした変身魔術だったでしょ、今の」
 目の前にはイリヤの顔……が、こええ。 
「あ、う」
「わたし、今日はちょっと用事を思い出したから、帰る」
「あー……バーサーカーは使わない方がいいんじゃないかな」
 そう説得するのが精一杯だった。


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