目をさました場所は、コンクリートが剥き出しの狭い部屋だった。
蛍光灯の明かりが、あたりを薄暗く照らしている。
「ここは……」
立ちあがろうとして、自分がパイプ椅子に縛り付けられていることに気が付いた。
意識が朦朧としていて、記憶がはっきりしない。朝、会社に行くために家を出たところまでは憶えているのだが。
「目がさめたようだね」
部屋に一つしかないドアが開いて、初老の男が中に入ってきた。白衣を着ている。医者なのかもしれない。目つきは鋭くて、あまりいい印象を与えない。
「あ、あなたは?」
「わしのことなど、どうでもいいのだ。聞いたところで何がどうなるでもない」
「私はどうしてこんな所に?」
「何、ちょっとわしの実験に付き合ってもらおうと思ってね」
その言葉を合図に、部屋の中に何人かの白衣の男たちが入ってきた。小さなテーブルを持ちこみ、その上に2枚の皿を置く。
「もしわしの実験を快く引き受けてくれたなら、実験後に君の家まで送り届けよう。なんなら金を出してやってもいい。だが、もし断るなら……」
「あなたっ!」
「お、お父さん。怖いよぅ……」
「妙子! しのぶ!?」
妻と、中学二年生になる娘が連れてこられた。二人とも後ろ手に縛られていた。
「奥さんとお嬢さんが、とても恥ずかしくてむごたらしい目にあいながら死んでいくことになる」
男たちの幾人かが、下卑た薄ら笑いを浮かべた。
「あ、あんたたちっ 何をしているのがわかっているのか!?」
「もちろん。だが、こうするしかないのだよ」
落ち着き払った声で、男が言った。
「どうしても知りたいのだ。あれを完成させるのに長い年月をかけてしまったが、その苦労も報われる。大丈夫、君がおとなしくわしの実験につきあってくれれば、誰も傷つかない。……用意しろ」
新しい男が入ってくる。手にはなぜか炊飯ジャーがあった。
2枚の皿の上に、ライスが盛られた。
続いて2つの鍋からライスの上にカレーを盛っていく。
カレーライスだった。「さて、君にはこの2つのうちどちらかを食べてもらう。どちらを選ぶかは、君の自由だ」
男の声は、心なしか震えていた。
皿の前にフリップが置かれる。
「1つはカレー味のうんこ。もう1つはうんこ味のカレーだ。さぁ、どちらを選ぶ?」
「どっちもヤだ」
言葉と同時に、轟音が部屋に響いた。
しのぶのおさげが1つはじけとんだ。
ショックのあまり失神してしまうしのぶ。
「君は、耳と頭のどちらが悪いのかね?」
拳銃を懐にしまいながら、男が振りかえる。
「わしはどちらか選べと言ったのだ。娘さんはショートカットもなかなか似合うようだが、頭に風穴が開いても君は彼女を愛せるかね?」
「わ、わかった。食べる、食べるからっ 妻と娘に手を出さないでくれ!」
「あなた……」
妙子が泣いている。
男は満足そうにうなずいた。
「わかればよろしい。さぁ、どちらを選ぶ?」「わ、私は……」