長かった冬が終わって、この街にも春がやってきたんだよ。待っていればいつかは春がやってくるように、長かったボクの夢も終わったんだよ。
ボクは今、自分の足でこの街に立ってる。自分の足でこの街を歩いてる。
いつものように学校へ行く祐一君を見つけて、ボクは自分の足で走り出した。
いつものように元気に挨拶して、いつものように一緒に学校に行こう。
「うぐぅっ」
……あれ?
「よぅ、あゆ」
祐一君はいつものように片手をあげた。ボクは挨拶しようとして、あれ?
「うぐぅ」
「なんだ? 今日は朝から絶好調だな」……うぐぅ。
なんでボク、「うぐぅ」しか言えないの!?「うぐっ! うぐぅ?」
「なんだお前は。うぐぅしか言えんのか」
こくこくうなずくボクから、祐一君はざざざっと離れた。
「これが伝説のうぐぅ病か。伝染しないだろうな?」
「うぐぅっ」
ひどいよ! 人が真剣に悩んでるのに!
「ま、それは冗談としてだ。あゆ、本当に他の言葉は言えないのか?」
「うぐぅ」
言おうとはしてるんだよ。でも、口から出るのはうぐぅばかり。
「朝からそんな常態か?」
「うぐぅ」
起きた時はどうだっただろう? よく憶えてないよ。気が付いたのは祐一君に挨拶したときだったけど。
って、なんで会話が成立してるの?
「そりゃ、俺はうぐぅ解読の第一人者だからな」
うぐぅ。喜ぶとこなのか怒るとこなのかわかんないよ。
「でも、よかったな」
「うぐ?」
「もし逆にうぐぅが言えなくなってたらお前、存在価値なくなってたもんな」
「うぐぅっ」
ボ、ボクの存在価値って、うぐぅだけなの!?
「大変だぞ。肉まんあぅーからあぅーを取ったらぴろが残るが、たいやきうぐぅからうぐぅを取ったら何も残らないからな」
「うぐぅ」
……結局真琴ちゃんも残らないの?
「しかしこれだけうぐぅが前面に出てくると、これはもうあゆじゃないよな。よし、お前は今日から月宮うぐぅだ。いや、月宮もいらない。お前はうぐぅだ。うぐぅになるんだ!」
そんな白いマットのジャングルで戦う人みたいなこと言われてもっう、うぐぅっ
……はっ
ボクはベットの上で目を覚ました。
……夢? 夢だったの?
よ、よかったよー。「うぐぅ」
…………。
「うぐぅっ!?」