何よりもまず、本能が理解した。
──アレは、人間ではないと。
対峙する赤と青。双刀の赤い男が旋風なら、青い男は稲妻か。剣戟が大気を引き裂き、十合、百合、千合と打ち合っている。一撃ごとに必殺の重みを乗せたその連撃に魅入られる。
心が、体が、本能が、逃げろと言っている。では何がこの場に留まらせるのか。そう、俺はどうしても。どうしても突っ込まずにはいられなかった。
「何で両方とも虎竹刀なんだよ! つーか3本か!?」
今まさに双刀の──虎のストラップを付けた藤ねぇ愛用の虎竹刀を何故か2本もってる男にとんでもない魔力を込めた一撃を放とうとした、これまた何故か虎竹刀を持った男が振り返る。
当然逃げた。
で、追いつかれて虎竹刀でめった打ち。お前はどこぞの暴力教師か。というか、虎竹刀で殴り殺される俺の立場は。
俺をタコ殴りにして男は去り、瀕死の俺はもうダメかと思われたが、どういう訳か復活。
今日は展開早いぞ。みんなついて来い。
なんとか家に帰ったものの、止めを刺しそこなった事を悟った青い男は俺に家にまでやってきて、またもや俺を虎竹刀でぼっこぼこ。
今度こそダメだと思ったが、最後の一撃が放たれる前に、忽然と一人の少女が現れた。セイバーと名乗る少女は不可視の剣──剣だ、剣という事にしておけ──をもって男を撃退する。だが。
「……じゃあな。その心臓、貰い受ける──!」
「宝具!」
男の虎竹刀に恐るべき魔力が込められた。それは必滅の予感……いや、その必滅はもはや確定!
「──刺し穿つ 、死棘の竹刀 ──!」
「ルビ違うだろそれー!?」
俺の叫びも虚しく、その一撃はセイバーを捕らえる。致命傷はかろうじて避けたが、それでもセイバーの傷は深い。
「──躱したなセイバー。我が必殺の一撃 を」
「っ……!? 虎竹刀……御身はアイルランドの光の御子か──!」
「いや、虎竹刀は藤ねぇの」
「……ドジったぜ。コイツを出すからには必殺じゃなきゃヤバイってのにな」
俺の突っ込みはまるで無視か。
突如やる気を亡くしたランサーと呼ばれた男は、その身を翻し去って行く。ああ、もう何がなんだか。
そうして俺とセイバーは出会い、共に戦っていく事になったのだが。
「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」
「──お前もか」
イリヤと名乗る少女が連れたバーサーカーは巨大な虎竹刀を手に俺達に襲い掛かってきた。それに敢然と立ち向かうセイバー。墓地を完膚なきまでに破壊しながら展開するその戦闘は、アーチャーの放った虎竹刀の一撃により終結し──
……虎竹刀って、爆発するんだ。
「遠坂、危ない」
咄嗟に、遠坂の顔を庇う。その腕には、黒い虎竹刀が突き刺さっていた。
「…………」
痛みよりも驚愕よりも、まず呆れた。
取り乱すな遠坂。ここは突っ込む所だ。
幕間。
セイバーVS五尺の虎竹刀を持つアサシン。
「な────シロウ、令呪を──」
動きの止まったセイバーに、キャスターの持つ虎竹刀が突き刺さる。
鎧に刺さるなんて、随分鋭利な虎竹刀だ。
他の感想なんて持ってやるものか。
「解っているようだな。
俺と戦うという事は、虎竹刀の出来を競い合うという事だと」
「いや違うだろ」
幕間。
セイバーVSアサシン。
セイバーは風王結界を解き、その中から黄金の虎竹刀が現れた。
「──あんたは、あんただけはと信じてたのに……」
「何を言っている雑種」
英雄王の背後には、無数の竹刀の柄が浮かんでいる。全部虎のストラップ付き。
「ああ、もういいよ。付き合ってやるよ。やるよ。やればいいんだろこん畜生」
片手を空中に差し出す。
片目を瞑り、内面に心を飛ばす。
「────I am the bone of my bamboo sword .」
炎が走る。
燃え盛る火は壁となって境界を作り、世界を一変させる。
後には荒野。
無数の竹刀が乱立した、竹刀の丘だけが広がっていた。ちなみに全部虎のストラップ付き。
「行くぞ英雄王────竹刀の貯蔵は充分か」
「────はっ!?」
目が醒めた。見ればセイバーが、呆れたような、でも心配そうな顔で俺を覗き込んでいる。
「大丈夫ですか? シロウ」
ああ、そうだ。いつもの様に道場でセイバーにしごかれてたんだ。で、いつもの様にセイバーの一撃を食らって気絶。
気絶してる最中に相当ヤバ気な予知夢めいたモノを見たような気もするが、気のせいだ気のせい。気のせいなんだー!
「ああ、大丈夫だセイバー。で、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「? 何でしょう?」「……どうして、竹刀に虎のストラップが付いてるんだ?」