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退魔装甲舞バニーV


 今日も俺達は、誰もいない校舎の中で二人きりの夜食をとっている。
 焼きおにぎりをもそもそ食っている舞になんとなく違和感をおぼえていた俺は、今やっとその正体に気が付いた。
 いつもは飾りっけの無い舞のしている腕時計。
 外見だけはクールビューティの舞にはあんまり似合っていない、ウサギの顔の形をしたファンシーなやつだ。
 もっとも、そんなことを言って舞にずんばらりんと真っ二つにされるほど俺は馬鹿じゃない。
「どうしたんだ? その腕時計」
「……佐祐理がくれた」
 なるほど、佐祐理さんの趣味ならなんとなく納得がいく。しかしなんでいきなり? 舞の誕生日かなにかだろうか?
「今日は舞の誕生日か?」
「違う。今日、やっと完成したからって」
 完成? 手作りなのか?
「危なくなったら顔を押すと、変身できる」
「ちょっと待て。変身てなんだ」
「知らない」
 まぁ、佐祐理さんなりの冗談なんだろう。なんだか、押すと取り返しのつかないことになりそうだが。

 ギシッ

 音がした。
 周囲の気温が下がったのは、俺の気のせいだろうか?
 焼きおにぎりを食べ終わった舞が剣を構える。間違い無い、『魔物』だ。
「下がってて」
 と言う舞の言葉に素直に従う。戦闘になれば、俺はお荷物でしかない。
 
 強い踏み込みの音と共に、舞が姿の見えない『魔物』の気配むかって大きく跳躍する。
 上段からの渾身の一撃は、しかしむなしくリノリウムの床に突き刺さっただけだった。
 着地と同時に再び跳躍。今まで舞がいた場所がえぐれる。
 
 空中にいた舞が突然はじき飛ばされた。
 2体いる!?

 俺のすぐ横の壁に、舞が背中から叩きつけられた。唯一の武器である舞の剣が、硬質な音をたてて床に転がる。
「舞っ 大丈夫か!?」
 息がつまってとっさに動けない舞を背中にかばう。
 俺は何も出来ないが、ここで逃げ出すほど恥知らずじゃない。
 背後から、舞の弱々しい声が聞こえた。
「……危なくなったら、顔を押す……」
「待てっ、それはなんだか押しちゃだめだ!」
 もう遅かった。
 ぽちっとな。

 しーん

 やっぱり冗談だったか。ちょっと安心したが、最悪の事態なのは間違い無い。
 『死』という言葉が頭に浮かぶ。
 まぁ、舞とかかわったんならそれも仕方が無いかな……
 『魔物』の足音が、ゆっくりとこちらに向かってくる。心臓が痛いくらいに鳴っている。
 もう、だめか。

「あはははははーっ!」
「何っ!?」

 突然の謎の(ていうか佐祐理さんの)笑い声がしたかと思うと、派手な音をたてて窓ガラスが周囲の壁ごとはじけとんだ。
 窓ガラスだけでも舞、停学のピンチなのにそれはまずいだろ!?
 
「ついに、この時がきてしまいましたね」
 噴煙の中から、声の主が姿をあらわす。
 突入時にどこかにぶつけたのだろう、頭からけっこうな量の血をまきちらしつつ笑う佐祐理さん。獏の模様のパジャマの上からはおった白衣と、ヒゲ付き鼻眼鏡が謎だ。
「佐祐理……」
 見上げる舞に佐祐理さんはちっちっちっと指を振る。
「舞、佐祐理は舞の親友の佐祐理ちゃんじゃありませんよ。佐祐理は愛と正義の天才科学者、倉田水博士です」
 ああ、それで。
 でも佐祐理さん、偽名使うならせめて1人称をなんとかしないと。
「佐祐理じゃないの?」
「そうですよー」
 舞!?
 お前はそんな奴だったのか!?
 耳を疑って舞を見た俺は、今度は目を疑った。

 舞の頭からウサギの耳が生えていたのだ。
 それだけじゃない。
 肘と膝、両肩には馬鹿でかいプロテクター。足には肉球をイメージさせるこれまたでかいブーツ。腰には丸い尻尾、背中には大砲なんかが付いてたりする。

「こ、これは……」
「これぞっ 舞専用強化装甲『舞バニーV』ですよーっ」
 ぶいっ とピースサインを出す佐祐理さん。めちゃめちゃ嬉しそう。
「舞! お前はそれでいいのか! なんか間違ってると思わないのか!?」
「うさぎさんは嫌いじゃないから」
「そういう問題じゃないっ」
「祐一さんはこういうのお嫌いですか?」
「そりゃちょっと好きだけど! だいたい佐祐理さん、こんなのどうやって作ったんだよ?」
「佐祐理は佐祐理ちゃんじゃなくて倉田水博士ですよ」
 佐祐理さん、ちょっと不満そう。しょせん鼻眼鏡だが。
「世界平和のために使われるさゆ……『倉田水資金』は国家予算に含まれているんですよ。それで」
「税金でつくったんか!」
 嘘だそんなの。
 でも佐祐理さん、真面目な顔してるし。
「さあ舞。なんだかよくわからないですけど、この『舞バニーV』でピンチを脱出しちゃいなさい!」
 佐祐理さん、事態は把握していなかったのか。
「でも、どうしたら」
「『舞バニーV』は音声入力方式を採用していますから、大丈夫ですよー。佐祐理の後に続けて言ってね。『ぴょんぴょこうさぎさんキャノン』!」
「ぴょんぴょこうさぎさんきゃのん」
 やる気のまるで感じられない舞の声と共に、背中の大砲が火を吹いた。
 耳をつんざく大轟音。
 目の前にあった教室が吹き飛んだ。
 そう言えば『魔物』は?
「気配が消えてる」
「あははーっ どうやら佐祐理たちの勝利のようですねーっ」
 舞の手を取っておおはしゃぎの佐祐理さんを横目に、俺はなんだかものすごい脱力感に襲われていた。
 ……明日、学校あるかな?
 
 

 と思ったら、次の日には学校元通りに戻ってやんの。
 『倉田水資金』という単語がふと頭に浮かんだが、深く考えないことにした。


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