崩れる、崩れる、崩れる。
其処に在った物が崩れてていく。自分で在ったモノが崩れていく。
世界に否定され、毒の大気に苛まされ、得たいの知れない影に侵されて、桜は崩れていく。
古くはあるが贅を尽くしていたその城の内装は最早瓦礫と化し、少女の怒りをぶつけるだけの物体と成り果てていた。しかも、まるで役に立っていない。桜の苦しみは終わらない。終わる時はそう、彼女が間桐桜でなくなっている時だ。
「────さて、そろそろ頃合いかの、アレは。思いの外間桐桜で在り続けたが、あと一押しで肉の器に為り変わるじゃろうて」その声はマキリの魔術師たる間桐臓硯のものであった。その傍らにはサーヴァントたるアサシンの姿がある。
臓硯の不老不死を可能とする肉の器として、桜は最終段階になりつつある。
自らの勝利を確信する老魔術師に、アサシンは疑問を持つ。果たしてそううまくいくものか、と。ある意味アレと同種であるアサシンには、アレが人の、いやアレ以外の全ての……いや、アレ自身ですら制御など出来ないのではないかと。
彼の主は狂っていた。腐敗する肉体が魂をも腐らせた。だが、それを抜きにしても、この魔術師はおかしい。……痴呆症?
いやいやいやいや。そりゃ年齢3桁だけれども。
「ホホ、聞いたかアサシン! 助けてくださいお爺さま、と! よいぞよいぞ、その哀願、十一年前に還るようじゃ!」
「…………」
やはりボケか。いや、この老魔術師には苦悶にしか聞こえぬ娘の声が聞きとれるようであった。
「何? 蟲蟲Qとな!?」
ダメだ。ボケてる。
「問題。次のトンボのうち、一番小さいトンボはどれかな?1:カワトンボ
2:シオカラトンボ
3:ハッチョウトンボ……むむ。中々やりおるわい、桜」
さぁ、みんなも考えてみよう。
「……正解は、1のカワトンボじゃ!」
「ふせーいかーいっ!」
今度はアサシンにも聞こえた。聞こえたと同時に物質化した影が襲い掛かってくる。
「何で私まで!?」
ぶっ飛ぶ主従。
ちなみに正解は3のハッチョウトンボであった。全長は18ミリメートル程しかないそうだ。
だが、壁にめり込んでいるアサシンはそんな事知らなかった。
「く──もう1問、もう1問じゃ桜!」
懲りろよ魔術師殿。付き合ってられんとばかりに逃げようとしたが、むんずと掴まれた。
「一蓮托生」
「地獄に落ちろ魔術師殿」
階下では、ゆらゆらと影を纏わりつかせながら桜が暴れている。
「問題。次の蝶のうち、蝶の姿のまま越冬するのはどれかな?1:モンシロチョウ
2:キタテハ
3:アオスジアゲハ……桜、ワシを超えるか」
「知るかそんなの」みんなも考えてみよう。
「ワシを侮るでないぞ桜。正解は3のアオスジアゲハじゃ!」
「ふせーかーいっ!」
「またか!?」
影にボコボコにされる臓硯とアサシン。ちなみに正解は2のキタテハである。
ちょっと原形を止めてない臓硯が立ち上がる。その目は怒りに燃えていた。
「許さぬ、許さぬぞ桜。
────もう1問じゃ!」
最悪だ。
蟲蟲Qは、士郎たちがやってくるまで延々と続いたのであった。ちなみに全部不正解。